第12話 魔導忍者はテンプレと遭遇する

「俺に何か用か?」


雷蔵は声のする方に、顔を向け問いかける


酒場の方から、男が三人こちらに向かってゆっくりと迫ってくる


わざと威圧を放ちながら、相手の恐怖心を煽るようにゆっくりと歩いくる


相当、場慣れしているようだ


筋骨隆々、ゴリマッチョ系の強面冒険者たちである


その凶悪な顔立ちは、本職の(悪い方の)盗賊にしか見えない


もし、一般市民がこの3人と遭遇してしまったら、死を覚悟してしまうレベルだ




3人のうちのリーダー格らしき男が絡んできた


「おいコラっ! 新人が、先輩冒険者に挨拶もなしか エエ?」


この理不尽な言いがかりに対し雷蔵は


「そうか、そう言う習わしがあったとは知らなかった」


「新しく冒険者になったライゾーだ 職業は盗賊 よろしく頼む」


そう言って、お辞儀をする


それは見事なお辞儀だ


一切のブレがない直立からのお辞儀の角度、タイミング


頭を下げてから元の姿勢に戻るまでの淀みのない動き


マナー講習の講師がみたら、絶賛すること間違いなしなお辞儀だった




「ああ、これはご丁寧に・・・ってなめてんのかテメー!」


絡んできた相手が、思わず挨拶を返してしまう


それ程の見事なお辞儀だったのだ


途中で自分の目的を思い出したリーダー格の男を褒めるべきか


「いや 至って真面目だが?」


そうです、そうなんです、雷蔵君はいつも真面目です


彼は不器用な忍びじゃけん




「こ、ここまでコケにされたら、ただでは済まされねぇ!なぁそうだろうお前ら?」


「「もちろんですよ兄貴!」」


大根役者の棒読みのセリフよろしく、3人は一斉に武器を構える


ギルド施設内での武器の使用は、ギルド登録抹消ものの重罪のはず




雷蔵は、カウンターの受付嬢に目を向けるが、すました顔でこちらを見守っている


(なるほどな)


雷蔵は何やら合点がいった様子


そう、不器用なハズなのに、何故かこういった場の空気が読める雷蔵


そして、次の行動を即座に決定した


「武器を抜いたという事は、俺に対して攻撃の意思があると判断していいって事だな?」


「じゃあ、こちらもそれ相応の対応をしないといけないな」




「おう、俺たち闘ろうってのか?上等だぁ、行くぞお前らぁ!って、あれ? あいつどこ行った?」


さっきまで目の前にいた、新人の姿が掻き消えるように見えなくなる


「おい ここだ」


背後からから声が聞こえる


「なにぃ!?」


振り向こうとしたが、それは叶わず


雷蔵に首の根元を手刀でトンと軽く打たれた瞬間、リーダー格の男は床にガクリと崩れ落ちる


白目をむいている


どうやら気絶しているようだ




「てめぇ兄貴に何しやがった!?」


子分Aの問いかけに雷蔵は


「ああ まずは、気配を消して、素早く相手の視界の外へ移動する」


真面目に説明していた


どうやら律義に説明しながら、実演しようとしているようだ


雷蔵の説明を、「ほぉ」「なるほど」などと相槌を打ちつつ、真面目に聞いていた子分Aは、リーダーと同じく雷蔵の姿を見失う


「で、背後を取った後に、これだ」


(これって何だよ?)


と心の中で突っ込む子分A


心の声は届かず、『これ』の説明はなく、首をトンとやられ、糸が切れたようにカクンと崩れ落ちる




「てめぇ二人に何しやがった!? 」


「いや 今説明していただろう?」


「じゃぁ、もう一回最初から説明するぞ?」


もう一度説明してくれるようだ


「まず気配を消してから、相手の視覚の外にすばやく移動する」


「ほぉ」「なるほど!」と素直に話を聞きつつ、真剣な顔で相槌を打つ子分B


素直なのは良いことだが、やはり雷蔵を見失う


「で、これだ」


(これって何だよ!?)


心の中で同じツッコミを入れる・・・さすが同じ親分を持つ子分同士


その末路も同じだった


ちなみに、『これ』の正体は、首筋に手刀を軽く当てる際に、相手の気の流れを断ち気絶させる不殺の忍術:絶気(ゼッキ)




白目をむいて床に崩れ落ちた、人相が極悪なゴリマッチョ冒険者たち


それを見下ろしながら


「うん 3度目は上手く決まったな」


と一人で技の決まり具合を分析していた


その姿を見て、酒場にいた、他の冒険者が慌てだす


「もしかして、死んじまったのか!?」


「いや 死んではいない」


「気を失っているだけだ」


他人事のように、無表情で答える雷蔵




おもむろにリーダー格の男に近寄り、肩をつかんで、軽々と持ち上げる


身長180センチの平均体重は70キロだがこの筋肉量だと90キロはありそうだ


装備の重さも加えると120キロはある男を軽々と持ち上げる、見かけ15歳くらいの少年


その光景はシュール過ぎる


魔力を感知できるものがいれば、身体強化していないことにも驚いたことだろう




両手から男に気を送り込み、覚醒を促す


ケガはないと思うが、あった場合何かと面倒なので、命精活性の術も施しておいた


命精活性の術とは、自然治癒力を気の力で高める事によって傷を癒す秘術


「ん? ここは?」


目を覚ましたが、事態が飲み込めず


あたりをきょろきょろ見渡すリーダー格の男


それを無視して、同じように子分A、子分Bにも同じ処置を施す


程なくして二人も意識を取り戻した




「これで、この街の冒険者として 俺の実力は認めてもらえたのか?」


雷蔵の視線は3人の男たちではなく、イェニーナに向けられていた


「試したりして申し訳ありません」


「ライゾーさんの実力はこの街の冒険者として十分に通用するものです」


「そうか、それならよかった」


そして、3人の男たちの方に振り返る


「3人とも冒険者として貴重な経験をさせてもらったありがとう」


そして、丁寧にお辞儀をする


そこには、侮辱ではなく、相手に対する純粋な感謝が感じられた




「いやぁ、俺たちの方こそ試したりして悪かったな」


申し訳なさそうに謝罪してくるリーダー格の男


「ほら俺たちってこういう顔つきだろ?」


「こういう事に適役だって言われちまってなぁ」


「それは その通りだな」


真顔で答える雷蔵 


それはちょっと酷いと思う


「自分でも自覚はしてるんだが、改めて言われるとキツイぜぇ・・・」


「冗談だ」


雷蔵が冗談!?


驚いてリーダー格の男が彼を見ると、雷蔵は微笑んでいた


子供がいたずらした時のような無邪気な笑顔


その場にいた、みんなが思わず笑顔になるような、そんな笑顔だった




「それにしても おめぇさんすげえ技もってるな!」


照れ隠しのように雷蔵の技を褒めるリーダー格の男


「おう、みんな! 今日は俺のおごりだ!」


「期待の新人の歓迎会としゃれこもうじゃねぇか!」


リーダー格の男:ヴィルクスは盗賊の親玉が浮かべるような笑顔で、冒険者達に呼びかける


ちなみに子分Aの名はヨルン、子分Bはヨルク、二人は双子の兄弟だった


「「「やったぜ、今日は飲むぞぉ!!!」」」


他の冒険者たちも、乗っかってくる




「あの技、どうやるんだ?」


「今度俺にも教えてくれ!」


「あんたかわいい顔してるじゃないか お姉さんが優しくして あ・げ・る!」


「おめぇみたいな筋肉女に優しくされたら、圧死しちまうぜ」


「その前にあんたを圧死してやろうか?」



ヴィルクスの掛け声で、俄かに賑わう酒場


この街の冒険者の明るい気質を現しているようだ


(この街に決めてよかったな)



雷蔵は、冒険者たちに、もみくちゃにされながら、そう思うのだった


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