第11話 魔導忍者は冒険者になる
「準備はこんなものでしょうか」
26代目は、目下雷蔵が冒険登録の為のお出かけセットを用意していた
「防具よし!武器よし!携帯食よし!各種ポーションよし!おやつはは300円まで!バナナはおやつに入りませんっ!」
最後の方は意味が分からないが、こういう時の『お約束』なんだろうと雷蔵は自分を納得させる
「いろいろ面倒をかけるな」
雷蔵は頭を下げる
「いやぁ、私も冒険者には憧れてましたからねぇ」
「まるで自分の事のように興奮しますよぉ! ふふふ」
防具は、鎧下の上に皮鎧一式、武器は、刃渡りが少し長めの短刀と、どちらも初心者でも何とか入手できる品質のものだった
携帯食とポーションを腰のポーチに入れる
使うことはないと思うが、手ぶらを言うわけにはいかないので持って行けと言われたものだ
所持金は銀貨が50枚に銅貨が50枚
安い宿で一日食事込みで銀貨3枚かかるらしく、これで半月は滞在できる
「それで、どの町で登録するかは決めています?」
「ああ、レスラトガと言う街にしようと思っている」
レスラトガとは、グーベルク王国の南に位置する、強力な魔物が跳梁跋扈する魔境の森に隣接した所謂、辺境の街だ
辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガが収めている
領主の家柄である、レストラガ家の名前がそのまま町の名前となっている
「では、転移の準備をしましょう」
「バベル 転送地点周囲の状況を確認してください」
「確認しました 転送地点周囲に生命の反応はありません」
「では雷蔵の転送をお願いします」
「了解しました」
「では行ってくる」
雷蔵の足元に魔法陣が現れ彼の姿が忽然と消える
再び雷蔵が姿を現したのは件の街の外れにある、人気のない森の中
もともと魔境の森の一部ではあるが、徘徊している魔物もそれほど強くはなく、冒険者たちが、討伐依頼で森に入る際に、頻繁に討伐されてしまうために滅多に遭遇することはない
深呼吸してみる、呼吸に問題はない、森が近く、建物の外という事もあって開放感がある
雷蔵は、生まれ変わってから、初めての外出にもかかわらず緊張感はない
むしろ久しぶりの外出を楽しんでいる素振りすらある
少し歩くと、農民たちが、作物を世話している光景が目に入る
畑の周りには比較的強固な柵が設けられて、一定距離で篝火も用意されており、物見やぐらが建てられている
昼夜交代で見張りを立て、魔物や、不心得者から作物を守るためだろう
それを横目にしばらく歩くと、町の城壁が見えてくる
レスラトガの城壁は、辺境の町に魔物の襲撃に備える為に、王都周辺にあるような町よりも強固に作られているらしい
雷蔵の前世では城壁は城や砦の周囲に気付かれるのが常識であった
街全体を囲む強固な壁は違和感があるが、人とは違い、兵士も市民も見境なく襲う魔物の襲来を考えると至極当然の備えだと考えを改める
門前に到着すると、門番らしき兵士から話しかけられる
「見慣れない顔だな、この街に来るのは初めてか」
「そうだ、ヤマトの国から流れてきた、冒険者の登録をしようと思っている」
「それなら、今回は入場税が必要だ、銅貨六枚だせるか?」
「ああ、これでいいか」
「うむ、では、改めてレスラトガの町にようこそ!」
「冒険者ギルドは、門をくぐって通りを真っ直ぐ歩いていくと剣と盾が刻まれた看板がある建物が見えてくるすぐにわかるはずだ」
「晴れて冒険者になれば、町への入場税は免除されるぞ」
笑顔で親指を立てて破顔する兵士に、挨拶の一種と判断して、同じく笑顔とサムズアップで返し、門をくぐる
表情筋の活動が乏しい雷蔵が笑顔を浮かべたと兵士が気づいたかは不明だが
事前に調べた通り、この街は善良な人間が多いらしい、もちろん裏の顔と言うのもあるのだろうが
通りにはいろんな露店が立ち並び、様々な品物が所狭しと並べられている
呼び込みの声であったり、値段の交渉の声であったりと活気がある
しばらく通りを歩くと、兵士の説明してくれた通り、剣と盾の看板がある建物が見えてきた
扉を開けて中に入る
一通り首位を見渡す、間取りも事前に入手した情報通りだ
受付のカウンターの隣には、クエストの依頼が張り出された掲示板、広くはないが、酒場も併設されている
テーブルには冒険者が何組か座っており、こちらを値踏みするような視線を感じる
雷蔵は、装備はごく普通だったが、身体的な特徴が周りと違っていたため、かなり浮いていた
ヨーロッパ系の民族の子孫たちが建国したこの国の人々の特徴に比べ、雷蔵は東洋系の民族の特徴、黒髪に黒瞳だったからだ
「あなたも、私と同じイレギュラーな外見をしていますねぇ」
「おそらく、インストールされた魂の影響で、前世の姿が反映されたのでしょう」
転生して、しばらくして26代目にそう言われたのを思い出す
その為に、登録時の言い訳も考えてあるのだ
受付のカウンターに向かう
「冒険者ギルド レスラトガ支部へようこそ 本日はどのようなご用件でしょうか?」
にっこりと微笑みを浮かべて丁寧にあいさつしてくる
しっかりと手入れの行き届いた艶のある金髪に、奇麗に澄んだ青色の瞳、透き通るような白い肌
(俺の国の女達とは違った美しさだな)
「ギルドへの登録をしたい」
全く顔には出ていないが、結構緊張していた
ちなみに名前はイェニーナさんと言うそうだ
挨拶の際に、名乗ったので判明しただけだ
「君はとても美しい!名前を訊いてもいいかい?」
などと口説いたりできるはずがない、雷蔵はチェリーボーイなのだ
凄腕の忍びのはずなのに
「ではこちらの書類に、記入をお願いします」
「代筆は必要ですか?」
「いや、必要ない」
ちなみに言語であるが、この世界では、エスペラーン語と言う共通言語を話す
エルフやドワーフと獣人達そして魔族は独自の言語を話す
ちなみに雷蔵は、記憶継承の儀によって、この世界にあるほとんどの言語で会話、読み書きできる
記入項目は以下の通りだ
名前・出身地・年齢・職業・使用武器・得意技能(索敵や使用できる魔法、剣術の流派など)
「最低、お名前と出身地と職業だけでも結構です」
「了解した」
予め、26代目と相談して、決めていた設定を書き込んでいく
「お名前はライゾーさん、出身地はヤマトの国、年齢は18歳ですかお若く見えますね」
「ああ、国柄で他国のものより、若く見えるらしいな」
「職業は盗賊、使用武器は短剣、得意技能は索敵に斥候ですね」
「問題ないか?」
「はい、記入いただいた内容で問題はありません」
「カードの発行に微量ですが血が必要となります」
「専用の魔道具で採取いたしします、ほとんど無痛ですのでご安心ください」
元ホムンクルスで、現在魔造人間の雷蔵くんの血液は採取されちゃっても、大丈夫なの?と思われるかもしれない
ホウンクルスの血液は人と変わらない成分で出来ており、魔造人間になった後も、生体部分に変質することなく流れているため、全く問題ない
「では、冒険者カードを発行してまいりますので、少々お待ちください」
かなり待たされることを覚悟したが、イェニーナはわずか数分で戻ってきた
「お待たせいたしました」
「こちらが冒険者カードにになります」
「ライゾーさんの現在のランクはGランクとなります」
「冒険者のランク、規則などの説明は必要でしょうか?」
「いや、知り合いの冒険者に聞いて知っているから、必要ない」
「依頼は受注はされますか、よろしければ、適当な依頼を見繕ってまいりますが」
「ああ、頼む」
今回も、ほとんど待たされることは無く、ライゾーが受けられる、おすすめの依頼を数件分紹介してくれた
(この女、出来る・・・)
雷蔵のイェニーナに対する評価は、うなぎのぼりだ
「一度に受けられる依頼は2件までです」
「期日までに完了しない場合、違約金が発生しますのでご注意ください」
「では、この薬草の採取と、ゴブリン討伐の依頼の受注を頼む」
「かしこまりました」
彼女は流れるような動きで手続きを済ませてくれた
「依頼の受注の手続きを完了いたしました」
「感謝する」
「出来れば、今日はこのまま宿に泊まって依頼は明日からにしようと思うんだが」
「おすすめの宿はないだとうか?」
「それでしたら・・・」
風見鶏亭と言う、宿を紹介してくれた、素泊まりで銀貨二枚、食事は一色につき銅貨20枚飲み物はワインが一杯銅貨10枚と値段は標準の宿屋だが、「料理はおいしいですよ」と勧めてくれた
(彼女の勧めだ 行かない手はない)
「色々と世話になった」
「本日はご利用ありがとうございました」
「またのお越しをお待ちしておりますね」
登録から、依頼の受注まで滞りなく完了して大満足な雷蔵
笑顔で手を振ってくれる、イェニーナに礼を告げ
宿屋に向かうべく、出口へと向かうが
「おい小僧!ちょっとまてや~!」
酒場の方から、ご指名声がかかる
(来たか? これが、『てんぷれ』と言うやつだな)
以外にもテンプレも想定内だった雷蔵
もちろん冒険者に憧れ、いろいろと研究していたと言う、26代目の入れ知恵だ
この状況を、いかにして切り抜けるのか
それは次回の講釈で
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