第14話 魔導忍者は二つ名を得る


26代目への定時連絡を終え、眠りにつく


ホムンクルスの体は睡眠をとらなくても数日の活動が可能だが、


「常に万全な体調を維持するのが、冒険者の心得です」


と、イブに諭されたためだ


誕生してから数日しかたっていないとは思えない聡明さだ




「マスター 起床のお時間となりました」


さすが、敏腕人工精霊イブ、目覚ましいの役割もそつなくこなす


「まずは朝食をお取りください」


食生活の管理も抜かりは無い


一回の食堂に向かい、銅貨20枚を払って、朝食を注文する


パンに、野菜を煮込んだスープにサラダ


シンプルなメニューだが、優しい味がした




朝食に満足し、宿を出てクエストをこなすために門へと向かう


依頼内容は、薬草の採取にゴブリン討伐だ


今回の採取予定は、ヴンデと呼ばれる回復ポーションの原料となる薬草で、魔境の森の外周部で見つかるため、経験の浅い冒険者でもこなせる依頼だ


ゴブリンの生息地とも重なるためこの二つの依頼を同時に受けたわけである


門につくと、昨日と同じ兵士が門番を務めていた


兵士は、笑顔で話しかけてくる


「無事に冒険者になれたようだな」


「お陰様で助かった」


冒険者カードを見せながら礼を言う


「早速、依頼を受けたのか?」


「ああ 薬草採取とゴブリン討伐だ」


「比較的安全な依頼だが、魔境の森では油断は禁物だぞ! 気を付けてな!」


「ああ、行ってくる」


ナイスガイな兵士に見送られ、気分良く門を通って魔境の森外周部へと向かう


ここでも、万能人工精霊イブの威力が発揮される




「この先1キロの地点にヴンデが群生しています」


「すごいな なぜわかる?」


「精霊が教えてくれるのです」


「そんなに簡単に教えてくれるのものなのか?」


「どうもマスターの周りの精霊は、機嫌がいいので、すぐに教えてくれますね」


雷蔵、精霊にモテるらしい


本人には認識できていないので、自覚は全くないが


「そうなのか 暇を見つけて 見えるように訓練してみよう」


「はい 精霊が見えるようになるには、適性が必要ですがマスターであれば全く問題ないと断言できます」


「そうか イブがそう言うなら間違いないな」


短い付き合いではあるが、イブがいい加減な発言をした事は一度もない


もし彼女が嘘をつくことがあっても、それはたぶん自分の為であろうとすら思う




イブ・ナビゲーションに案内され、現地に到着すると、本当にヴンデが群生していた


「必要なのは6株だったな」


雷蔵は6株だけ採取して、採取用に購入した袋に入れる


余分に採取しないのは、同じクエストを受ける冒険者の為


ヴィルクスに受けたアドバイスだ


この街の冒険者たちは、他者を思いやれる気のいい者が多い




冒険者のランクアップの条件は、依頼の達成によるポイントを一定数稼ぐこと


ある程度のランクになると昇格試験を受けなければならないが、低ランクの現在は、数をこなせば昇格できるのだ


雷蔵はCランクを目指している、理由は、ダンジョンに入るには、Cランク以上の冒険者でないといけない言う決まりがあるからだ


効率よく『存在進化』するには、自分の強さに対して適度な強さを持った魔物の存在力を吸収することだと判明している


定期的に魔物が生まれるダンジョンは理想的な狩場なのだ




「次はゴブリンの討伐だな、5体討伐か」


「現在10体補足して居ります」


「・・・すごいな 俺にはまだ気配も感じられん距離を感知できるという事か」


イブさんが優秀すぎる件


と言う訳で、ゴブリン5体の討伐もサクッと完了した


討伐部位の右耳を別に用意した袋に詰める


存在力の吸収も行ってみたが、やはりゴブリン5匹程度では『存在進化』はしなかった


死体は、26代目がなにやら再利用できるから送ってくれと言っていたので、『収納』しておいた


一般的な『収納』とは、空間魔法の一種で、亜空間にモノを出し入れ出来る魔法の事だ


使えれば、手荷物が大幅に減らせるが如何せん使い手は稀である


その為、使い手だと知れれば、パーティーメンバーとして引っ張りだことなる


雷蔵が使う『収納』は一般的なものとは異なり『魔導骨格』の機能の一つである


そしてその性能は規格外だ


通常、収納の容量は使い手の魔力量に比例する


6000年間魔力を蓄積し続けている賢者の塔が魔力の供給して発生させる亜空間の容量は計り知れない


さらに収納先の亜空間は、賢者の塔と共有されており、雷蔵が収納したものを、賢者の塔側で受け取ることも、逆に賢者側で収納したものを、雷蔵が受け取ることも出来る


荷物を受け取りに『賢者の塔』に行く必要もないわけだ




イブのお陰で依頼を昼前には達成してしまい、町へと戻ることが出来た


あまりに帰還が早いので、門番が驚いた表情で、訪ねてきたほどだ


「おいおい! まさかもう依頼を完了した来たのか?」


「それとも、何か問題か?」


「いや、たまたまついてたみたいで、薬草の群生地にすぐにたどり着いて、そこで必要数が手に入った」


「その道中でゴブリンに出会って、これまたすぐに必要数討伐できたって訳だ」


「ビギナーズラックって奴か それにしても幸先が良いことでない寄りだ」


「しかし、ゴブリンにそんなに頻繁に出くわすのはちょっと気になるな」


「報告を上げておくか」


(まずいな 言い訳が安易すぎたか?)


魔導忍者は嘘が下手だった


「まぁ、何はともあれ無事で何よりだ」


「ああ じゃあギルドに報告してくる」


「今日はいい酒が飲めそうだな」


いい笑顔でサムズアップしてくる


雷蔵もいい笑顔(のつもり)でサムズアップで返す




冒険者ギルドに足を踏み入れると、酒場の方から声がかかる


「おう首トン! 昨日はお前のお陰で酒がたらふく飲めたぜ! ありがとうな!」


「あら首トンじゃない わたしにも首トンしてくれない?」


「首トンってなんだ?」


雷蔵が尋ねると


「ほら、昨日『ヴィルクスとゆかいな仲間たち』にやってたじゃない」


どうやら昨日の3人組のパーティー名は、『ヴィルクスとゆかいな仲間たち』らしい




首トンとは、不殺の忍術:絶気の事を言っているらしく、3人が揃って


「「「首トンされてから、体の調子がいいんだよ!」」」と騒いだらしい


ちなみに、ヴィルクスは肩こりが、ヨルクとヨルンは腰痛が治ったらしい


兄弟そろって腰痛持ち・・・まぁ冒険者にとっては深刻な問題かもしれない


その後、雷蔵は『首トンのライゾー』と呼ばれるようになってしまったようだ


前世では、『迅雷の雷蔵』と呼ばれた凄腕の忍びが、今や『首トンのライゾー』




なんとか二つ名を返上することは出来ないものかと、調子が良くなった原因は、別の技の効果だと説明したところ


結構な人数が名乗りを上げてきたので、これは面倒だとばかりに


「1回につき銀貨1枚だ」と言ってみたところ、殆どがあきらめて席に戻っていった


本当か怪しい情報にかけるには銀貨1枚は高すぎたようだ




銀貨1枚でもいいと、藁にもすがる思いだったのか


ひどい腰痛持ちだと言う冒険者の男が頼んできたので、銀貨を受け取り、命精活性の術をかける


自然回復力を高める術だが、極めれば不老不死の薬を生成できるようになると言う秘術


転生前嫌というほど使った術だ、効果のほどは確かだった


「俺、これ以上腰痛が悪化したら冒険者を引退しようと思ってたんだよ」


「これで、またがんばれるよ! ありがとうな首トン!」


男は、スキップしながら去っていった




それを見て、「噂は本当だった!」と、他の冒険者が集まってきた、全員が腰痛持ちだった


冒険者にとって腰痛はかなり深刻な問題のようだ


銀貨を受け取り、一人ずつ術をかけていく


「「「「「うわぁ本当に治った! ありがとうな首トン!」」」」」


嬉しそうに、スキップしながら去っていく冒険者たち


それを呆然と見送る雷蔵




一度ついた二つ名は、生半可なことでは、払しょく出来ないようだ


二つ名と言うか、もはや本名のように呼ばれているのは、気のせいだろうか?


しかし、一人数分、わずか30分で銀貨6枚の利益そして原価はタダだ


魔導忍者は、この世界では凄腕整体師としても、生きていけそうだ




複雑な気持ちのまま、カウンターへと向かう、もちろんイェニーナの窓口だ


「おはようございます ライゾーさん 本日はどのようなご用件でしょうか?」


朝の陽ざしのような、素敵な笑顔に落ち込んだ気持ちが癒されていく


「依頼が完了したので清算を頼む」


「薬草採取とゴブリン討伐でしたね」


採取した薬草と、ゴブリンの討伐部位を確認してもらい


「依頼の達成を確認いたしました」


「薬草採取が、銀貨1枚、ゴブリン討伐が銀貨2枚合計で銀貨3枚となります」


この二つの依頼はほぼ常時出ているらしいので、再度受注してギルドを出る


こうして、冒険者『首トンのライゾー』の一日、いや半日が終わったのだった

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