第61話 魔導忍者は賢者の国討伐連合軍と手合わせする(白玲編)1/3


「魔導重騎士大隊が壊滅しただと!?」


帝国軍司令官は信じられなかった、今までの戦いにおいて無敗、一軍に匹敵する500体の魔導アーマーの全てを壊滅する戦力などこの世界に存在するはずがない


「相手は『賢者の国』の全部隊か?」


「いいえ閣下 敵は1人です」


「なんどと!?」


耳を疑うしかなかった、あの無敵の魔導重騎士大隊が、たった1人に壊滅させられるなど、常識では考えられない


あれこれと考える間もなく伝令が届く




「閣下敵が現れました」


「魔導重騎士大隊がなくとも帝国軍約4万! して敵の数は?」


「約400と」


「400だと!?」


「黒い全身甲冑の戦士400名が、気付かぬ間にわが軍を包囲しております」


「加えて前方に隊長格と思われる戦士が二名」


「相手の武器は?」


「木の棒です」


「木の棒だと!? 舐めているのか!!!」


「それが、唯の木の棒ではないようなのです」




「わが軍の兵士が、戦闘に入りましたが、敵はわが軍の兵士の剣を木の棒で受け止め、まるで手加減しているように蹴り飛ばしているそうです」


「わが軍は未だ、包囲をを崩すこと叶わず」


報告している者自信が信じられないと言った面持ちだった




場所は変わり、帝国軍4万の陣営の前で緊張した様子もなく会話をする者達がいた


「敵は4万、新しい剣の試し切りにはちょうどいいんじゃないか」


「何なら俺も手伝うが」


黒い全身甲冑『魔導外骨格:ジンライ』を纏った雷蔵の言葉に


「我1人で十分!ライゾーは手出しは無用!」


純白の美しい全身甲冑『魔導外骨格:ケンセイ』を纏った白玲がきっぱりと答える


「我にはこの剣がある」


「敵が10万であったとしても、負ける気がしない!」


ケンセイの両の手には白い双剣が握られている、緩やかに反り返った刃が美しい輝きを放っている


『剣星竜の双剣』白玲の新しい剣だった






白玲がこの新しい剣を手に入れたのは、この戦が始まる少し前に遡る


「白玲様に新しい武器をご用意いたしました」


『賢者』で執事なイケメン人工精霊バベルが片膝をつき、白玲に向かってを差し出す


淀みの無い流れるような身のこなし、武人でもないバベルの動きに白玲は感心した


しかし、剣に視線を移すと、そこから目が離せなくなる


「なんと美しい!」


剣とは、人を殺す道具、しかしバベルが両手で差し出すその剣は、芸術品のような美しさを持った大剣だった




その剣はすべてが光沢を放つ白い剣だった


剣の周囲にはあふれ出した力が光の粒子となってが漂っている


剣を一振りしてみるその軌道を描くように流星の如く光の線が描かれる


その幻想的な様子を見続けていると吸い込まれそうな気分になる


その大きさは身の丈もありそうな大剣、とても常人が震える重さではないはず


しかし、バベルは涼やかな表情を崩すことなく、その剣を支えている


「さぁ どうぞ手に取ってご覧ください」




白玲はその剣をつかみ取る


「!? 何と言う軽さっ!」


『賢者の塔』で作られる武器には重力制御の術式が組み込まれており、重さが軽減されているが、この剣は今まで使っていた剣よりはるかに軽かった


「驚くのはまだ早いと思いますよ」


爽やかにほほ笑むバベル


パチンッと指を弾くと、床から金属の塊が浮かび上がってくる


「魔導外骨格の素材である魔法金属の合金です」


「まずは、『何も考えずに』魔法金属の合金に向けて剣を振ってください」


白玲は言われた通りに『何も考えず』剣を振る


カキンッと金属音がして剣は、塊に弾かれる


まぁ、当然である


対機神用の決戦兵器の素材である魔法金属の合金


簡単に傷つけられるわけがない




「今度は、『この魔法金属の合金が切断される様をイメージしながら』剣を振ってみて下さい」


白玲は、言われたとおりにイメージし剣を振りきる


シュンッと剣は何の抵抗もなしに振り切られた


「っ!? すり抜けたのか?」


「いえ、切断されたのです」


バベルがそう言った瞬間、魔法金属の合金の塊は、斜めにズズッと滑るようにずり落ちた


その切断面の滑らかさ




「この剣は、『切る意志』がなければ、ただの破壊不可能な剣でしかありません」


いや、その破壊不可能な時点で、ただの剣ではない


「しかし、『切る意志』が強ければ強いほど、切れ味は冴え渡るのです」


「白玲様が強く『切る意志』をもってして振れば、この世界で切れないものは無いでしょう」


しかし『切る意志』が切れ味を変える剣



「この剣にはもう1つ特徴があります」


「白玲様 この剣が二振りの剣『双剣』になった時の姿をイメージしてください」


白玲は、そんなことが起こるはずはないとは思いながらもイメージする


その瞬間、剣が光を放つその光は左右に分かれ二つになる光が消えた時、白玲の両手には双剣が握られていた


やはり全てが白の素材で出来ており、光の粒子を発している


始めて手にしたとは思えないくらい手になじんだその双剣は、大剣と同様驚くほどの軽さだった




「いやぁ 『邪竜』1体分を費やした甲斐がありました!」


満足げに語るバベル


その剣を形作るに要した素材『邪竜』1体分


邪竜とは悪しき力の象徴、そのような存在を素材に使えば生み出したものも邪悪な力を宿すが道理


「『邪竜』を使っただと!?」


「そ、それでは、この剣は悪しき剣ではないのか!?」


白玲は驚愕しながらバベルに問い質す


「白玲様は、この剣を手にした際に、邪悪な気配をお感じになられましたか?」


「いや、全く それどころか純粋に強大な力が沸き上がってくるのを感じた」




「『邪竜』とは邪悪な力の化身と言っても過言ではありません」


「しかし、回収された『邪竜』の遺骸を調べたところ、邪悪な要素が一切検出されませんでした」


「し、しかし! 数万、数十万の命を奪った邪悪なる龍の遺骸であれば」


「死してなお邪悪な力が残るはず!」


「白玲様がそうおっしゃるのも、ごもっともなことです」


「私も、『邪竜』の邪悪な力を持った素材をどう扱うか悩むところでしたので」


「では何故? 邪悪なる力はどこに消えたのだ?」




「恐らく、『邪竜』を一撃で滅した、マスターの『電磁手裏剣』が原因だと思われます」


「最大出力かつ最高位の『合力』を充填した物体が超高速で激突した際に、邪悪な要素が消し去られたと推測しております」


「しかし、実際のところ、それが事実かどうか、私にも確実に判断は出来かねますが」


『電磁手裏剣』それは


破邪の矢ならぬ、破邪の手裏剣だった


しかし『賢者』の称号を持つバベルですら正確に原因を特定できないとは


『合力』と力


『賢者の塔』の英知をもってしても未だ不明な部分が多いようだ




「この剣を白玲様の『魔導外骨格:ケンセイ』の名を冠して『剣星竜の剣』と命名させていただきました」


『邪竜』の邪を滅し


純粋な力のみをその身に宿し


『切る意志』によってその鋭さは増す


決して壊れず


戦局によって『大剣』と『双剣』に姿を変える




白玲はこの世で最強の剣を手に入れたのだった


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