第16話 魔導忍者は二人の美女に振り回される


「何が食いたい?」


「肉!」


グゥとお腹をならしながら、答える白玲


食いしん坊キャラ確定か?




(そういえば宿以外で食事したことは無かったな)


こういう時、頼りになるのが、イブ・ナビゲーション


『イブ この街に肉料理がうまい店はあるか』


『3件ございます』


この情報どこから入手しているのか?


過去に、食べ歩きしていた管理人がいたのか?


『その中で一番近い店に案内してくれ』


『かしこまりました』




程なく『肉がうまい亭』に到着


素晴らしいネーミングセンスに看板を二度見してしまう雷蔵と白玲


「これは期待できそうだな」


「そ、そうですな」




実際に・・・美味かった


名前負けしていない


辺境の街では、常に新鮮な肉が手に入る、冒険者が討伐したての新鮮な魔物の肉が


魔物の肉は、栄養価も高く、強い魔物ほど美味かったりする


この店は、その魔物の肉質にあった調理法を日々研究しているらしく、素材の味をうまく引き出している



一角ウサギは、トマト煮込みに、ワイン煮込み


ジャイアントボア(魔境の森の濃密な魔素の影響で、巨大な魔物と化した元イノシシ)は、ガーリック焼きに


オークの肉(食べるんだ・・・)は、スペアリブ風に調理されていた


飲み物のワインも良質なものにこだわってるらしい


ちなみにゴブリンは非常に不味く、どんなに工夫しても食べられないらしい




どうやら金貨1枚が有り金全部だったらしく


「全財産は銀貨1枚しかないのだ」


と愚痴をこぼす


雷蔵が命精活性の術で治療してやった冒険者の負けっぷりに、みな怖気づいてしまったようで、その後は、雷蔵以外の挑戦者は居なかったようだ


「負けた時はどうするつもりだった?」


と訊いてみると


「我は負けることなど考えて勝負はせん!」


敗者の吐くセリフではなかったが、確かに並の冒険者なら負けはしなかっただろう


Aランク冒険者だと発覚した白玲


高ランク冒険者なら稼ぎは良いはずなのに、なぜ?


の疑問はすぐに答えが出た




「仕方ない、今回は俺がおごる」


と言ったところ


「ライゾーが奢ってくれるなら、遠慮して腹八分目にしておこう」


と言っていたのに、20人前は軽く食べていた、更にワインも20杯・・・


「お会計は、銀貨12枚と銅貨60枚です」


「なんだと!?」


雷蔵独りが質素に暮らせば、4日分である生活費が1食でぶっ飛んだ


と気づいたところで後の祭り


白玲さん食いしん坊キャラ確定




その後は、白玲は自分が泊まっていた部屋を引き払って(正確には追い出されて)、雷蔵の部屋に泊まろうとしたので、断固拒否して、女将に偶然空いていた隣の部屋を準備してもらい、5日分の宿代を払う・・・銀貨10枚


人生ゲームの罰ゲームか?と言う出費の嵐に


(明日から、午前と午後も依頼を受ける!)


と心に誓った雷蔵


それでも赤字なのだが




『初日は「てんぷれ」に、2日目には、早々に2つ名がついて、更には美女と同棲かぁ・・・』


『いや 同棲ではない 部屋は別々だ』


『しかも破産の危機を感じる・・・食費的に』


『まぁ、そうなったら仕送りするからねぇ』


『それは最終手段だ』


自分は賢者だから賢者の塔の資産は雷蔵のものだと26代目は言う


が、雷蔵は納得していない


なので自力で乗り切る覚悟だ


そのためには一日も早く冒険者のランクを上げなければならない


今の勢いだと、エンゲル係数が高すぎて破産してしまうのは時間の問題ではあるが


定時連絡を終え、食費の問題で眠れない夜を過ごす雷蔵であった




『マスター お目覚めの時間です』


『分かった』


イブさん目覚ましで起床


と言うかいほとんど眠れなかった




白玲を起こし、宿の食堂で朝食をとる


「いやぁ、昨日は馳走になりかたじけない」


「朝食はそれほど食べぬので安心してくれ」


そう言って、彼女は10人前の料理とワイン(朝っぱらから!)を平らげるのだった


「彼女よく食べるねぇ・・・銀貨3枚と銅貨30枚」


エンゲル係数が天元突破


そしてパーティー崩壊の危機が刻々と迫っていた 


食費的に




「GランクとAランクでパーティーは組めるのか?」


「我もそのような経験はない故、分かりませぬ」


(イェニーナに相談だな)


困ったときのイェニーナさんである


「一つ上までのランクであればパーティーの申請は可能なのですが・・・」


「さすがに、GとAでは無理ですね」


ダメだった


「Aランクの白玲さんが、ライゾーさんの先導者になると言うのはいかがでしょうか?」


さすが、出来るギルド受付嬢イェニーナさん、すぐに代替え案を用意してくれる




「では、その先導者の登録を頼む」


「かしこまりました」


頼りになる人が側にいる


それは、とても幸せなことなのだ


「ちょっと待った~!」


そこに待ったがかかる?


振り向けば、女が立っていた


赤い全身鎧に背中には大型の盾


所謂、盾職と呼ばれる冒険者の装備だ


「おい! あれ鉄壁のイデアじゃねぇか? 首トンともめてるのか!?」


「おいおい 朝っぱらから美女二人に囲まれやがって 隅に置けねぇな、首トン!」


冒険者たちが、驚きやら、からかいやらの声を上げいる




鉄壁のイデア:巨人族のAランク冒険者らしい


身長は、約2m、巨人族としては小柄な方だ


日に焼け野性的だが、細長の美しい顔立ち、赤い瞳に、赤い髪を短く刈り上げている


筋肉もそれほど盛り上がっていないが、巨人族の筋肉は、その密度が人とは比べ物にならないほど高く、超怪力を発揮する


大型魔物の突進をも、軽く受け止めるため、鉄壁と二つ名がついたそうだ


(以上イブ冒険者人名録より)



『イブ 情報ありがとう助かった』


『お役に立てて光栄です マスター』




「あんたが噂の『首トンのライゾー』かい? かわいい坊やじゃあないか!」


獲物を見つけた獣のような視線を向けながら、雷蔵に近づき肩に手を回す


肉食系女子がここにもいた


白玲と違い、性格的な意味方で




そして雷蔵越しに、白玲に挑発的な視線を向けて


「あんた 白い魔獣だろ?」


「昨日、ライゾーにコテンパンにやられたって話じゃないか」


「先導する側が、先導される側より弱いってのは問題あるんじゃないかい?」


「ライゾーにはあたいが先導者になってやるよ!」


そう言い放つ




方や雷蔵には


「あたいが冒険者としてのノウハウを手取り足取り教えてあげるよ」


「坊やがその気なら、夜のテクニックも教えてあげてもいいんだよぉ」


雷蔵さんがピンチです


貞操的に!




「鉄壁だか、なんだか知らないが」


「ライゾーに冒険者としてのノウハウを伝授するのも、夜の手ほどきも我の役目だ!」


美女二人の間に火花が飛び散り、雷蔵には、男性冒険者から嫉妬の視線が突き刺さる


しかし、雷蔵はそれを、左へ受け流す


どころか、(やたらと視線が多いな)とは感じているが、それが嫉妬からくる視線だとは、まったく気づいていない




「ここで、グダグダ言っててもはじまらないねぇ」


「そうだな、どちらがライゾーと行動を共にするに値するか」


「「勝負だっ!」」


「地下の訓練場を借りるよ」


そう言い残し、地下にあると言う訓練所へと向かっていく美女二人




白き魔獣と鉄壁


同じAランク同士の戦いに、他の冒険者たちは・・・


「俺は、鉄壁に銀貨1枚!」


「俺は野獣に、銀貨2枚だ!」


「野獣は昨日、首トンされているからな いつも以上の実力が出せるはずだ 銀貨3枚!」


「いやいや、俺は一度、鉄壁とパーティーを組んだことがあるが、二つ名通り・・・いやそれ以上の仕事っぷりだったぜ! 銀貨4枚だっ!」


賭けを始めていた!


娯楽の少ないこの世界、しかもAランク同士のハイレベルな勝負などなかなか見られるものではない


どんどん人が集まり、お祭り騒ぎになっていた




そんなとき雷蔵は・・・


「俺は依頼をこなしてくるから、昼飯までには勝負を終わらせておいてくれ」


自分の事で争ってるのに、まるで他人事のようだ


そして、本当に出て行ってしまった




『マスター ゴブリンの反応が増えています』


昨日の門番への言い訳が、まさか真実になるとは


小一時間で依頼を達成して、気になったので、いつもの門番に報告しておく


「相変わらずの手際の良さだな!」


爽やかな笑顔でサムズアップしれくる


キャラがぶれない


サムズアップで返しながら


「ゴブリンの数が増えている」


「ああ、他の冒険者たちからも同じような話が出ていたから気になってな」


「上に報告したら、集落が出来ている可能性がある為、偵察の依頼を出すことになったらしい」


「今回は、あくまで依頼偵察だけで、集落が発見されれば、討伐は、討伐隊を編成して当たることになる」


「なるほど、索敵は経験があるから少しは自信がある」


「依頼が残っていたら受けてみる」


「お前ぐらい手際が良ければ適任かもな だが気をつけろよ!」




門番と別れて、女たちの戦いの場へと戻る


その前に、イェニーナに癒されながらの依頼の清算は忘れない


後、ゴブリン集落の偵察依頼の事を尋ねると、複数が同時に受けられるらしく、受注しておく


そして後ろ髪をひかれながら地下の訓練場へと向かう




果たして、勝者はどちらだったのか!?


「ぐぅ! しぶとい!」


「あんたこそちょこまかと動き回りやがって!」


まだ終わってなかった




雷蔵は今度こそ勝負を見届けるのか


「昼までに終わってくれと言ったはずだ」


そう言うなり


「ライゾー!もうしばらくお待ち下され あふぅ」


「坊や、すぐに終わらせて、おねぇさんが相手してあげるから あふぅ」


「「「ええぇ! このタイミングで首トン!? 賭けはどうすんの賭けは!?」」」


「取りあえず昼飯だ 勝負は午後にお預けだ」




勝負は、強制的に2ラウンド制にされてしまった


「そう言えば、勝負に夢中で、飯食ってなかったな」


「本当だ、飯食いに行こうぜ!」


「こんな勝負、一日中見られるなんて俺らラッキーだよな!」




全く苦情は出なかった


昼食はもちろん、良心的な価格で味も素晴らしい、風見鶏亭


「悪くない味じゃあないか! お代わり持ってきとくれ!」


「あたいも今の宿を引き払って、こっちの宿に泊まることにするよ」


「ああそうだ!ライゾーと相部屋にすればいいじゃないか!」


「それは断る!」


「ライゾーと相部屋は我が! 後、我もお代わり!」


「それも断る!」


この後、両者とも各々20人前を平らげて


「「勝負が残っているから腹八分目にするか」」


と宣った


まさかのダブル食いしん坊キャラ降臨




「また一人増えたね、しかしあんたの連れは、みんなよく食べるねぇ」


「銀貨12枚と銅貨30枚だよ」


(ゴブリンの集落があるなら、俺が見つけて潰すしかないようだな)


集落があることを切に願う雷蔵だった




破産の危機が雷蔵を本気にさせる!


次回、ゴブリン集落が滅亡の危機


こうご期待!


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