第44話 魔導忍者は新たな存在進化の実力を試す

『存在進化』の身体能力向上の効果は絶大


一段階進化するごとに、種としての限界を超えてしまうからだ


しかし効果が大きい故の弊害もある




劇的に向上した身体能力が、力の加減や動きのイメージに激しいギャップが生じる


格下のモンスター相手なら、力押しで何とかなるだろう


しかし、今回の相手は10万体近い魔物の大群


中には想定外の強さを持った魔物がいるかもしれない


そんな相手と対峙した時、そのギャップが命取りになる




「と言う訳で、午前中は向上した力と自分のイメージのギャップを埋める」


要するに模擬戦だ


すでに5人の身体能力は人の枠を超え、その更に上の段階まで進化している


人であれば、少し小突いただけで殺してしまうかもしれない


ギルドの地下訓練場は、もう使えない


下手をすると模擬戦の衝撃で冒険者ギルドを建物ごと破壊してしまうからだ




模擬戦は町の外の人目のつかない場所で行うことにした


雷蔵の予想は見事に的中する


白玲とイデアが対峙する


攻撃を仕掛けようと白玲が駆けだしたが、予想外の速度にイデアと激突


勢いは止まらず二人とも吹き飛ぶ始末である




後衛の二人は、基本固定砲台役とそれを守る防御結界によるトーチカ役なので、それほど影響は出ないはずだ


それでも動きとイメージを合わせるために体を動かすように指示を出す


「これからどんどん進化して力が増していく」


「短時間で力の高まりに対応するのは難しくなってくるな」


「イブ 魔導骨格の力で身体能力にリミッターをかけられるか?」


「細かくは無理ですが5%単位で制限と開放を行えます」


「戦闘時以外は身体能力を10%まで制限しておいてくれ」


今の自分たちは、人のサイズをした災害級の魔物のようなものだ


力を制限せずに街を闊歩したら辺りを破壊しかねない


雷蔵たちは、街中にいる時など、戦闘時以外は能力を封印することにした




「マスター 皆様の『魔導外骨格』のアップグレードが完了しました」


バベルから報告が入る


「今回の内容は、リミッターの40%までの開放と、『魔導アーム:アシュラ』の搭載です」


魔導アームは、複数の高可動域を持つ多関節を持った、自立可動式の腕だ


前回の『魔導アーム:ヴィシュヌ』は2本だったが、今回のアシュラは4本の魔導アームが自立して動くらしい




地味なアップグレードに感じるかもしれないが、リミッターの開放で、駆動性能は2倍に


魔導アームが増えたことで、雷蔵の魔導忍術であれば3つ並行発動


ジスレアとクリスの魔法ならば、5つ並行発動できるのだ、物凄い戦力アップである!


白玲の『殲滅モード』は6刀で無双でき


イデアの『魔導外骨格:テッペキ』は盾が5枚になった、


固定用のスパイクと戦槌で攻撃すれば、魔物6体を相手に戦え


盾を広げて防御結界を拡張展開すればパーティー全員を守ることが出来る




「大分、体も動きに慣れてきたな、昼食をとったら今日のノルマを果たしに行く」


言わずと知れた、一日3700体の魔物の間引きである




昼食をとりながら今日の作戦を話し合う


「今日は、ジスレアとクリスが魔物に囲まれてしまうことを想定して」


「2人はクリスの防御結界で、魔物の攻撃から身を守りながら、戦ってもらう」


「後のメンバーは、昨日通り、各個で魔物を殲滅する」


「ただし、ジスレアとクリスから離れず戦い、何かあればすぐ助けに入れるようにしれくれ」


「「「「了解!」」」」


なんだか模擬戦みたいな感覚で「想定して」とか言っているが実戦だ


最近リーダー業が板についてきた雷蔵


本日の間引き作戦では、思わぬ収穫があるのだが、頑張ってる雷蔵へのご褒美か?




冒険者ギルドへ顔を出し、イェニーナへ魔物の間引きに行くことを告げる


昨夜は、彼女を食事に誘ったのが、何故か女子全員がついてきて一緒に食事をすることになってしまった


イェニーナが楽しそうに女子たちと話していたので良しとしたが


「では、行ってくる ライマールにもよろしく伝えてくれ」


「分かりました 皆さんの実力は存じてますが、気をつけてくださいね!」


「分かった」




門へ向かうと、門番(警備隊長)が何時ものようにさわやかにあいさつしてくる


「ライゾー 依頼か?」


「ああ、魔物を3700体ほど倒してくる」


「はは! 面白い冗談だ! 気をつけてな!」


そう普通なら冗談だと受け取られる


「では、行ってくる」


サムズアップを交わして門を出る


しかし、この挨拶、二人以外がやっているのを見たことが無い


超マイナーな挨拶だった




「よし、数もちょうどいい 今日はあの集団を狙う」


「俺と白玲イデアで道を切り開く」


「魔物の群れの中に突入したらクリスは防御結界を維持しつつ、二人で上位個体を優先的に倒してくれ」


「分かりました!」


「今日もがんばりまぁす!」


昨日一日で、ジスレアもクリスも連携がかなり取れるようになっている


クリスが張り切り過ぎて魔物が『存在力』ごと消滅しないのを祈るばかりだ




身体能力の向上に加え、『魔導外骨格』もアップグレードした一行は、敵を難なく薙ぎ払い群れの中央へとたどり着く


各自の魔導アームの数が増えたおかげで、殲滅力も申し分ない


いや完全にオーバーキル気味だ




クリス『魔導外骨格:リトニッド』の防御結界が無数の魔物の攻撃に晒される


しかし、神の名を持つ『魔導外骨格』が展開する防御結界は、白玲の超振動斬ですら切り裂けない防御力を誇る


全く危なげがない!結界が破壊されて、二人の女子が凌辱される


なんて展開は断じてない


その前に、クリスによって世界の終末が来てしまうだろう




至近距離での魔物の猛襲


ジスレアの過去のトラウマを蘇らせてしまうのでは?


と雷蔵は内心心配だった


クリスの結界への信頼が厚く、不安な様子も見せることなく5つの魔法を並行発動させ、上位個体を瞬殺していた


自分の心配が杞憂に終わりホッとする




白玲『魔導外骨格:ケンセイ』は、まるで華麗なターンを繰り返しているように見えたが、彼女が回転運動を繰り返す度に、周囲の魔物が抵抗する間もなく切り裂かれていく


周囲にに敵がいなくなると、鋭い剣の振りで風の刃を作り出す『風殺斬』を繰り出して、離れた敵を切り裂いていく


驚いたことに、魔導アームも『風切斬』を使いこなしていた


過去の戦闘データから『風切斬』のデータがフィードバックされたのだろう


制御担当の人工精霊にも、「うむ、いい腕をしている」と賛辞を贈る雷蔵


んん? 心なしか、魔導アームたちの動きがさらに良くなった気がする




イデア『魔導外骨格:テッペキ』は、もはや巨人ではなく鬼神の如くであった


「おらぁ! かかってこいやぁ!」


と怒号を発し、5つの盾からスパイクを射出し魔物を串刺しにし、雷の戦槌で頭部を叩き割る


魔物は即死しているので、必要はないのだが、力が有り余っているのか、戦槌からは一撃ごとに雷撃がほとばしる


あまりの迫力に、逃げ出す魔物まで出始める始末




仲間の活躍が凄すぎて、今日は自分の出番はないか?と思い始めていた雷蔵に


「マスター レアモンスター ギガメタルスライムを補足しました」


「おっとそれは、バベルが研究の為に欲しがっていたモンスターだったな」


「俺の出番は、どうもなさそうだし、捕まえるか」


マギメタルスライムは非常にレアな魔物で、錬金術の素材として高値が付く


しかし、臆病なうえに敏捷性が異常に高く、仕留めるにも、捕獲するにしろ非常に難易度が高い




一般的な冒険者ならほぼ捕獲は不可能


だが、マギメタルスライムは、ステルスモードに入った雷蔵『魔導外骨格:ジンライ』に全く気が付かない


音もなく忍び寄り


『魔導雷縛りの術』でマヒ状態にする


液体金属の体をしているので導電性が高く、効果てきめんである


『亜空間収納』から、保存用のカプセルを取り出しマギメタルスライムを入れて収納する


こうすれば、生きた生物でも『賢者の塔』へ送ることが出来る




「マスター 今日のノルマを達成いたしました」


見渡せばこのあたり一帯で生きている魔物は1体も居なくなっていた


「思った以上に早いな」


昨日より大幅にパワーアップしている女子たちであるが、その殲滅速度は雷蔵の予想を上回っていた


「よし今日はこのくらいにして回収して帰るか」


「今日は、みんなよく頑張ったから、帰ったら買い物にでも行くか」


「「「「やったぁ!」」」」




明日も殲滅速度は上がりそうである



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