第25話 魔導忍者は聖女を救う(後編)


魔力が尽きてゆく、防御結界も間もなく破られるだろう


その時が自分の人生が終わるとき


「ガストムさん達無事に逃げられたかしらぁ?」


自分の命が尽きるかもしれないその時に、自分を見捨てたパーティーメンバーの心配をしている


見捨てられ事にも気づいている、でも自分が足止めしなければ全員死んでいただろう


自分1人の命で他のメンバーが助かるならそれで良かった


「孤児院に、もう恩返しが出来ないのが残念だわぁ」


本当の母親の様に愛情をそいでくれたシスターたち


共に育ち、自分を姉のように慕う子供たち


最後にもう一度会いたい


だがその願いは叶いそうにない


だが彼女に悔いは無かった


少なくとも3人の冒険者の命が助かったのだから


結界が破られ、武骨な鉄の塊のような斧が目の前に迫る


それを受け入れるように彼女は眼を閉じた




ふわりと自分の体が浮いたような錯覚を覚え見上げると、黒髪、黒瞳の少年に抱きかかえられていた


魔物の斧は、少女がいたはずの場所に叩きつけられ地面にめり込んでいた


「どうやら間に合ったみたいだな」


「助けは必要か?」


「出来れば助けて頂きたいですぅ」


「じゃあここで待っていろ」


そう言って、少女を下した瞬間に、少年の姿は掻き消え


次の瞬間、ミノタウロス・バーサーカーが突如姿を消した




「怪我はないか?」


「怪我はありません ありがとうございますぅ」


ぺこりとお辞儀をするクリスしかし、よろけて尻もちをついてしまう


魔力切れを起こして、めまいがしたのだろう


「魔力切れか? 手を貸してみろ」


少年に言われるがまま、手をのばすと、その手を少年がつかんだ


少年の手から、魔素が流れ込んで切るのが分かる、それと同時に温かい何かが一緒に入り込んできて、体に力が戻ってくる


「魔力譲渡ですかぁ? 凄いです初めて拝見しましたぁ」


「回復魔法までかけて頂いてありがとうございますぅ」


にっこり微笑んでくる笑顔に、少年は


「たまたま通りかかっただけだ」


とぶっきらぼうに返すが


「なぁに言ってんだい、猛ダッシュしてったくせに」


「ライゾー 置いてけぼりとはひどいですぞ!」


「そうですよ、急にいなくなったのでびっくりしましたよ!」


「お前たち 余計な事を言うな」




「私のパーティーメンバーの皆さんと会いませんでしたかぁ?」


「無事に逃げられたか気になってたんですよねぇ」


「ああ、あの下種野郎どもかい?へらへらしながら走っていったよ?」


「女を見捨てて逃げるとは、男の風上にも置けぬ奴ら われは許せぬ!」


「ホントに! 後ろから魔法を打ち込んでやろうかと思いましたよ!」


どうやら無事に逃げられたようで良かったと思いきや


「「「「お~い!助けてくれぇ!」」」」


無事に逃げられなかったようである




盾職らしき男が負傷したらしく、背負われながらこちらへ逃げてくる


男たちの後ろには、ミノタウロス・バーサーカーが間近に迫っていた


「癒しの神リトニッドよ、わが願いに応え、彼らを守りたまえ:プロテクション・シールド」


男たちと、魔物の間に、防御結界を張り、すぐに駆け寄り、負傷している男に回復魔法をかける


「癒しの神リトニッドよ、わが願いに応え、彼のものに大いなる癒しを与えたまえ:ハイ・ヒール」




「自分を見捨てた連中を助けるのか?」


雷蔵の問いかけに


「失っていい命などありません」


「ですが、私にはあの魔物を倒す力はありません」


「勝手なお願いなのは分かっています」


「ですが、そこを押してお願いします」


「どうか、力を貸していただけないでしょうか?」


先ほどの雰囲気とは打って変わって、強い意志を一言一言に感じる


少年はしばらくクリスをを真っ直ぐに見つめ何かに納得がいったように


「俺にはお前の考えが正しいのかどうかは分からん」


「だが、乗り掛かった舟だ、最後まで手をかそう」


「ジスレアのリハビリも兼ねてるしな」


「と言う訳で、ジスレアさっきの魔法で仕留められてみろ」


「分かりました!」


少年がジスレアと言う少女にそう声をかけると、少女の前に赤い炎が現れ


矢のように、猛烈な勢い放たれた炎の錐は、目から後頭部へ貫通してミノタウロスを即死させた




「なっ!Bランクを魔法で一撃だと!」


「あんたらすげぇな」


「さっきはひでぇこと言っちまってすまねぇな」


「何にしても助かったぜ」


少年は、男たちを見つめながら冷たく言い放った


「お前たち 礼を言う相手を間違えてないか?」


「仲間を置き去りにするような奴らは、本来助ける価値などない」


「俺ならばそう思う」


「それでも、助けたのは 彼女がお前たちの為に頭を下げたからだ」


「お前らが見捨てた彼女は、お前らを見捨てなかった」


「そのことを、よく考えるんだな」


「「「「・・・・」」」」


男たちには返す言葉もなかった




「クリス、俺たちはお前を見捨てようとした」


「そんな俺たちをお前は救ってくれた」


「俺たちが、ばかだった」


「本当にすまねぇ」


ガストムが地面にこすりつけるように頭を下げてきた


他の男たちもそれに倣うように頭を下げてくる


「「「すまなかった!」」」




「私が残らなければ、みんな死んでたんですよぉ」


「だから、私は残ったんですぅ」


「でも、この方たちのお陰で、みんな生き残れましたぁ」


「だからもういいんですよぉ?」


そう言ってほほ笑むクリスだった


唯のお人好しだと思っていた、彼女は自分たちが嘘をついていると分かっていてそれでもなお命を懸けて救ってくれた


「俺たちがやったことは許されることじゃねぇ」


「そんな俺たちに何が出来るかも、今は分からねぇ」


「でも、次にお前に出会ったときに、少しはましになった姿を見せられるように」


「俺たちにできることを探してみるよ」


ガストム達は、10階層に戻って地上に戻るそうだ




少年が尋ねてくる


「お前はどうする?」


「私はあなた方に、命を助けられましたぁ」


「だから、恩返しの為にお供したいのですが、よろしいしょうかぁ?」


「そう言えば、ちょうど回復職を探していたとこだった」


「今のセリフ、どこかで聞いたことがありますよ ふふふ」


雷蔵の言葉に、エルフの少女がそう言って笑った


「俺の名はライゾーだ」


「あたいはイデア」


「我は白玲というものだ」


「初めまして、わたしはジスレアといいます」


「初めまして、私の名はクリス リトニッド教の神官ですぅ」


「よろしくお願いしますねぇ」


そうして、彼女は、ライゾーと名乗る、少年のパーティーに入ることにした


「じゃあ そろそろ行くか」


一行は、最下層の15階層目指して進み始めた


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