第51話 人工精霊は恋をする

雷蔵とイブ


二人は今、地下コロシアムの特等席に座っている


途中、とんだ邪魔が入ったが、何とか開催時間に間に合った


残りの女子たちとも合流出来たが、何やら不機嫌だ




「何であたいらは、別行動なのさ?」


「お前たちとは、いつも一緒に居られるだろう」


「イブがこの姿で、居られる時間は限られている」


「そのくらい融通しても、罰は当たらんだろう?」


「「「「うっ!」」」」


そう言われてしまうと返す言葉もない




今日は、プレイベントのはずだが、かなりの人だかりだ


この町の有力者たちにその護衛、使用人


辺境伯が招待した者たちはすべて参加しているそうだ


皆このイベントの価値を見極めようとしているのだろう


後は欲望にまみれた目で、ハイエルフ(の外見をした)クローネを見ている者もいるようだ




里から出ることが殆どないエルフの中でも、ハイエルフは外界に姿を現したという記録すらない


さらに、強力な魔物を使役する凄腕のモンスターテイマー(あくまで設定)となれば、どれほどの価値になるか見当もつかない、法を犯しても手に入れようとする者がいてもおかしくない


ただ、その者たちが企てを実行したとき


そこには地獄が待っている




司会はクローネが担当するようだ


6000年間ボッチだったにもかかわらず


そのコミュ力は極めて高いものだった


「皆さま、本日はお忙しい中お集まりいただき、誠にありがとうございます」


「只今より、『モンスターレスリング』プレイベントを開催いたします!」


まずは、主催者である辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガの挨拶があり


その後クローネが『モンスターレスリング』についての解説に入る


説明の概要は以下の通り




・試合はギルドが規定したモンスターのランクに合わせたトーナメント方式で行う


・ランク毎のトーナメントで見事勝利した魔物は、次回から上のランクに昇格できる


・そして、最上位ランクで勝利した魔物は、最強の証である『王者の首飾り』と名前が授けられる


・何でもありの真剣勝負で、相手が死亡、気絶などの戦闘不能状態になった時点で勝敗が確定する


残酷なルールのようだがこれには理由がある




「このコロシアムには『真実と偽りの結界』を展開する機能があります」


「結界内で起こったことは、結界から外に出るとなかった事になるのです」


「結界内で起こったことは、結界から出れば偽りになる」


「つまりモンスターが、怪我を負ったり、死亡しても、元通りになるのです」


説明にはないが、痛覚も鈍化されており、切られようが殴られようがそれほど痛くない




「おお!それは素晴らしい、兵士たちの訓練にも使えそうですな」


「是非とも、研究の許可を頂きたい!」


さっそく、この地下コロシアムの価値を見抜いて、辺境伯に今後の交渉しようと考える者たちが出始める




「では、早速試合を始めていきたいと思います」


「なお本日は、プレイベントの為、各ランクにつき1試合ずつを予定しております」




まずは、Eランクから、ゴブリン対スライム


見ている者たちは弱い魔物同士の戦いなど興味がないと言った様子である


しかし、仕合が始まるとみな驚愕することになる


「カーン」


ゴングが鳴ると同時に、ゴブリンの姿が掻き消える


「な! ゴブリンが消えた!」


瞬時にスライムの背後に姿を現し、ナイフでスライムに斬りつける


一瞬で勝負がついたかに見えたがそうではなかった


ゴブリンが切り裂いたスライムは本体ではなく分裂体いわゆる身代わりだった




「な!あの一瞬で分裂したのか!?」


スライムは、分裂体を残し、本体は滑るような動きで距離をとる


「ス、スライムが魔法だと!?」


ゴブリンの背後を取ったスライムが、水系魔法を使う


高圧ので打ちだされた水弾がゴブリンを貫く


「勝負あり! 勝者 スライム」


「「「「おお!!」」」」


まさか、最低ランクから、このような高度な戦いを見られるとは思っていなかった観客達から歓声が起こる



Dランクは、ダークウルフ 対 アイアンタイガー


鉄の鎧に覆われたアイアンタイガーが有利と思われた


アイアンタイガーが鎧の一部を小さな刃と化して打ち出すと、ダークウルフはそれを避けるように黒い霧の中に消える


次の瞬間、アイアンタイガーの影からするりと姿を現し、鋭い爪で容易く鉄の鎧を切り裂いた


「勝負あり! 勝者 ダークウルフ」


「おいおいおい! ダークウルフってあんなスキル使えたっけか?」


「それを言うならアイアンタイガーも、あんな遠距離攻撃してきたことないぜ!」




Cランクは、オーク対リザードマン


オークは斧で斬激を飛ばし、リザードマンはそれを巧みにかわし、見事な槍さばきを披露する


槍が突き出される度に、その鋭い音がコロシアム中に響くほどだ


最後は、スピードを生かしたリザードマンが懐に入り、オークを槍で貫いて勝負が決まる


「勝負あり! 勝者 リザードマン」


「おいおい、まじでCランクかよ!?」


「俺たちパーティーで相手しても、どっちにも勝てる気がしねぇ」


Cランクの冒険者らしい護衛達がちょっと落ち込んでしまった




Bランクは、オーガ対アイアンゴーレム


ガチンコの殴り合いである、明らかに硬度的にアイアンゴーレムが有利と思われたが


アイアンゴーレムのまさしく鉄拳をまともに受けても怯みさえしない


よく見るとオーガは体から光を発している


「アイアンゴーレムのパンチまともに受けて平気なのかよ!」


「あのオーガの身体強化おかしくねーか!?」


華麗なバックステップで距離を取ったオーガが溜めに入る


光が手に集まっていく、動きは早くないはずの、アイアンゴーレムがあり得ない速さで距離を詰めるが


オーガの光を纏った右パンチで、鉄の体に大きな穴をあけられ活動を停止する


「勝負あり! 勝者 オーガ」


「出たっ! 光のパンチ! すげぇ!」


「アイアンゴーレム貫通させるってどんだけの威力だよ!」


なんだか、招待客を護衛する冒険者達の方が盛り上がっている


一般人にはその動きが速すぎて捉えられないからだろう


その為に巨大な映像投影魔道具に試合の決定的瞬間はスローモーションで再生されるようになっている


至れり尽くせりだ




Aランクは、グリフォン対キメラ


空中怪獣大決戦である!


グリフォンがファイアブレスを放つが、キメラはすんでのところで回避する


「グリフォンがブレスだと!?」


キメラの前面に魔法陣が現れる


轟音と共に雷撃がグリフォンを襲う


「すっげ!あの雷撃魔法すっげ!」


「いくらAランクでも上位の雷系魔法は使えんはずだぞっ!」


グリフォンはたまらず地面に落下


勝負はついたかに見えた


しかし、上級の雷撃魔法を受け瀕死のはずのグリフォンの全身を炎が覆う


空を駆けてキメラに突進、炎と衝突の衝撃でキメラは吹き飛ばされ結界に激しく衝突、地面に落下し動かなくなった


「勝負あり! 勝者 グリフォン」


「え? 何今の?」


「あれって幻と言われる、ファイヤーストライクだぜ!」


「グリフォン空中走ってなかったか?」


「ありゃ天駆ってスキルじゃねぇのか、始めて見た!」


幻の必殺技とスキルがさく裂したようだ




「「「「おおおおお!」」」」


大歓声が巻き起こる


日頃から魔物を相手に戦っている冒険者ですら、度肝を抜くような戦いだった


クローネの強化合宿の成果が存分に発揮されたようだ




「ご鑑賞いただき誠にありがとうございました」


「以上で、今回のプレイベントは終了いたします」


「なお皆様には、コロシアムの隣にございますレストランにてご歓談頂ける用意をしております」


「今後も『モンスターレスリング』が開催できますよう」


「ご検討のほどよろしくお願いいたします」


クリスの挨拶でイベントは締めくくられた




「素晴らしい! 辺境伯様 是非とも『モンスターレスリング』継続してご開催ください」


「その際には、店舗スペースの一角をぜひお借りしたい!」


「「「我々も是非!」」」


商人たちは、店舗のスペース確保に必死だ


「店舗スペースの貸し出しについては、公正を期すためくじ引きで決定させていただきます」


「是非とも、御贔屓頂いているいるお客様をお連れしたいのですが、特等席での観覧料は?」


「試合に対する賭けは、誰か仕切る者は決まっておるのですか!? ぜひうちの商会にお任せいただきたい!」


辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガは、もみくちゃにされていたが、さすが領主取り乱すことなく、対応していた




「クローネ ご苦労さん 司会まで務めるとはすごいな」


「マスター ありがとうございます!」


「でも、人工精霊の皆さんが頑張ってくれたおかげです」


「ああ! 素晴らしい戦いだった!」


「あの、それでマスター 私頑張ったので・・・」


モジモジしながら上目遣いで雷蔵をみるクローネ




頭をなでて欲しいと言う合図であった


数千年を一人過ごして来た、人との触れ合いなど無かった彼女?にとっては、雷蔵とのスキンシップは貴重なもののようだ


しかし『モンスターレスリング』のプレイベントは雷蔵も楽しみにしていた


そして期待以上の出来栄えだった


何かご褒美を上げるのは当然だと思っていた


頭をなでながら、たっぷりと『合力』を注いでやる


頬を赤く染め、呼吸を荒げて恍惚の笑みを浮かべるハイエルフ


その姿は艶やかであった




やっと、招待客から解放された様子の、辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガへあいさつに向かう


「おお!ライゾー殿 今回のプレイベントは大成功でした!」


「是非とも定期的に開催してもらいたい」


「俺は何もしていない」


「全てこのクローネのお陰だ」


そういってハイエルフの少女を紹介する


「クローネ殿 モンスターテイマーの腕もさることながら、素晴らしい司会 今後とも、是非お願いしたい」


「勿体ないお言葉です、『モンスターレスリング』の継続開催が出来て何よりです」


辺境伯は今後も有力者たちの対応が忙しいらしく、今後の話は後日と言うことに、なりその場を離れる




「クローネ ダンジョンの管理も忙しい中、任せても大丈夫か?」


「もちろんですマスター!」


「友達も出来てました」


「いろんな人に喜んでもらえて、こんなに嬉しい事はこの数千年間で初めてです」


「是非とも任せて頂きたいです! お願いいたします!」


「そう言ってもらえると助かる 頼んだぞ」


クローネにダンジョンの管理以外に生きがいが見つかったようである




会場を後にし、再びイブと二人で街を歩く


女子たちは今度こそ自分たちも!とついて来ようとしたが、にらみを利かせたらそそくさと去って行った


今頃は、やけ食いと称して、どこぞの飲食店の食材を食いつくしている事だろう


主に、白玲とイデアが




夕食も高級レストランにしようと思ったが、イブから


「風見鶏亭に行ってみたいです」


とリクエストがあったのでそれに答える


「今日は楽しんでもらえたか?」


「今日は、私の一生の思い出になる一日になりました」


「大げさだな、すぐにとはいかないが、一緒に過ごせる日はこれからもあるのに」


大げさなどではない、なぜなら今日は、自分の気持ちに初めて気づいた日なのだから




「マスター 今後も私とこのような形で会っていただけるのですか?」


「もちろんだ」


「マスター 私は『強化外骨格』機能の一部として生まれました」


「ひとつの部品の同じで、消滅すれば他の人工精霊と入れ替わる・・・そんな存在だと」


「そんなわけないだろう」


「イブ代わりなど、どこを探しても存在しない」


「俺にとってイブはかけがえのない存在なんだ」


『嬉しい・・・』


イブのほほに涙が零れ落ちる


「すまん、俺は何かお前を悲しませるようなことを言ってしまったか?」


あたふたする雷蔵を見て、ほほ笑みながらイブは答える


「人は嬉しい時も涙を流すと知識にはありましたが」


「まさか自分がうれし涙を流す日が来るとは思ってもいませんでした」




「マスター 私のわがままを聞いてください」


「私は人工精霊です」


「当たり前ですが恋をしたことがありません」


「真似事でいいのです、たまにこうやって食事をしたり、町を散歩したりして」


「私の恋人役をしていただけませんか?」


「俺なんかでいいのか?」


「はい、マスター以外に適任者はおられません」




こうして、二人はごくたまに、デートをする


腕を組んで街を歩いて、おいしい食事をして


恋人の真似事


イブには、それでも充分に幸せだった



今日、人工精霊イブは恋に落ちた


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