第50話 魔導忍者は人工精霊とデートする(イブ編)

今日は待ちに待った『モンスターレスリング』のプレイベントの日


開催は午後からの予定なので、昼食を食べに向かう雷蔵


その隣には見慣れない女性の姿があった




人工精霊イブ


決戦兵器『魔導外骨格』の装着者をサポートするために造られた存在


しかし、今の彼女の姿はれっきとした人の姿だった


紫の瞳、紫の長い髪を後ろでまとめ、パンツルックに眼鏡といかにも出来る秘書といったスタイルだ


イブさんらしいと言えばそうなのだが、しかしこの格好は、この世界ではかなり浮いているはず


が、周りの目は、その美しさに目が奪われて服装を不審に思う者はいない




しかも、二人は腕を組んで歩いている


普段の雷蔵であれば嫌がるはずなのだが


「マスター 女性をエスコートする際は、このように腕を組んで歩くのがマナーです」


と言われてしまえば、嫌とは言えなかった




他の女子4人組はそれに猛反対したが


「私がマスターと腕を組んで歩くことが認められれば、皆様がマスターと歩く際にも同じことが可能となりますが?」


と耳打ちされて意見はあっさり覆った




『マスターのお側にいる事に変わりはないですが、こうやって直接触れ合えるのは、また格別です』


『あの時断らなくてよかった・・・あの時の私グッジョブ!』


心の中で、過去の自分に感謝するイブなのでした




時間は、レストラガの町が、魔物の脅威から脱して間もない頃までさかのぼる


「人工精霊達には、今回よく働いてもらった」


「何か礼がしたいと思うんだが、皆の希望を聞いてくれないか」


と、雷蔵がバベルに相談したことから始まる




数秒後に


「マスターから『合力』を頂きたいが80%」


「マスターの周りで飛んでいたいが15%」


「残りは、マスターの嫁になりたい、纏わりつきたい、添い寝したいなどです」


「・・・・」


雷蔵は、美女ばかりか、精霊にも、もてる男なのだった!




「『合力』は『賢者の塔』でも練成できるようになったはずだか?」


『賢者の塔』は6000年間から大気中から魔力の元である魔素の吸収し魔力として蓄積を行ってきた


さらに雷蔵の転生によって、『気』の存在を確認され研究が始まる


最近になり、『気』の元である『精』を大気中から吸収し『気』として蓄積することにも成功


今では、その魔力と『気』を使って『合力』の練成にも成功したのだ


しかし、雷蔵が練り上げる『合力』との質の差は未だに埋められていないのは事実




「未だ第一チャクラで練り上げた程度の格でしか『合力』の生成は成功しておりません」


「どうも、以前マスターから『合力』を頂いた人工精霊から質の違いが発覚してしまったようです」


別に隠していたわけではない


だが、どうやら雷蔵から『合力』を直接注いでもらうと、まるで生まれ変わったようと言えるほどの力を発揮できるそうだ


その後の人工精霊の働きが格段に良くなったことからそれが実際のデータとして実証された


雷蔵は、人工精霊たちの胃袋をつかみつつあるようだ




「では、人工精霊たちには、交代制で休みを作って」


「その日に俺が人工精霊たちのして欲しいことを聞くってのはどうだ?」


「私たち人工精霊はエネルギーさえ補充すれば休みは必要ないのですが」


「心や体を休ませることは、人生を充実させるものなんだ」


雷蔵は前世で教わった事を思い出しながら口にした


あの短い時間で、どれだけ自分が癒されたか


自分よがりかもしれないが、自分のために頑張ってくれた人工精霊たちにも、それを知ってほしかった




「ホムンクルスの素体の予備はあるか」


「はい現在10体ほど保存されています」


「じゃあ試しに、イブとアダムがホムンクルスに入って、二人を俺が持て成すってのはどうだ?」


「「マスターの貴重な時間を、そのようなことに使って頂くなどできません!」」


二人にシンクロ状態で拒否されてしまい


雷蔵かなり落ち込む


「俺にしてはいい思い付きだと思ったんだが」


人工精霊たちには本当に感謝しているその気持ちを表したかった


だが、人を喜ばせる事など今まで考える余裕がなかった


そんな自分がふがいないと思う


「「せっかくのお気持ちを台無しにするところでした」」


「「改めてお願いしてもよろしいでしょうか?」」


そんな雷蔵の気持ちを察した二人


そこに断るなどと言う選択肢はなかった




「俺は今まで人を喜ばるような事をしてこなかった」


「いや、余裕がなかった」


「だが、みんなが支えてくれるお陰で心に余裕が生まれた」


「だから何かお返しがしたかった」


「それが叶って嬉しい」


そう言うわけで、二人を一日ずつ交代で持て成すことになったのでした




この町でも、一流と言われるレストランだった


「このような高級なお店で食事など、よろしいのですか?」


遠慮がちに訊いてくるイブに


「この間の魔物の大群討伐の特別報酬だと、金を無理やり渡されてな」


「すこしばかり、懐に余裕がある」


まあちょっとばかりどころの金額ではないんですがね! (;'∀')




イブは、初めての食事であったがマナーは完璧であった


この日の為に、食事のマナーに関して『賢者の塔』の知識で予習していたのだ


忙しい中、二地だけの時間を与えてもらえたのだ


この日がどれ程待ち遠しかったことだろう




「っ! これが『食事を味わう』という事なのですね」


「具合が悪くなったりはしていないか?」


「素晴らしいとしか言葉にできません」


気に入ってもらってほっとする雷蔵


食事が終わって、良いころ合いなので、『モンスターレスリング』の会場である、地下コロシアムへと向かう


そこに場をわきまえずに現れてしまったのだ、いつもの襲撃者どもが




無力そうな女を連れているとみて、勝算があると思ったのであろうか?


それは大きな間違いな間違いだった


致命的な間違いだった




10人の襲撃者たちが一斉に襲い掛かてくる


「お前たち 俺達の大事な時間を邪魔したな」


『俺達の大事な時間』


イブにとって


それは、特別で掛けがえなない意味を伴って心に響いた


「ただで帰れると思うなよ?」


感情が滅多に表に出ない雷蔵だが


今ははっきりと、怒りの感情がでている




「こい! 『根性注入棒(改)』!」


根性注入棒は バージョンアップを果たしていた


『魔導雷縛りの術』は必要なかった


雷蔵のあまりにも強い殺気に、襲撃者たちはその場を一歩もたりとも動けなかったのだ


へたりこむ者


粗相をしてしまう者


泣き出す者


立ってはいるが小鹿のように足をプルプルさせている者


『『『『『動けば殺られる!!!』』』』』


本能がそう悟ってしまったのだ


そこからはいつも以上の地獄絵図だった




当社比1.5倍


尻をパンパンに腫らした男たちが広場に放り出される


「お前たちには『罪の刻印』が刻まれた」


「どこに逃げようが隠れようが、お前たちの居場所は筒抜けだ」


「そして、お前たちが悪事を働くとき」


「地獄の使者がお前たちの元に現れるだろう」


予言のように言い残し


雷蔵はイブを連れてその場を立ち去る




『根性注入棒(改)』の新機能『罪の刻印』


『罪の刻印』つけられた者は、『魔導ドローン:アルゴス』に常にロックオンされ追尾される


「悪は根元から断つ!」


雷蔵のその一言で追加された機能だった




アジトに戻ろうものなら、そこに『地獄の使者』が現れ『お仕置きを行う』


そして、裏の組織に依頼したものを吐かせ、依頼者にも『お仕置きを行う』


何度も、何度も、その者たちが改心したと判断されるまで延々と繰り返される




依頼者が平民であろうが、貴族であろうが、王族であろうが、それは問題ではない


世界は不公平だ、持たざる者が、持つ者に踏みにじられる


しかし、雷蔵が作り出す世界、今はまだその規模は小さなものだが


そこでは全てが平等に与えられる


幸福も


そして罪への贖罪も




「すまなかったな折角の時間を無駄にした」


「そんなことはありません」


「私などの為に、怒ってくださって嬉しく思います」


「当たり前だ、イブには何時も世話になっている」


「それにイブは、俺の大事な家族のような存在だ」


そう言われたときにはっきりと気づく




私は、人工精霊イブ 決戦兵器『魔導外骨格』の装着者をサポートするために造られた存在


自分はただ不器用だが、優しくて暖かい主人の為に、役に立ちたいだけだと思っていたが、そうではなかった


『ああ! そうだったんだ・・・私はマスターの事を』


ようやく自分の本当の気持ちに気付いたイブだった


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