第68話 魔導忍者は魔力の深淵を垣間見る 3/6


「ではまずは小手調べであ~る」


「ファイヤーボール!」


仰々しく魔法の名を唱え、メイザースは指先に炎をともす


小さな小さな白い炎を


そして吹けば消え去りそうな小さな炎に、そっと息を吹きかけてジスレアに向けて飛ばす




『っ! いけない!』


ジスレアは冷や汗を流しながら杖に魔力を込める


ゆっくりと向かってくる小さな炎


危険とは思えない


しかし彼女は感じ取っていた、その小さな炎が内包するとてつもない力を


白い炎が全てを燃やし尽くす『原初の炎』であることを




「ほう!? この炎の正体を見破りましたか」


ジスレアを称賛するメイザース


「そちらのお嬢さんの防御結界もなかなか優秀ですねぇ」


クリスはビクリとした


炎を見た瞬間に思わず展開しようとした防御結界は、発動前の状態


それを見破られる事は、即座に対策を取られるという事


魔法の勝負においては敗北に繋がりかねない




『水龍撃』


ジスレアが魔法を発動する


それは巨大な龍の姿をした水塊であった


それを白い炎にぶつける!


白い炎も水の龍も瞬時に消え去った


「ほう!的確に同等の力の水系魔法で相殺したであ~るか」


「少しでも力の加減を間違えれば水蒸気爆発で、消し飛ぶ可能性もあったのであ~る」


『小手調べでこれですか・・・気合が入りますね!』


いきなり致死性全開で始まった試練




「次はこれなのであ~る」


「ウォーターボール」


火の次は水


手の平にのるような、小さな水の塊


これも、ただの水の塊ではない


超圧縮されたその質量は


どれ程のものであるか見当もつかない


しかしジスレアの心は落ち着いていた


『ファイヤーボール』


直径10mはある、巨大な蒼い炎の玉が現れる




小さな水塊と巨大な蒼炎の球


2つが衝突して消え去る


「これはこれは! 蒼炎を出せるとは素晴らしいのであ~る!」


ジスレアはその称賛の言葉を


素直に喜べなかった




この蒼炎の球も、ジスレアが全力で圧縮している


大きさ的に見て、圧倒的に炎の方が強力であるはずが


2つはぶつかった瞬間に相殺された


コップ一杯程度の水と、直径10mの炎で同じ威力


その大きさが実力の差と言うことになる


しかも相手は明らかに手加減している




試練は続いていく


「ウインドカッター」


メイザースのホネホネな手のひらに、小さな竜巻が姿を現す


見た目はかわいいが、その威力は凶悪だ


『ロック・バレット』


ジスレアの前に大きな立方体の岩の塊が姿を現す


『存在進化』で高まったジスレアの実力で


その硬さは魔法金属級


しかし、もはや岩とは呼べない硬度の塊を小さな竜巻が飲み込むや否や、一瞬で切り刻まれてしまった




「ロックバレット」


メイザースは小さな小石を生み出し指で弾く


『っ!ウィンド・スピア!』


超圧縮された空気の渦が槍となり、小石と衝突する


『くっ!相殺できない!』


魔鉄鋼の壁など難なく風穴を開けるはずの風の槍が、小石に徐々に押され始める


ジスレアは、更に魔力を込め、何とか小石を止めることに成功した


しかし、小石は勢いを止めて地面に転がっただけで、傷ひとつなく原形をとどめていた


『何て言う硬さなの!』




「ふむ、最後はおまけで第一の試練は合格なのであ~る」


試練は第二、第三と続いていく


その数と威力を、徐々に増やして


『そろそろわしらの出番かのう』


『そうね私たちも、彼女の実力の内よね!』


『家賃を支払う時が来たか!』


『家賃 払う!』


ようかく四大精霊の杖の本領発揮の時が来た


と思いきや


『助けは必要ありません!』


『これは私の試練なのですから!』


ジスレアさん四大精霊の助力を断った




『しかしのう・・・嬢ちゃん、そろそろ限界じゃろ ?』


『これ一つでも受け損なったら死んじゃうわ』


『対価を受け取る刻ぞ!』


『家賃 払う!』


正直限界に近かった


だがジスレアは、確信じみたものを感じていた


今ここで誰かの力を借りてしまえば


雷蔵の隣に立つことが出来なくなる




『それだけは絶対に嫌っ!』


その時、肩に手が添えられた


周りなど見ている余裕はない


しかしジスレアには、それが雷蔵の手であることが直ぐに分かった


決して大きくはない、硬くゴツゴツした、でも暖かい手の感触


雷蔵は何も言わない


だがジスレアには雷蔵の言わんとしている言葉を温もりと共に感じ取る


『お前ならやれる!』




「む! 何かが変わったのであ~る!」


「どんどん来いヤァ!」


変わった


ジスレアさんの人格的なものが


先ほどとは、まるで別人であった


今まで何とかこなしていた無数の魔法を難なく撃ち落としていく


『天空の塔』がまだ地上にあったころ


実力のある冒険者達が次々とメイザースに挑んできた


しかし、今までにこれだけの数、これだけの威力の魔法を受け切ったものなど1人もいない


メイザースには分かった


『これが愛の力なのであ~るな』


『少しばかり、羨ましいのであ~る』


「うむ! 合格なのであ~る!」




「やったぁ!」


嬉しさのあまり、思わず雷蔵に飛びつくジスレア


「よくやったな」


これを優しく受け止める雷蔵


頭を撫でられ、彼女はようやく自分が今していること事に気が付く


モジモジキャラ完全復活である




「じゃあ、次は誰の番であ~るか?」


「「「「全員やるのかよ!」」」」


一斉に突っ込みが入る


「冗談であ~る!」


してやったりと、笑うメイザース


歯をカチカチ鳴らして笑うリッチ


なかなかにシュール光景だった




こうして、ジスレアは命を賭して


自身が尊敬する大魔導士 メイザースの試練を乗り切った



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