邂逅編

第15話 魔導忍者は白き野獣と出会う

午後からも、クエストをこなしに出かけるかとも考えたが、そういえばこの街をゆっくりと見て周ったことが無かった雷蔵


(少し街をぶらつくか?)


と、歩き始める


中央になる広場に人だけ李が出来ているのが気になり行ってみることにした


「いてて、ひどい目に遭ったぜ」


冒険者ギルドでよく見かける冒険者が愚痴をこぼしながら人混みから這い出てきた


大きなけがはないようだが、頭から血を流している




「誰にやられた?」


「白豹族の剣士だよ」


「銀貨1枚払って勝負するんだ」


「勝ったら、金貨1枚と、一夜の相手をしてくれるってんで、調子に乗って挑戦したらこの有様さ」


「それは自業自得だな」


「へっ、違ぇねぇ・・・イテテ」




「仕事に支障が出るだろう? ちょっとじっとしていろ」


そう言って、命精活性の術を男にかけてやる


魔導忍者はお人好しなのだ


表情は仏頂面だが


徐々に傷が治っていくのを見て


「回復魔法か! これから依頼で出かけるんで助かったぜ」


「まぁ 冒険者同士、困ったときはお互い様ってやつだ」


「この借りは必ず返すぜ! じゃあな首トン!」


男はスキップして去って行った


(・・・完全に首トンに決まってしまったか)


新人冒険者にいきなり二つ名がつくなど稀である


だが、『首トンのライゾー』


素直に喜べない


と言うか今まですれ違ったものすべてが『首トン』と呼んでくる


せめてライゾーと名前も付けてもらいたい


(人生ままならんものだな)




どうにか、もう少しましな二つ名で呼ばれる方法を考えていたところ


『マスターはお優しいですね』


不意に、イブにそう言われ


『打算だ』


『貸しを作っただけだ』


とは言っているが、よく見れば、顔が赤い


間違いなく照れている




人混みをかき分けていくと、視界が広がり、大柄な女が噴水に腰かけ、周囲に挑発的な視線を向けながら、金貨を指で弾いては掴む動作を繰り返していた


白豹族:アマゾネスよろしく、女性のみで構成された戦闘民族で、生まれる子は、みな女と言う特殊な種族だ


15歳で成人すると、集落を離れ、武者修行の旅に出る、各地を転々としては、腕に自信のある冒険者などに勝負を挑み、自分よりも強い男から子種をもらって集落に帰って行くらしい




美しくも凛々しい顔立ちに、サファイヤのような青い瞳、白豹族の名にふさわしい白く長い髪を後ろで束ねている、頭には猫耳ならぬ豹耳(いやネコ科なので猫耳でいいのか?)が周囲の気配を伺うように動いている


身長は180センチ前後と女性としては大柄、筋肉質だが、無駄がなくまさに野生動物のしなやかさがあった、そして、胸には爆発寸前の爆弾が二つ搭載されていた、その威力は凄まじい


なにせ、クール(?)な雷蔵がガン見してしまうほどだ


(でかいな・・・)


そんな不謹慎な事を考えていると、鋭い視線を感じる




視線の主は、獲物を狙う野獣のように舌なめずりしてこう言った


「お主、見かけの割りに結構やりそうではないか!」


「銀貨1枚で、我と一勝負といかないか?」


「お主が勝てば金貨1枚はお主のものだ、そして一晩お相手することを約束する」




「そういうお前も、相当な腕前のようだな、金貨1枚は魅力的だ 一勝負といくか」


雷蔵はそう言って、女へ銀貨を1枚投げて渡す


「そう来なくてはな」


「残念ながら、街中で真剣はご法度だ 木刀を貸し出す これを使え」


そう言って女は、木刀を投げて渡してくる




そうれを受け取った瞬間に、女が一瞬で間合いを詰めてくる


「勝負は木刀を受け取った瞬間に始まっている、悪く思うなっ!」


女が恐ろしい勢いで、木刀を振り下ろす、身の丈もありそうな木の大剣


当たればただでは済まない


当たればだ


(決まったな)


女は自分の勝利を確信した


だが、雷蔵が木刀が切り裂かれたかに見えた瞬間に、その姿が幻のように消えさる


「確かに早い、だがそれだけだ」


背後から頭をコツンと木刀で小突かれる


「今ので、お前は一度死んだ」


「まだ始まったばかりだ、これで終わりと言うのも面白くない」


「どうやら、お前より、俺の方が少し強い」


「お前の剣が一度でも俺に触れることが出来たら、お前の勝ちにしよう」


ちなみに魔導外骨格の機能は最低限になるようリミッターをかけている


今のライゾーは、生身の人族と同等の動きしかできない


今雷蔵が女に勝っているもの


それは前世で培ってきた体術のみだった




今まで、いろんな街を渡り歩き勝負してきた


そしてすべて勝ち抜いてここにいる


最強とは言えずとも、自分の腕には自信があった


それが、子供のような小柄な男に、良いようにあしらわれている


(なんたる屈辱か!)


女の目に憤怒の炎が燃え上がる


「舐めるなぁ!」


先ほどは、手を抜いていただけと、自分に言い聞かせ、今度は全力の一撃を打ち込んでやるとばかりに、剣を振り下ろす


が、危なげもなく、ひらりと躱され、またもや頭をコツンと小突かれる


地味に痛い


「おいおい こんな単純な挑発に乗るとはなぁ これでお前は2度死んだ」




「お前の踏み込みと、剣の振りは確かに速い」


「今までお前が仕合ってきた相手は、その速さに反応できずに、一撃でやられたんだろう」


「一撃で倒せると思っているから、振り下ろした後、一瞬の隙が出来る」


「一太刀目に反応できてしまえば、後はその隙を突くだけだ」


「振り下ろした後、どうするか考えたらどうだ?」




「だまれ! だまれ! だまれぇ!」


上段から打ち下ろし、下段から打ち上げ、横なぎの一閃、どこからどう打ち込もうが、まるで当たらない


「なぜ我の剣が当たらない!?」


「先ほども言ったが、一太刀振るう度に剣の流れが止まる、だからそこを突かれる」


「どうすればいいか 少し考えれば分かるだろう?」


「剣の流れを止めなければいい」




男の言動に、自尊心が傷つけられ、はらわたが煮えくり返りそうになる


だが悔しいが返す言葉もない程に的を得ている


そのことを認め、自分なりに考え始めてから、女の動きが少しずつ変わっていく、上段から振り下ろし、そこで止めずに、剣の流れを強引に横なぎに変える


「少し良くなったな」


「だが動きに無理がある、力任せに流れを作っては、無駄が出来る」


「円を描くイメージで、俺の動きを剣で追ってみろ」




また女の動きが変わる、流れに逆らわず、円を描くように、無駄がそぎ落とされ、洗練されていく


それでも、雷蔵には当たらない


周囲の者たちの態度も変わっていく、最初は大声で歓声や野次を飛ばしていた者たちが、女の動きに目を奪われ、言葉を失っていく


見ている者たちが、流れるように剣をふるう女を見て思う


まるで踊っているようだと


剣をもって舞う


野獣の如く力に任せに剣をふるっていた女の動きは、まさに剣舞のような美しさを持ち始めていた




「随分と良くなったな、だがそろそろ潮時か・・・次で決めさせてもらう」


そう言った瞬間に、女は雷蔵を見失う


「終わりだ」


声が背後から聞こえたことに気づき、振りむこうとした瞬間には、すてに女は意識を失っていた


「「「でたっ!首トン!!!」」」


はい、最後の決め手は首トンでした




「やっぱ、すげぇな首トン!」


「いやぁ! 俺はあの女の剣さばきの美しさに見ほれたね!」


見物人たちの声が聞こえる中、雷蔵は気を失っている女の肩を両手で支え、気を送り込む


程なくして、女は意識を取り戻す


「うっ! はっ!? 我は負けたのか・・・」


「じゃあ、約束通り金貨1枚をもらおうか」


「それと、一夜を共に・・・」


「いや、そっちはいらん」


胸をめちゃくちゃガン見してたのに、速攻で辞退する雷蔵




「いい稽古になった では、またな」


去っていく雷蔵の背中を眺めながら、今体験した事実を噛み締める


先ほどの勝負で、自分の剣技がどれほど上達をみせたかを


あの限られた時間で、極意と呼んでもおかしくない技術を得ることが出来たことを




「待ってくれ! いや待って下さい!!!」


「まだ何か用か?」


女の必死の声にも無表情な雷蔵


「名前をお訊きしても良いか?」


「ライゾーだ」


「我を、この白玲をライゾー殿と一緒に行動させて頂けないだろうか?」


「・・・」


(だめか・・・)


沈黙を拒否の意思と受け取った、白豹族の剣士:白玲


「腹が減ったな」


「どこかに飯でも食いに行くか?」


仏頂面で答える雷蔵


満面の笑みを浮かべ、その後を追う白玲だった


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