第3話 生きた魔道具:魔造人間への転生(前編)


賢者の塔


この世界のどの国の領土にも属さない辺境に広がる砂漠地帯


その中央に聳え立つ黒い塔


超高度な認識阻害に魔力遮断・光学迷彩の結界が張り巡らされ、その存在を感知できるものはこの世界に存在しない


更に、周囲には猛烈な砂嵐が吹き荒れており、近づくことさえ出来ない


ゆえにその存在を知るものは、今は亡きこの塔の創造主そして、この塔が機能し始めてから約6000年の間、塔の管理を代々受け継いできた26名のみ




この塔に物理的な入口はなく、内部に入る手段は、塔の管理者が使用する転移魔法のみ


黒い外壁は非常に高い硬度を持ち、組み込まれた劣化防止および再生の術式により、6000年たった今も、当時と変わらぬ状態を保持している




それ以上にこの外壁には重要な機能が組み込まれている


それは、大気中に含まれる魔素の吸収機能だ、6000年間、今もなお吸収し続けている魔素は、収束装置により高密度な魔力として、この塔の心臓部ともいえる魔量結晶に蓄えられている


この塔はある重要な目的のために生み出された


吸収された魔力は、塔の結界の維持や内部の設備を動かす動力そして、その目的を果たすために費やされる




目的達成の為に生み出された成果は今までにもいくつかあるが、今回生み出されるものはその集大成と言えるものだった


ただ、プロセスは何段階か残っており、それが成功すればの話であるが・・・


塔の研究開発エリアの一室


広さはそれほど広くなく、今回の実験の為に特別に用意された部屋であるようだ


部屋の壁際には長机が配置され、その上にはこの世界で作り出すことが出来ないはずの機材が並んでおり、かすかに作動音が響いている


中央には二つの透明な素材で作られ、液体で満たされたカプセルが2つ設置されている




その内の一つには、錬金術で生み出された偽りの生命:ホムンクルスが


今ではロストテクノロジーとされている技術で生み出されたもので、人と全く区別がつかない上に、身体能力・魔力量ともに非常優れている


その実力は、この世界で冒険者と呼ばれるものの中でも、一流と呼ばれる者たちがと遜色がない


さらに人で言う寿命が平均で50年であるのに対し、ホムンクルスの活動限界時間は300年と非常に長い


ただ一つ欠点ががあるとすれば、成長が出来ない、今のスペック以上に強くなれない点であろうか




もう一つのカプセルには人骨が


普通の人骨と違うのは、素材が特殊な魔法金属の合金で出来ており、超高度な術式が組み込まれている事


そして心臓のある位置には、ルビーによく似たしかし拳大もある美しい宝石のような結晶体が存在している


魔力を結晶化する際に特別な工程を経て作られる特殊魔力結晶:賢者の石


錬金術師の最終目標とされ、空想上の存在とされている、持つ者に永遠の命を与えると言われる秘石


心臓が存在するはずの位置(肋骨内で空洞なっている部分)に浮き上がった状態でその位置から微動だにしない


賢者の石を心臓部に持つ金属製の人骨


創られる元となった知識と技術自体は、代々の管理人が発明したもの


代々の管理者たちの地と涙の結晶が作り上げた魔道具である


開発者は、この魔道具を『魔導の力によって生み出されし人骨:魔導骨格』と命名した




部屋の床に魔法陣が表れ光を放つ、そしてその上に人影が表れる


どうやら塔内の移動も転移魔法によって行われるようだ


人影の正体は、魔導骨格の開発者であり、現時点でのこの塔の管理している第26代目 賢者の塔の管理者


長いので以降は26代目と呼ばせていただく




「バベル、ホムンクルスと魔導骨格の融合術式を発動をお願いしま~す」


「了解いたしました  術式の発動を確認」


バベルとは、管理者をサポートするために生み出された人工精霊


高度な人工知能と処理能力を持っており、賢者の塔の心臓部である魔力結晶内で塔の各機能を管理者の指示により稼働させる権限を持つ


部屋の天井から2本のケーブルが現れ、それぞれがホムンクルス、魔導骨格のカプセルへと接続される


しばらくして2つのカプセルが淡い光を放ち始める


融合術式が発動している際の現象の一つなのであろう


「ホムンクルスおよび魔導骨格への魔力充填シーケンス完了」


「融合シーケンスに移行します」


カプセル内の魔導骨格が光の粒子へと変わりケーブルを伝って、もう一つのカプセル内のホムンクルスへと入り込んでいく


ホムンクルスがひと際激しく発光し、ほどなく光は消えていく


「融合シーケンス完了」


「よ~しっ!後は疑似魂のインストールが無事成功すれば魔造人間の誕生だぁ!」


「続けて疑似魂のインストールの術式を開始しちゃってぇ!」


26代目は少し興奮気味にバベルへと指示を出す


なにしろ、26代にわたって開発してきた知識と技術の結晶の誕生が間近に迫っているのだ


「了解しました 疑似魂のインストールシーケンスへ移行します」


しかし、その肝心の最終段階に入って、異常事態が発生する


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