第13話 魔導忍者は決戦兵器を手に入れる
結局、雷蔵の歓迎会と称した宴会は夜まで続き、多くのものは、そのままつぶれて酒場のテーブルに突っ伏したり、床に寝転がって寝ていた
「歓迎会を開いてくれて感謝する」
ヴィルクスに礼を言うと
「なぁに おめぇが気に入ったから、一緒に飲みたかっただけだぜ」
ヴィルクスは少し照れながらそう言った
「だがなライゾー おめぇは実力は全く心配ねぇようだが、冒険者ってのは腕っぷしだけじゃあやっていけねぇ」
「分からないことがあったら何でも聞けよ」
彼なりの優しさを感じて、それをとても嬉しく思う
「ああ その時は、よろしく頼む」
冒険者ギルドを出て、宿屋を目指す、雷蔵もかなりの量を飲んだが、今は全くの素面だ
魔導骨格の機能で、瞬時にアルコールを分解したのだ
しばらく歩くと、宿屋:風見鶏亭にたどり着く
イェニーナに勧められた宿だ
入り口をくぐると、女将らしき女が声をかけてきた
おそらく50代くらい
恰幅のいい、さすが海千山千の冒険者たちを相手に長年商売をしているだけあって肝の座った女性だ
決して丁寧とは言えない物言いだが、不思議と聞いていて悪い気はしない
「風見鶏亭へようこそ」
「泊まりかい、それとも食事かい?」
「取りあえず、一週間泊まりたいんだが、部屋は空いてるか」
「部屋は空いてるよ」
「一泊銀貨二枚、食事は一色銅貨20枚 飲み物はエールが一杯銅貨10枚だよ」
「食事はどうする」
「さんざん飲み食いしてきた 部屋で休みたいんだが」
「じゃあ、一週間で銀貨14枚、前払いだよ」
金を支払い、部屋へ案内される
「じゃあごゆっくり」
そう言って女将は戻っていった
部屋に入って、ベッドに腰かける
この宿は老舗だけあって、部屋自体も調度品も使い込まれている
しかし、掃除が行き届いていて清潔感があるため居心地はいい
ふと転生前の我が家を思い出す
ぼろ屋ではあったが、妻が何時もきれいにしてくれていた
忍び働きから戻ると「おかえりなさい」と子供達と一緒に出迎えてくれた
殺伐とした忍びの世界で、唯一癒される場所だった
しんみりとした感情を振り払い、その場に誰かがいるかのように話しかける
『イブ』
『はいマスター』
『バベルと話せるか?』
『はい 只今バベルにお繋ぎします』
『ライゾー様 ご無事で何よりです』
『ああ 何とか冒険者になれた』
『26代目はいるか?』
『はい、26代目にお繋ぎいたします』
『・・・ライゾー? 冒険者ギルドどうだった!?』
26代目は興奮気味に聞いてくる
冒険者にあこがれていると言うのはどうやら本当のようだ
雷蔵は、冒険者ギルドでの話を、詳しく話して聞かせる
『賢者の塔』の主、賢者となった雷蔵は、塔の機能を制御する人工精霊『バベル』と精霊の契約を交わしている
契約により魂の回廊で繋がったバベルとは念話で会話が可能となり、この世界のどこに居ようとも『賢者の塔』と連絡が取れる
『おお!やっぱり「てんんぷれ」起きたんだね』
『でも、『決戦兵器』のお披露目が無かったのが残念だねぇ』
『いやぁ、あれを冒険者ギルドの中で使ったらさすがに目立ちすぎる』
『決戦兵器』
雷蔵がイブと呼ばれる人工精霊と合わせて、それを手にしたのは、彼が『賢者の塔』から出発する直前の事だった
「初心者が冒険者ギルドに登録に行くと『テンプレ』と言うイベントが発生するらしいんだよ!」
まるで自分がこれから冒険者になるかのように語る26代目
「『テンプレ』?なんだそれは?」
「なんでも、ほぼ100%の確率で、ガラの悪い冒険者に絡まれると言う、楽しいイベントらしいよぉ」
「全く楽しい部分が、見当たらないんだが?」
「何でだよ!ガラの悪い冒険者に囲まれ大ピンチ!」
「しか~し! そこで、謎の新人冒険者が、真の実力を発揮する!って男の浪漫じゃないか!」
「いや、よく分からない」
この時の雷蔵には、まだ男の浪漫は通じなかった・・・
「テンプレはまぁ ライゾーなら大丈夫として」
「クエストで、強力な魔物が出ないとも限らないんだよね」
「いや、登録したばかりの冒険者に、危険な依頼なんてないと思うが」
「登録して初めての依頼で高確率でピンチに陥るこれも『テンプレ』なんだよ」
「と言う訳で、ライゾー君!君に『決戦兵器』を授けようではないかっ!!!」
何やら無理やりに話をこじつけた感が半端ない
拒否権はない、決定事項のようである
「『決戦兵器』!? もしかしてあれか?」
「そう、あれだよ」
場所は変わって、二人は兵器格納庫と呼ばれるエリアに転送する
雷蔵と、26代目
二人の前には『決戦兵器』が存在しているわけだが
どういう理由かは不明だが、むやみに浮き上がらせられて、クルクル回転していた
「いやぁ ライゾーにどういう風に、お披露目しようかいろいろ考えたんだ」
で結果クルクル回転する羽目になった『決戦兵器』
「じゃじゃ~ん! これが『魔導外骨格』だ!」
紹介の仕方はどうかと思うが、『魔導外骨格』とは『魔導骨格』と対をなす、26代目が生み出した、強力な戦闘用魔道具である
見た目は、黒いフルプレートアーマーと呼ばれる全身を覆う金属製の鎧
だが、その性能は、世に出回っている鎧とは一線を画す
素材は、『魔導骨格』と同じくミスリル、オリハルコン、アダマンタイトと言った魔法金属の合金製
特殊被膜が施された非常に薄い装甲を幾重にも重ね、積層構造にすることによって、物理攻撃、魔法攻撃両方に対して高い防御力を誇る
『魔導骨格』自体に動力が組み込まれており、装着者したものの身体能力を飛躍的に向上させる
内蔵された動力と、人工聖霊の制御によって、装着者なしでも自立行動が可能
装甲には、魔素を吸収し、魔力として蓄積する機能を持ち、装甲に蓄えられた魔力で、動作することが出来る
金属製にもかかわらず、消音機能が搭載されており一切音を立てない
気密性も非常に高く、水中、有毒ガスが蔓延しているような環境、更に宇宙空間ですら活動が可能
そして最大の特徴は、装着者が戦闘を重ねる良くなる毎に、『魔導外骨格』の性能も上がっていく『成長する兵器』であることだ
『魔導骨格』の特徴である『存在進化』で装着者が強くなれば、『魔導外骨格』の性能も高まっていく訳だ
「すでにライゾーの声帯と魔力波形認証の登録は済ませてある」
「後は、実際に装着して、アクティベーションを完了すれば、晴れてこの『魔導外骨格』は君のものだ!」
「さぁ、さっそく装着してみようぜ!」
キャラがぶれてきた26代目
「どうすればいい?」
「『魔導外骨格』の前に立って、「装着」と言えばいい」
「なるほど・・・では「装着」」
すると、今まで空中でクルクル回っていた『決戦兵器』がピタリと動きを止めた
雷蔵と『魔導外骨格』の周りに防御結界が展開される
彼の身体が自然に浮かび上がり反転、ちょうど『魔導外骨格』が背後に来る位置で停止する
腕が自然に上がり、水平になったところで止まる、『魔導骨格も』それに習うように腕が上がる
(何だか、磔にされている気分がするな)
などと、考えている間に、『魔導外骨格』の前面の装甲が滑らかに開いていく
空いた隙間に雷蔵の身体が吸い込まれるように収まると、開いていた装甲が閉まり、雷蔵の姿は見えなくなった
『魔導外骨格』の内部は真っ暗だった
身体に少し違和感を覚えて、程なく機械的な声が聞こえてくる
「声帯認証及び、魔力波形の認証を確認」
「装着者:賢者 ライゾーと認識しました」
「アクティベイション・シークエンスに移行します」
「オペレーションシステム『イブ』起動」
「システムオールグリーン」
「・・・初めまして、マスター」
どこからともなく女性の声が聞こえてくる
「私は、『魔導外骨格』の操作をサポートするために造られた、人工聖霊『イブ』と申します」
「イブだな よろしく」
とても人が作り上げたとは思えない、自然で優しい物言いだった
「よろしくお願いいたします」
「ではアクティベイトの為の最終シークエンスを実行させていただきます」
「この『強化外骨格』の固有名称を登録してください」
「固有名称の登録?」
「はい この『強化外骨格』に名前を付けて頂きたいのです」
「名前か・・・」
雷蔵はしばらく考えて、自然と心に浮かんできた名前を口にした
「迅雷(ジンライ)と名付けよう」
「了解しました 固有名称を「ジンライ」で登録」
「アクティベション・シークエンスが完了いたしました」
「マスター『魔導外骨格』が動作可能となりました ご命令をどうぞ」
「取りあえず、真っ暗で何も見えん」
「外が見えるようにしてくれ」
「これは失礼いたしました」
「実際の映像に赤外線・音響・温度・魔力の各センサーからの情報を反映して映像を作成し『賢者の石』へリンクします」
「完了いたしました」
すると、外の景色がまるで何も装着していないがごとく、見渡せるようになる
少し体を動かしてみる、歩いたり、手をまわしてみたり、構えをとってみたり
「視界も問題ない、着心地もいいな、金属で出来た鎧とは思えない、逆に体が良く動く」
「マスターと私の思考がリンクしておりますので、内蔵された動力で、リアルタイムで動きをサポートしております」
「なるほど・・・とにかくすごいと言う事だな」
知識は頭に入っているはずなのだが、おそらくよく分かっていない雷蔵
「外す場合はどうすればいい?」
「ジンライ「解除」と言っていただければ」
「分かったジンライ「解除」」
前面の装甲が開き、雷蔵は『魔導外骨格』内から解放される
雷蔵が抜け出ると、全面装甲が閉じ、『魔導外骨格』の後方に亜空間への入り口が広がる
その暗闇の中に『魔導外骨格』が入っていき、姿を消すと入り口は閉じられた
「ん? 迅雷はどうなった?」
「『ジンライ』は、亜空間に格納されました」
「今後は、どこにいても、「ジンライ・装着」と言っていただければ、装着が可能です」
「あれ、イブは『ジンライ』ごと亜空間に入っていかなかったのか?」
「はい、今後は、ライゾー様の様々なご要望に対応させて頂くために、ライゾー様のコアである賢者の石に移動させていただきました」
「そうか、俺とイブは、まさに一心同体となった訳だな」
「はい いつもお側にお控えしております」
1つの身体を他者の意識と共有する
通常なら違和感や嫌悪感を抱いてもおかしくない
だが、雷蔵はイブの事が気に入ったらしく、まったく不満を漏らさなかった
こうして、彼は、決戦兵器である『魔導外骨格』と人工精霊のイブと言う、頼もしい助っ人を手に入れた訳である
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