第21話 魔導忍者はエルフの少女を救う
『4階級特進に、二つ目の二つ名までついて大躍進だねぇ! ゴブリン隠しに首トンかぁ!』
壊滅させたゴブリンの集落に死体が一切残っていなかった事から
『ゴブリン隠しのライゾー』と呼ぶものが出始めた
依然『首トン派』が根強く勢力を保っているが
『からかうのはよせ』
『ははは、いやぁ、申し訳ない でもつい楽しくてねぇ』
『実は、ゴブリンの集落捜索の際に気になることがあった』
『集落があった場所より奥の魔物の数も増えているようだ』
『魔物の数が増えてる? もしかしたらスタンピードの兆候かもしれないねぇ』
スタンピード:動物の集団暴走や人の群衆事故を現す言葉らしいが、この世界ではもっぱら、魔物が大量発生して町や村を襲う現象の事をそう呼ぶ
魔物の集団暴走
大規模なものになると、国単位でも抑えるのは難しい
最凶の災厄と呼ぶにふさわしい悪夢だ
『もし、魔物が大量発生して町を襲い始めるなら、レスラトガが最初に標的になる可能性が高い』
『数にもよるが、街の戦力と俺だけでは止めらない可能性がある』
『いくら、魔導外骨格と魔導忍術が強力と言っても、魔物大群相手では荷が重いだろうねぇ』
『そこで相談なんだが、魔導外骨格の数打ちは作れるか?』
『量産型ってことかい?』
『ジンライのようなカスタムメイドと同じ素材は無理だけれど、魔鉄鋼なら、かなりの量があるから、魔鉄鋼製にアレンジして造るなら、ある程度の数は揃えられると思うよ?』
『ただし、性能はかなり落ちちゃうけどね』
『それで構わない、支障が出ない範囲で作っておいてくれないか?』
『そうだね、最終決戦に向けての戦力にもなるかもしれないから作ってみるね』
『頼む、それと別でこんなものは作れないか?』
何やら他にも、いくつか頼みごとをして定時連絡を終えて眠りにつく
一難去ってまた一難、どうやら近いうちに、また一波乱ありそうだ
翌朝、雷蔵はギルドへは向かわず、治療院に来ていた
助けた者たちの様子を見るためだ
自分が手を差し伸べた人達を、途中で見捨てる事は出来ない
再起できるまで見守ると心に決めていた
磔にされていた10名は、もうすっかり回復して、無事退院の許可が下りたらしい
「また冒険者を続けられる!」
「本当に感謝するわ!」
などと口々に感謝された
人に感謝されることになれていない雷蔵は不愛想に
「よかったな」
としか言えなかったが、彼らにはそれが照れ隠しだと分かっていたようだ
何故なら皆が、雷蔵をからかうように笑いかけていたからだ
四肢の欠損から回復したジスレアは意識を取り戻したらしいが、やはり悲惨な体験の記憶からは立ち直れていないようだ
気力も、食欲も思わしくないらしい
こればかりは自分でどうにかするしかない問題だが、命精活性の術をかけるくらいならば自分にも出来ると、彼女に割り当てられた部屋に顔を出すことにした
ドアをノックすると中から返事があった
「はいどちら様ですか?」
透き通るような美しい声だった
「ライゾーと言う者だが、入ってもかまわないか?」
「ライゾーさんですか!? どうぞお入りください!」
部屋に入ると1人の少女がベッドから、慌てて起き上がっているところだった
ジスレアは尖った耳、少しウェーブがかった金髪、エメラルドグリーンの瞳をした美少女だった
典型的なエルフの特徴だが、彼女は容姿のだけでなく、所作に高貴な雰囲気が漂っているように感じる
他国では、人以外は亜人と呼ばれ、迫害されていたりするが、グーベルク王国では、そう言った意識はなく人以外の種族もそれなりに暮らしている
だが、故郷である集落からほとんど出ようとしない閉鎖的な性格のエルフ族の姿は少なかった
「俺の事は聞いているか?」
「はい、あの時、私ほとんど意識がなくて」
「昨日意識が戻ってから、ライゾーさんに助けて頂いたことを知りました」
「助けて頂いてありがとうございます」
深々と頭を下げるエルフの少女に
「俺は出来る事をしたまでだ」
笑おうとしているようだが、意識すればするほど表情筋はいう事を聞かない
笑うのは断念し、話題を変える方向に策を変える
「それで 体調はどうだ?」
「はい もうすっかり良くなりました でも確か私・・・」
「腕と脚の事か?」
「意識が戻って、無くなったはずの腕と脚が元通りにになっていて、驚きました」
「その事は誰かに話したか?」
「いいえ、無くなった手足が元に戻ったなんて言っても、誰も信じてくれないでしょうから」
この世界で四肢の欠損からの回復は、ほとんど不可能と言ってよかった
殆どと言ったのは、聖者や聖女と言った特別な癒しの力が使える存在であれば、復元可能だからだ
だが、聖者や聖女から治療を受けるには、途方もない大金を積まなければならない
だから、一般人からすれば不可能と言っても間違いではないのだ
そんな力を、雷蔵が持っていると知られると、面倒なことになる
その力を利用しようと、よからぬ者たちが群がってくるに違いない
「それは助かった」
「絶対に秘密にしたいわけではないが、面倒なことになりそうだからな」
「それで、これからどうする?」
「私は、ライゾーさんに命を救っていただきました」
「本当なら、その恩返しをしたい・・・でも無理なんです」
「恩返しなど望んではいないが 何故無理なんだ?」
そう尋ねると彼女の瞳から涙がぽろぽろと流れ始める
「私は、精霊魔法には少し自信があったんです」
「でも、私は穢れてしまいました」
「精霊は穢れた者には力を貸してくれません」
「私はもう魔法が使えないんです」
そう言うと大声を出して泣き始めた
雷蔵は困っていた
元妻はいつも笑顔で涙など見せたことが無かった
だから泣いている少女を慰める方法が分からない
しかし、妻が泣いている子供達をあやすしていた方法なら知っている
雷蔵は、ゆっくりとジスレアの頭を撫でながら、彼女へ語りかけ始めた
「ジスレアお前は穢れてなどいない」
前世で上忍からの指図とは言え、忍びとして大勢の命を奪った
穢れているのは自分だと、彼は心の中で呟く
そんな自分だからこそ、分かる事がある
「自分を穢すのは自分自身だ」
「そしてそれは、人の道を外れた時だ」
「お前は人の道を外れてはいないだろう?」
「でも、魔法が使えないんです あれから何度も使おうとしているのに・・・」
「やっぱり穢れた私は精霊に嫌われてしまったに違いありません」
そう言って、また泣き出してしまう
『そうなのか?イブ』
『いえ、精霊は彼女の事を嫌ってなどいません』
『恐らく彼女がそう思い込んでしまい、その思い込みが魔法を使えない原因だと思われます』
『そうか』
『精霊の意思を彼女に伝えることが出来るか?』
『マスターのお力をお貸しいただければ』
『どうすればいい?』
イブが精霊の意思を伝える方法を伝えてくる
「俺には契約している精霊がいる」
「その精霊に訊いてみたが、精霊たちはお前を嫌ったりしていない」
「でも、だったら何故、私は魔法が使えないんですかっ!?」
彼女は声を荒げる
それ程彼女にとって大切な事なのだろう
「私ったら命の恩人の雷蔵さんに何て事を・・・」
恩を仇で返すような自分の行動を恥じて目を伏せるジスレア
「落ち着け・・・今から精霊たちの思いをお前に伝える」
「両手を貸してくれないか」
雷蔵は、ジスレアの手を取り、集中する
人工精霊であるイブの知覚を自分へリンクさせ、気の力を使って、知覚情報をジスレアへと送り込む
『以心伝心の術』
忍法:以心伝心の術 偵察の結果などを、言葉ではなくイメージで伝えることが出来る
忍びの力とは個の武力ではなく情報だ
その為こういった術を使いこなせる者は重宝される
この術がこの世界に来て役立つとは雷蔵も思っていなかった
しばらくすると、ジスレアは温かい感覚が両手を通して流れ込んでくるのを感じた
いつも自分に力を貸してくれている精霊たちの存在を確かに感じる
精霊たちは、まるでジスレアの事を気遣い、励ましているようだった
「大丈夫?」
「元気を出してね!」
言葉は聞こえてこない
だが、精霊たちがそう自分に伝えていることが分かった
「いつもありがとう」
心の中でジスレアは精霊たちに感謝の気持ちを贈る
精霊たちが笑っているように感じた
「どうだ?精霊たちはお前を嫌っていたか?」
「いいえ 心配して、そして励ましてくれました」
「そうか、よかったな」
「今なら、精霊が力を貸してくれる」
「魔法が使える気がします」
「無理はしなくていい ゆっくりとな」
今まで以上に精霊たちの存在を身近に感じられる
精霊たちが自分に力を貸してくれると確信できた
「水の精霊よ、その力をもって、我に恵みの水を与えたまえ ウォーター」
すると、目の前に、どんどんと水が集まってきて直径1mもある水の球が出来上がった
「あれ、この魔法コップ1杯くらいの水を出してもらう魔法なんですけど」
「久しぶりだから、精霊が張り切ってくれたんじゃないか?」
雷蔵がそう言うと、ジスレアがくすくすと笑った
気が緩んだ為に、魔法の集中が途切れる
水の球が落ちてきて、二人は水浸しになる
びしょ濡れになった二人は、しばし見つめ合う
同時に吹き出して、二人して笑った
「それで、魔法は使えることは分かったわけだが」
「これからどうする?」
「私、ライゾーさんに恩返しがしたいです」
「この精霊魔法を使って」
「実は、魔法が得意な奴を探していてな その一言を待っていた」
そう言って、また二人して笑い合ったのだった
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