第6話 魔造人間は魔法を教わる


「そう で、集めた魔力を右手に移動させて人差し指の先に火が灯るのをイメージしてみて」


「う~ん こうか?」


すると、少年の右手人差し指に小さな火が灯る


「成功~! いやぁすごいねぇ! 生活レベルの魔法とは言え、これほど短期間で成功させるなんて」


魔造人間となった少年の身体には、一流の魔術師と同等の魔力を宿している


そして、代々の管理者の記憶と知識を受け継いでいるため、魔法の使い方は頭に入っている


が、知っているからと言って、すぐに使えると言う訳ではない


管理者といえども、使いこなせるようになるには、ある程度の時間がかかる


26代目が先代から手ほどきを受けた時でも、なんとか実用レベルで魔法が使えるまで一か月はかかったそうだ


それでも、この世界の人々がその域に達するには、数年かかる


しかも、それは魔法の素養があると言う前提でだ




魔法の発動までのプロセスは流派のようなものがあり若干違ったりもするが


基本的には、このような流れを最初に教えていくことになる


体内の魔力の感じる


魔力を一カ所に集める


集めた魔力を手(杖を持っている場合は杖の先端)に移動させる


魔法が発動した状態を明確にイメージして魔法を発動させる




呪文の詠唱は魔法の発動に必要なイメージと集中力を高めるために有効


しかし発動までにタイムラグが発生することと、戦いの場で詠唱は相手に使う魔法を特定される


対策を取られやすくなるとデメリットが大きいので無詠唱で使えることが理想的だが、それを可能としている魔術師はこの世に数えるほどしか存在しない


少年は、26代目アドバイスで、指先に火を灯してみせた


しかも無詠唱で


そして彼は、1週間と言う短期間で、実用レベルで魔法を行使できるようになりました


「こっちに来る前に使っていた忍術と使い方が似ているからかな」


「思ったより簡単にできた」


そう答えた少年の名前はライゾーと言うらしい


彼の話を聞く限り、彼は転生者である可能性が高かった


転生者とは、異世界と呼ばれるこの世界とは違う世界の住人が魂のみこの世界に迷い込み、この世に生まれ出でた者の事を言う


賢者の塔が機能し始めてから約6000年の間にも、転生者らしき存在が確認されている


26代目は、ライゾーに魔造人間について説明した


ライゾーが転生の依り代とした魔造人間は、ある存在を倒すために造られた兵器であること、賢者の塔の全ての権限をもった彼が、自分たちの積年の願いをかなえられる存在であること


26代目は、会話の内容次第では、彼を葬り去ることも辞さないと決めていた




「話はおおよそ理解した」


ライゾーは26代目の話を真剣な眼差しで聴いた後、そう答えた


そして今度は、自分の事を話し始めた


「俺の名は雷蔵、伊賀と言う国の忍びだった」


伊賀の国という地名はこの世界には存在しない、6000年の間に各地を調査した管理者たちの記録に無いのだ間違いはない


「妻と子供たちを殺されて、怒りのあまりに我を忘れて、禁術を使って命が尽きたらしい」


「俺は、忍び働きで何人もの人を殺してきた、その中には女や子供もいたが、忍びとして育てられた俺には罪の意識なんてなかった」


「それが、妻と子供たち4人で暮らしているうちに、俺の中で何かが変わっていった」


忍びと言うのは、この世界でいうところの暗殺者といったところか、子供を攫い、または買い取った奴隷を訓練、洗脳して人を殺す道具に仕立て上げる


世界が変わっても、人のすることは変わらないのだなと26代目は内心でため息をつく




「子供さんのお名前は?」


「小吉と小春だ」


「俺の実の子供ではない、小平太って言う忍びの子供だった」


「小平太は、俺が里で心を許せる、数少ない者の一人だったんだが」


「やつは、俺に口癖のように、何度も何度も言っていた」


「雷蔵 俺にはお前のような忍としての才能はない」


「だから、いつか忍び働きで命を落とすだろう」


「その時は、小吉と小春の事を頼むと」


「そして、その言葉通りに、小平太はある忍び働きで命を落とした」


「母親は、小春を生んですぐに、流行り病で亡くなっていた」


「他に身寄りもなかった、俺は小平太の願い通りに、二人を引き取とるこにしたんだ」




「俺は自分でも人づきあいが得意ではないと自覚している」


生い立ちのせいか確かに彼は、感情の起伏に乏しい


「だが、二人はそんな俺を兄のように慕ってくれた、気づけば俺の大切な存在になっていた」


「妻と子供達との生活は短かったけれど、その時、俺はようやく人としての暮らしと言うものが分かった気がする」


そう話すとき、彼はかすかにほほ笑んでいるように見えた


「そして、俺が殺してきた者たちにも、大切な家族がいて幸せに暮らしていたのかもしれないと気づいた」


「その時になってやっと自分のやってきたことが、どれだけ罪深い事なのか分かったんだ」


「それから、俺は人を殺すことが嫌になった」


「そんな折、5万の大軍勢が伊賀の里を滅ぼさんとしている話を知った」


「それで、里を抜ける決心をしたんだ」


「だが、上忍たちに悟られ、見せしめのために妻と子供たちを殺されてしまった」




「初めて人を憎いと思った、心の底から」


「気が付けば、俺は禁術を使っていた」


「佳代を、小吉を、小春を、俺の大切な家族を殺した奴らを皆殺しにしようとしていたんだ」


「禁術を使えば宿した神の力に俺の身体は耐えきれず死ぬと分かっていたが、そんな事はどうでもよかった」


「だが、俺の中に龍神が宿ったその時、死んだはずの佳代と子供たちが目の前に現れて、俺に言ってくれたんだ」


あれは幻だったのかもしれない、と彼は言うが、26代目はそれは違うと感じた


「俺に出会って、一緒に暮らせて本当に幸せだったと」


「だから里の人たちを許してあげて欲しいと」


「自分たちを無残に殺した奴らを、許してやれと俺に言ったんだ」


「俺は納得できなかった」


それはそうだろう、大切な家族を無残に殺されて簡単に許すことなどできない


26代目には、家族はいない


だが、大切なものを失う悲しみは痛いほどわかる


彼は先代の管理者の姿を思い浮かべていた




「だが周りを見渡して、母親が子供たちをかばう姿を見てしまった」


「気づいてしまったんだ」


「里の者たちにも、それぞれ家族がいることに」


「俺は、彼らを殺せなくなってしまった」


「あんなに憎かったのに」




「でも、このままにしたら、伊賀の里は戦場となり大勢の人間が死ぬことになる」


「だから、里にいたすべての者たちに、忍びだったころの記憶を忘れてもらった」


「そしたら、佳代も小吉も小春も笑って言ってくれたんだ」


「もし生まれ変われたら、また俺と一緒に暮らしたいって」


里の者たちの忍びとしての記憶を消したのち意識を失ったのだそうだ


そして気が付けば、『魔造人間』としてこの世界に転生していた


「理由は分からないが、俺は生まれ変わることが出来た」


「生まれ変わっても、沢山の人を殺してしまったその罪は決して消えない」


「これからは、俺が犯した罪を償えるように生きていきたいと思う」




そう言い終わると、彼は泣きだしてしまった


大粒の涙をその頬に流れるままに大声を出して


26代目は、彼の言葉を聞いて、小さな子供の様に泣く彼の姿を見て確信した


彼こそが、自分たちが代々受け継いできた願いを叶える者だと

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