第7話 魔造人間は忍術を試す(前編)


「忍びの使う忍術なるものを見てみたいんだけど」


「見せてもらえないかなぁ?」


魔術とどう違うのか知的好奇心がうずく26代目


「そういえばこの体で使えるのか試していなかったな」


「柄にもなく浮かれてしまっていた」


突然の転生、魔法と言う未知の力の行使(知識は頭の中にあったが)で冷静さを失っていたと気を引き締める


今の自分には何が出来て何が出来ないのか、体調、運動能力、使える技術を確認するのは忍として生き残るために必須事項だった


そう言ったリーティーンをこなせない忍びは長生きできない




「あぁ 色々ありましたからねぇ」


「それにここは、賢者の塔と言う、この世界で最高の技術と力に守られた場所」


「それに私と言う頼もし~い管理人がいますから、この世界で一番安全な環境と断言できまよぉ」


「それにあなたの魂がやって来た時には、私なんて、ものすごく取り乱してしまいましたからねぇ」


「何せ、自慢の防衛システムばかりか、防御結界を素通りしちゃうんですから」


「あんな体験は、私の300年近いの人生で初めての事ですよぉ? あはははははは」


と笑顔で話す26代目


いつも軽い口調で話しているのは、雰囲気を和らげようする気遣いだとようやく気がついた


(彼は信用における人物のようだ)


向こうの世界では、気の許せる相手はごく僅かだった


ふと、妻や子供たちの顔が目に浮かぶ


彼らの魂はどうなったのか


気にはなったが、それを確かめるすべはない




「では、忍術を試してみたいのだが、ここでいいだろうか?」


「ここは少々手狭ですねぇ、場所を移しましょう」


「バベル 私と雷蔵さんを魔法の実験エリアまで転送してください」


「了解いたしました」


床に魔法陣が浮かび上がり、二人を別の区画へと転送する




そこは、一言でいえば大平原


塔の中とは思えない広さで、人の何倍も遠くを見渡せるホムンクルスの視力をもってしても、この部屋(?)がどこまで続いているのか確認できない


上を見上げれば、こちらもどこまで行けば天井にたどり着くのか全く分からないほどの高さがある


太陽はなかったが、昼間のように明るい




「ここなら、戦術級魔法をぶっ放しても大丈夫ですよ」


「では少し試させてもらおう」


まずは、普通に走ったり飛んだりしてみる、忍として鍛え上げられた前世の雷蔵の体は、人が出せるほぼ限界まで力を引き出す事が出来た


100mを8秒(時速45km)で走り抜け、飛び上がれば人を軽く飛び越えられた(垂直方向に2m)


しかしこのホムンクルスの体は、それをはるかに超える身体能力を見せた



骨格が金属であるはずなのに、生前よりも体が軽く感じる


それほど力を入れて走ったわけでもないのに、生前よりはるかに速く走れているのが分かる


「全力を出してみて下さい、限界を超えようとするとリミッターが働くので問題ありません」


それは幸いとばかりに全力で走ってみる、一歩目からトップスピードに近い速度に達しても身体に負担は感じない、疾風のごとき速さだった


正確に計測していれば、初速で90キロ トップスピードは100キロ しばらく走ってみたが、疲労はほとんど感じない、世界最速の捕食動物チーターと鬼ごっこが出来るレベルだ


垂直に飛び上がってみる、垂直飛びで6m二階建ての建物に飛び上がれる



「どうです、なかなかの身体能力でしょう~?」


「準備運動も出来たようですし」


「さっそく見せて頂けますか~?」


1kmほど離れた所から26代目が叫んでいる


かなり安全マージンを取っている


忍術と言うこの世界では未知の術が発動されるのだ


仕方のない事だろう




「では、まずはあれから試してみるか」


まずは体内の精(気の元となるもの、魔力で言うところの魔素)を感じることから始める


意識すれば生前の体以上に精の存在を感じる、そして第一のチャクラ(へその下10cmあたりにある気功法で言うところの下丹田)に精を集めて練り上げる


練り上げた精は気となり、忍術の発動の準備が整う


練り上げた気に雷の性質を持たせ、一瞬で全身にいきわたらせる


『俊雷』


ドンという何かが爆発するような音と共に、雷蔵の姿が霞み消える


次の瞬間には、26代目の目の前に姿を現した


猛烈な風が26代目の長髪を激しくなびかせた


26代目には雷蔵が一瞬で姿が消えて自分の前に現れたようにしか見えなかった


「失敗だ」


「音が出てしまった」


「風も起こしてしまったな」


忍術としては失敗だったらしい


珍しく残念さが窺える表情を見せるライゾー


「今のは転移の術?」


呆けた顔で雷蔵に問いかける26代目


「いや、体に気を巡らせて、走っただけだ」


(忍術恐るべし!)


そう思った26代目だった

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