第70話 魔導忍者は魔力の深淵を垣間見る 5/6


亜空間に展開された結界の中


雷蔵たちは輪になって座り、目をつぶる


「む!変わった手法を使うのであるな!」


「大変興味深いのであ~る」


(もしかしてこの男すでに気づいていたのであるか?)


「魔力の向こう側 その意味が分かった気がする」


雷蔵は恐らくメイザースに出会う前に気づき始めていたのかもしれない


「俺が皆を魔力の向こう側まで連れて行く」


「なるほど! ライゾー殿は他者の魔力の操作まで出来るのであるか」


『吾輩も輪の中に入れてもらいたいのであ~る』


自分だけ仲間外れ感を感じてしまい


ちょぴり寂しくなるメイザース


雷蔵たちは出会って日も浅い


だが、お互いを信頼し合うその姿は


まるで幾年月を共に過ごしたように感じさせるものがあった


メイザースの心の中に数千年感じなかった孤独が蘇る程に




雷蔵は自分の魔力のみならず、白玲、イデア、ジスレア、クリスの体内にある魔力を同時に操る


ジスレアやクリスは問題ないだろうが、白玲とイデアは緻密な魔力の操作には長けていない


自力で『魔導力』を覚醒させるには、無理ではなくとも相応の時間がかかってしまうだろう


しかし、雷蔵たちは日ごろの『合力』の相互循環の鍛錬によって、全員の感覚を共有できるまでに至っていた


全員の感覚が繋がり、一度に『魔導力』の力を覚醒させる


『魔導力』への道のりは同じであったが、たどり着いた先の光景はそれぞれ違っていた




雷蔵は、暗闇の中にいた


その暗闇の遥かその先に、かすかな光が見える


そのかすかな光に近づくほどに、光は大きさを増していく


その絶大なる力も


そしてついに、その存在が明らかになる




その姿は、雷蔵が転生する前に禁術を使い招来した、光を放つ巨大な龍


『龍神』の姿だった


「遂にこの時が来たか!」


「久しぶりじゃのう雷蔵よ」


その声は馴染みのある老人の声だった




「師匠・・・なのか?」


雷蔵がそう問いかけると、龍は老人へと姿を変える


その老人は、前世で雷蔵に剣術や忍術を指南してくれた人物だった


雷蔵が伊賀の里でも指折りの忍となれたのも、この老人のお陰と言っても過言ではない


自分自身を『通りすがりの仙人』と呼び、何故に自分にいろいろと教えてくれるのか尋ねても


「唯の気まぐれじゃ」といってはぐらかす


怪しげな人物であったが、雷蔵はそんな老人を師匠と呼び慕っていた




「カカカ! 驚いたじゃろ?」


「師匠が『龍神』だったのか」


「いいや正確には違うのう」


が『龍神』だったのじゃ」


「どういう意味だ?」


雷蔵は訳が分からないといった様子で、老人に問い質す




「遠い昔、お主とわしは1柱の神だったのだ」


雷蔵はかつて天界において悪神を祓う、最強の闘神であった


神と悪神の戦いは永きに渡って一進一退を続けていたが、最強の闘神である『龍神』の活躍目覚ましく、ついに神が勝利を収めることとなる


しかし他の神々は常々『龍神』の強敵であった悪神さえも消滅させる、その大きすぎる力を恐れていた


そして、いざ戦いが終わり『龍神』の力が弱まった隙を突き、人間界に封印してしまう


「人間界で人に封印された『龍神』」 


「それが雷蔵お主じゃ」




しかし、強大な『龍神』の力が人間の器に収まるはずもなく、その力だけが切り離された


その力を、神々は奪おうとした


だが、大いなる力に意思が宿りそれを阻み続けた


「『龍神』の力に宿った仮初めの意思」


「それがわしじゃ」


何千年もの間、『龍神』の力は、元の姿に戻ろうと試みた




「お主は転生を繰り返し、その度に『龍神』力を受け取るに相応しい器と成るように鍛えてきたが、何度やってもだめじゃった」


「さすがのわしもあきらめかけた」


「その折に今のお主、雷蔵が生まれて来たんじゃ」


雷蔵は、数千年の間に転生を繰り返した器の中でも、類稀なる才能を持っていた


「じゃが器が出来上がる前に、お主は禁術を使うてしもうた」


妻の佳代、そして血は繋がっていないが、本当の家族の絆を感じていた小吉と小春


雷蔵は、その無残な死にざまを目のあたりにして、怒りのあまり禁術を使ってしまったのだ


禁術:『龍神招来』


おのれの身体に『龍神』を宿しその力を行使できる


しかし器として不完全だった雷蔵の体では『龍神』の力に耐えきれなかった




「一時ではあったがお主とわしは一体となった、そのおかげで、前世の記憶を残したままお主を転生させることが出来たのじゃ」


そして、雷蔵が『龍神』の力を受け入れる器となった時、再び姿を現すことにしたのだ


「わしの役目はこれで終いじゃ」


「さぁ『龍神』の力受けとれいっ!」


「だが断る!」




「え!? 何でじゃ!?」


「俺が『龍神』の力を受け取れば師匠はどうなる?」


「わしはお主が力を受け取るまでの仮初めの意思」


「役目を終えれば、消え去るが運命さだめ


「仮初めであろうが無かろうが、俺にとってあんたは師匠であり恩人だ」


「その恩人が消えてしまうくらいなら『龍神』の力は受け取れん」


「馬鹿か! お主に力を返すために、わしがどれほど苦労したと思っておる!?」


「『機神』と闘うのじゃろうが! その時に必ず『龍神』の力が必要になる!」




「だったら、その時に師匠が力を貸してくれればいい」


「なんじゃと!?」


「別に俺が力を受け取らなくても」


「師匠が力を貸してくれればいいだろ?」


「まぁそう言うわけで、この話は終わりだ」




「・・・勝手に話を〆てしまいおって」


「ああ! 分かった!」


「本当に! お主は昔からこうと言い出したら言うことを聞かん」


「まったく不出来な弟子をもったもんじゃ!」


だがその声に台詞通りの苛立ちはかけらもない


師匠と慕い、消えゆく定めの自分を救ってくれた優しさに感謝する


「カカカ! 神々が奪い合ったこの力をいらんとぬかすとは、全くお主らしい」


「よかろう この力わしが預かる」


「必要になったら、わしを呼ぶがいい」


「師匠として、弟子の為に何時でも駆けつけてやるわい!」


「では、またの」


「ああ またな師匠」




老人は再び光る龍へと姿を変える


その光がどんどん遠ざかっていき、雷蔵の意識は現実へと引き戻される




雷蔵は自身のルーツを知り、かつての力の根源の正体を知る


かつての力を手放すそれこそが新たな力を手に入れる鍵だったのかもしれない


かすかなに感じていた『魔導力』の力


それを今はしっかりと感じ取ることが出来るようになった



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