第30話 魔導忍者は受付嬢とデートする

雷蔵、白玲、イデア、ジスレア、クリスの5人は、ジスレア、クリスの歓迎会兼『試練の洞窟』を攻略達成を祝って豪華なディナーと洒落込んでいた




「坊や、それでこれからはどうするのさ?」


がっつり肉料理を頬張りながらイデアが訊いてくる


「しばらくここを拠点にしていくつかのクエストをこなそうと思っている」


これは、現在のパーティーの実力を正確に測る為と、信用に値する者たちであるか判断するためだ


雷蔵が彼女たちの実力を認め、信頼に足る人物であると判断した時、自分の秘密そして使命をみんなに話そうと考えていた


「ともかく 明日は、ゆっくり休日を楽しもう」


「「「「了解(ですぅ)!」」」」




雷蔵は部屋に戻ると、26代目に定期連絡を入れる


「と言う訳で、しばらく彼女たちを観察して信用できるようであれば秘密を打ち明けようと思う」


「いやぁ これほど早く候補者が揃うとは思っていなかったよ」


「ダンジョンマスターにまでなっちゃうしねぇ」


一見、雷蔵をからかうように言っているが、26代目は嬉しそうだった


「まだ、秘密を打ち明けるに値する者たちであるとは限らないがな」


と言いつつも雷蔵は彼女たちを既に認めている節がある


「秘密を打ち明けた時、抜ける者も出てくる可能性はある」




「ダンジョンマスターになる事は想定外だったが」


「そのおかげで存在力を効率よく手に入れることが出来るかもしれん」


「それは興味深いね 話は後日ゆっくりするとして」


「何はともあれお疲れさま」


定時連絡を終え、ベッドに横になる雷蔵


明日は、午後からだがイェニーナとの食事をする約束をしている


どんな時どのような場所でも眠れる訓練をしているはずの忍び


だが、初デートにそわそわして眠れない雷蔵なのであった




午前中は、朝食後、特に用事もないので、女子たちの買い物に付き合うことになった


『試練の洞窟』での魔物の討伐報酬であるが、ボス部屋で倒したものは報告していない


報酬がもらえなくなってしまうが、話が面倒な方向に進む可能性が高い


ただ、道中遭遇した魔物の討伐報酬と、宝箱から出てきた宝石を換金すると、かなりの報酬になった


宝石の一部は、女子たちがアクセサリーを作りたいとせがむので換金せずに、それぞれが気に入った宝石を分配した


実入りが良くなったので、買い物の量もそれに比例して多くなったが、雷蔵には『亜空間収納』という武器があったので、ほぼ手ぶらで歩くことが出来た




前回立ち寄った装飾店にも立ち寄る、そう言えば、出会ったばかりのクリスにはイヤリングをプレゼントしていなかったので、お揃いのデザインで、サファイヤをあしらったものをプレゼントしたところ


「いいんですかぁ? すごくうれしいですぅ!」と言って腕に抱き着いてきた


柔らかな感触を、ポーカーフェイスを保ちつつ堪能する雷蔵




女子たちは、持ち込んだ宝石でネックレスを作ってもらうことにしたようだ


それぞれの職種に合わせた補助魔法を付与してもらうため、結構なお値段になったが先行投資と思う事にする




買い物がひと段落すると、ちょうどお昼時だったので、ランチタイムとなる


ここでも、結構な出費だったのは言うまでもない


ジスレアとクリスが普通の食欲の持ち主であったのが判明し、一安心する雷蔵


午後からも、女子たちの買い物は続いた


並の体力であれば、とてもついていけなかったであろう


(魔造人間でよかった)


心からそう思う雷蔵であった




夕方になると雷蔵は


「俺はこれから少し用事がある」


「夕食は適当に食べてくれ」


と、食事代が入った革袋をイデアに渡し、そそくさと去っていく


「「「「何だか怪しい!」」」」


と思う女子たちであったが、今日一日歩きっぱなしで、高まった食欲には抗えなかった




「待たせたか?」


「いえ、さっき来たばかりです」


何だか恋人同士のデートのようなセリフ


「じゃあ行こうか?」


「はい!」


いやはっきり言ってデートであった




「このお店前から来たかったんです!」


「でも高級すぎて、来たことがなかったのでうれしい」


そう言ってほほ笑む今日のイェニーナは格別に綺麗だった


心なしか化粧も気合が入っている気がする


「俺も初めての店なんだが、喜んでもらえてよかった」




店内は落ち着いた雰囲気で高級感にあふれている


料理もこの町の食事処でも珍しい、前菜からスープにメインの肉料理、デザートで〆るコース形式だった


ワインも一級品を揃えており、大変美味だった


冒険者ギルドの受付嬢と言えば、花形職であり、給料もなかなか高額と訊く


それでも敷居が高いというが、料理の味もさることながら


イェニーナとの会話も楽しい者であったしその笑顔が見られた


それだけで価値は十分にあった


来てよかったと雷蔵は思う




食事の間、何を話せばいいのだろう?


口下手な雷蔵は前夜から悩んでいたが、その心配は必要なかった


イェニーナの方から、いろんな話題を振ってくれるからだ


話がひと段落


雷蔵が不意に


「イェニーナに、これを受け取ってほしい」


と小さな箱を差し出した


このタイミングで出てくる小箱


そしてこのセリフ


(もしかしてこれは!? でも出会ってまだ日が浅いし いきなり過ぎて、さすがに困るわ)


イェニーナはそう思いながらも、少し期待してしまった


有無を言わせず、雷蔵が箱のふたを開ける


シンプルではあるが見るからに逸品であると分かる腕輪が入っていた


期待は外れたが、腕輪はイェニーナの好みにあったものであり


なにより雷蔵の気持ちが嬉しかった




腕輪には赤い宝石がはめ込まれていた


「魔力結晶ですか、という事は何らかの魔道具?」


「俺は、将来『国』を作ろうと思っている」


プロポーズと思っていたら唐突に、壮大なスケールの話が始まる


「『国』ですか?」


彼以外の冒険者のセリフであれば、何の冗談かと笑い話になるところ


だが雷蔵が言えば話は変わる


これまでに彼が成し遂げたこと


登録した初日に熟練の冒険者3人を一瞬で無力化


ゴブリンの集落を独りで壊滅


一気にCランクまで上り詰め


試練の洞窟を一日で攻略してしまう


規格外の冒険者


そして、普段は無表情のこの男が、珍しく熱く語るのだ


冗談だとは到底思えない




「これは、俺だけじゃなく、俺と友、その仲間たちの願いでもある」


「この世界では、人以外の種族は亜人と呼ばれ虐げられている」


「弱きものは奴隷にされて、過酷な労働を強いられ、欲望や暴力のはけ口にされている」


「重税に苦しむ村人たちは、明日の食べ物さえままならずに苦しんでいる」


「この世界は不条理で成り立っている」


「俺は、その不条理に抗う力のない者たちが安心して暮らせるような国を作る」


作りたいではなく、作ると言い切っている


もはや、雷蔵の中で国造りは夢ではない




「そんな『国』が出来るとすれば、素晴らしいことですね」


「でも、簡単にできることではありませんよ」


如何に雷蔵の力が大きくても、国を作るのは容易ではない


イェニーナは、諭すようにそう言った


「分かっているでも、やり遂げなければならない」


雷蔵には、さらに大きな目標がある


国を作る程度で躓いていては到底成し遂げられない


それほどに大きな目標が


「国を作るには、大きな力と、仲間がいる」


「幸い仲間は揃いつつある」


「俺が力を手に入れた時、それを利用しようとする者たちが必ず現れるだろう」


「そう言った者たちの中は、俺に関係する人たちを利用しようとしてくるものもいるだろう」


「俺は、俺にかかわった人たち全てが大事だ すべての人を守りたい」




「その中でも、イェニーナは特別なんだ」


「私がライゾーさんにとって特別な存在?」


「うまく言葉にできないが、確かに他の者たちとは違った思い入れがある」


「もしイェニーナが危険な目に遭いそうになったら、俺の名呼んでくれ」


「その魔道具が俺にイェニーナの危機を知らせてくれるようになっている」


「どこにいても、必ず助けに行く!」




そう言うと雷蔵は、ワインを一気に煽った、興奮を冷ますかのように


「何だか俺の気持ちを押し付けてしまったな」


「迷惑じゃないか?」


彼には珍しく焦った表情で雷蔵はイェニーナを見つめる


「迷惑だなんて!」


「ライゾーさんが私を特別な存在だと思ってくれているんですもの」


「嬉しいに決まっているじゃないですか!」


頬を赤く染めてほほ笑むイェニーナは、今まで見た中で一番美しかった



「そうか、それならよかった」


ホッとした表情を浮かべる雷蔵




それからも、話題は変わったが、話は弾み、楽しい夜は更けていくのだった



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