第52話 魔導忍者は人工精霊とデートする(バベル編)

『モンスターレスリング』のプレイベントから2週間が経過した


雷蔵は一人の男とカフェで話をしていた


執事姿が良く似合う、超イケメン


周りの女性たちからの熱い視線を一身に受けていた


なんと、その正体は


『賢者の塔』で日夜活躍している人工精霊 バベルだった


本当は、イブを持て成した翌日に、バベルを持て成す予定であったが、今日まで延期となっていたのは、急遽雷蔵たちに依頼が舞い込んできたためだった




「マスター 私以外のダンジョンコア達を救ってください」


雷蔵たちは、第56号 ダンジョンコアであるクローネから依頼され、世界各地にあるダンジョンを巡っていた


クローネ同様、他のダンジョンコアも約6千年もの間メンテナンスを受けていない


恐らく誤動作を起こしているダンジョンも少なくないはず


下手をすると、モンスター生成機能が暴走してダンジョンからあふれ出し、モンスター・スタンピードを起こす危険性がある




この星 ロワン・エトワール(遠い星)には、120のダンジョンコアが設置されている


残念ながら、ダンジョンコア同士のネットワークは存在せず連絡はつかなかったが、各コアの設置された場所は記録にあった


それを頼りに、ダンジョンを攻略して回り、『賢者の塔』とリンクして回っていたのだ




各コアからは『存在力』の提供してもらい、代わりに『合力』を提供する契約を結んでいる


『合力』は『賢者の塔』から直接リンク経由で送ることが出来るのだが、やはりと言うかなんというかダンジョンコアたちは、直接雷蔵から受け取りたいとせがんできた


ダンジョンコアたち必死に懇願する姿に、さすがの雷蔵も無下には出来なかった


さすがに全てのダンジョンを毎回、周るわけにはいかないので、出来る範囲でという事で話はまとまったが


各ダンジョンを攻略していく必要があるため、時間がかかったが、2週間で、3分の1のコアのメンテナンスを完了した


代々の管理人たちが、何年もかけ世界を旅して設置した転移魔法陣と『魔導外骨格』の飛行能力を併用した成果だ




その際、獣人族の村落も訪れていた、雷蔵が建国予定の『賢者の国』への移住の希望者を募るためだった


獣人族は国を作らず、各種族が各地に村を作って生活している


人よりも優れた身体能力を持つが、文化レベルと組織力では人には遠く及ばない獣人族は、心無い者たちから迫害を受けるだけでなく、略奪や拉致、虐殺の標的にされていた


そこで雷蔵は、『獣人族を安全な場所『賢者の国』に住まわせ守る』と言う、『賢者の塔』の管理者たちが長年実現を目指して来た計画を実行に移したのだ




どの村も、最初は不審がり、戦闘的な種族などは


「我らに、言う事を聞かせたければ、俺を倒してみろ!」


と勝負を挑んでくる者も居たが、白豹族の白玲に完膚なきまでに叩きのめされると


「我々は白玲様に忠誠を誓い、配下に加わります」


と従順になるどころか忠誠を誓われてしまい


なんだか白玲が女酋長みたいな感じになってしまった




もちろん住み慣れた土地をすぐに離れるのは抵抗があるだろうという事で、連絡用の『魔導ドローン:アルゴス』と『賢者の塔』の転移魔法陣を残していく


人が襲撃してきた際には、アルゴスが察知し、『賢者の塔』の使者達もとい、『根性注入棒(改)』を装備した『地獄』の使者達が、すぐさま転送され、防衛に当たれるようになった


襲撃者たちは悪夢を、いや地獄を見ることになるだろう


食糧が不足している村々には、当面乗り切るのに十分な食料を保存した『亜空間収納』の魔道具を貸し出した


不作続きで、少なくない餓死者を出していた村では泣いて感謝する村人もいた




2週間ぶっ通しで、ダンジョンと獣人族の集落を回っていたので、肉体的には無敵超人な仲間たちも、精神的な疲れは出てきてしまう


平静を装ってはいたが、さすがに疲れが見え始めていた


さすがに小休止が必要だろうと、一旦レストラガの町に戻ってきたのだ




「いやぁ、『モンスターレスリング』すごい迫力でした!」


「『真実と偽りの結界』を使うとは素晴らしいアイデアです!」


「クローネもやりがいが出来たようだし、人工精霊たちの訓練にもなる」


『モンスターレスリング』は初日から大盛況で満員御礼状態だった


クローネは、プレイベントでの改善点を見直し、闘技場から離れた観客も試合を楽しめるように大型の映像投影魔道具を設置したりしていく予定だそうだ


人工精霊たちも、観客たちが喜んでくれるのがうれしいようで、日々訓練に励んでいる




しかし、バベルが一番食いついたのは『モンスターレスリング』ではなく『スイーツ』だった


何気なく入ったカフェで、ケーキを注文し、口にした瞬間


「こ! これはっ!? なんと素晴らしい!」


「私はこの日の為に生まれてきたと言っても過言ではありません!」




「そうか、喜んでもらえて何よりだ」


「マスター 私は正直あなた様から人工精霊たちの休暇の話を頂いた際」


「そんなものは必要ないとさえ思っておりました」


「しかし、休暇を取り始めてから、人工精霊たちの作業効率は約20%上昇しております」


「そして、今日私自身がその身をもって、自分の考えが浅はかであったと痛感いたしました」


「いや、そんな大げさに考えなくていい」


照れくさそうに答える雷蔵




「イブにも言った事だが、俺はお前たちがいなければ、『邪竜』も魔物の大群も退けることが出来なかった」


そこには、もちろん26代目も含まれている


彼は『魔造人間』と言う雷蔵の体を生み出し、『魔導外骨格』と言う最強の力を与えてくれた


「イブがサポートしてくれなければ、『邪竜』に俺の攻撃は当たらなかった」


「お前が、装備を整えて『量産型魔導外骨格』達を転送してくれなければ、レストラガの町は壊滅していただろう」


「『勿体ないお言葉です』」


命令に従った 


ただ、それだけの事のはずであるのに、自分たちの主人は心から感謝してくれる


イブとバベルは雷蔵の感謝の気持ちが嬉しかった




「そこでだ 俺は賢者の塔に関するすべての権限をお前に譲る」


「『え!?』」


「今日から、お前が『賢者』だ」




「マスター お待ちください


「あなたは私が裏切った時の事をお考えですか?」


「大げさでもなんでもなく『賢者の塔』は世界を支配する力を持っています」


「それを、私が支配するという事なんです」




「お前が、世界を支配する気なら、何も言わずに権限の譲渡を受け入れるはずだ」


「それに、お前が本当に世界を支配するのならば、俺はそれに力を貸す」


「それだけだ」


「お前なら『賢者の塔』の力を正しいことに使ってくれると信じているからな」


「俺では『賢者の塔』の力を十分に使いこなせない」


「バベル お前こそが『賢者』に相応しいと俺は思う」


「だから任せたぞ」




「これからは、自分の判断で『賢者の塔』の力を使ってくれ」


「ああ! これからも『賢者の塔』に入れるようにだけしてもらえると助かる」


「たまに頼みものを作ってくれると、なお助かるな」


にやりと笑って、バベルにそう告げる雷蔵




「マスター 何をおっしゃっておられるのですか?」


「私が『賢者』であるのならば」


「あなたは『賢者』の主なのです」


「私は、この存在が消滅するその日まで、あなたに忠誠を誓います」


席を立ち、片膝をついて最敬礼するバベル



その日、人工精霊 バベルは『賢者』になった


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