第74話 魔導忍者は魔王に会いに行く(中編)


「ジンライ 解除」


雷蔵は『魔導外骨格』を脱ぎ捨てる


「マスターそれでは、防御力が大幅にダウンしてしまいます」


主人の身を案じて、イブがそう警告する


「これは殺し合いではない」


殴り合い語り合いだ」


「防具や武器は必要ない」


『あとリミッターで魔王の戦闘力と同じになるまで制限をかけてくれ』


『・・・言っても無駄の様ですね 了解いたしました』


『リミッター作動 身体能力を20%に制限いたしました』


仲間である女子たちも


利かん坊を見るような目で雷蔵を見守っている


だが、その暖かな眼差しに


不安の色は一片もなかった




『何あの鎧!? 一瞬で脱着できるのかよ! カッケー!』


魔王バルバールは『魔導外骨格』の瞬時に脱着できる機能に感動した


「いいのか俺の拳は軽くないぞ?」


そう言いながら自身も鎧を脱ぎ始める


「魔王様 万が一のことがあっては困ります」


『魔王』の家臣たちもバルバールの身を案じて止めようとするが


「脆弱な人が、その命綱である鎧を脱いだのだぞ?」


「魔王であるこの俺が鎧を着て殴り合い語り合いに挑むなど、恥でしかない!」




「では行くぞ!」


『まぁ一発目はもらってやるか?』


魔王バルバールは雷蔵の拳をなめていた


思いっきりなめ切っていた


雷蔵は距離を一瞬で詰める、忍術を使わず身体能力のみで


「っ! ぐはっ!」


魔王の右頬に雷蔵の拳がめり込む


そのまま勢いは止まらず


彼は吹き飛び壁にめり込んだ




『やっべ! 俺様今一瞬記憶飛んだぞ? 何こいつの拳・・・マジで人間かよ!?』

今の一撃で、魔王バルバールの中で雷蔵の脅威レベルが一気に上がる


「なかなかいい拳を持ってるじゃないか!」


「ふふふ 俺様を本気にさせてしまったようだな!」


正直かなり効いている


だが強きの姿勢は絶対に崩さない


自分は魔王なのだから




「今度は俺様の番だな!」


魔王も瞬時に雷蔵との距離を詰め、おのれの拳に全力を込めて放つ


雷蔵はそれを避けようともしない


魔王の拳は雷蔵の右頬にめり込み、その体を壁まで吹き飛ばす


激突した壁は轟音を立て崩れ落ち雷蔵の身体へと降り注ぐ


『やっべ! つい良いのを貰って力が入っちまった! こりゃ死んだか? 』


その心配は無用であったと、すっくと立ちあがった雷蔵を見て思い知る




殴り合いが始まってから、一体どのくらいの時間が立ったのであろう


「魔王パ~ンチ!」


「魔王キ~ック!」


魔王パンチ:魔王が放つ必殺のパンチ アイアンゴーレムですら粉砕するパンチ力


魔王キック:魔王が放つ必殺のキック 超ヘビー級の魔物を瞬殺する破壊力


時折蹴りも織り交ぜた、殴り合いは果てもなく続く


お互いの耐久力の高さ故に、お互いが決定的な一撃を決められずにいた


一発一発が必殺の一撃、油断は命取りになるはずの拳の応酬のはずだが


魔王と雷蔵


両者の顔には笑みが浮かんでいた


『魔王』にとって自分が全力を出せる相手


しかも殺し合いではなく、相手と分かり合うための殴り合い語り合いなど今まで経験したことが無かった




『魔王』が『魔王』たる所以


それは、先住民たちの中で最強である事だけではない


確かに『魔王』となるためには、『魔王選定の儀式』と言う名の力試しで、勝ち残らなければならない


『魔王選定の儀』に最後まで勝ち残った者が『戴冠の儀』を経て『魔王』となる


『魔王』は『戴冠の儀』でその体に、歴代の魔王たちの『英霊』を宿す


『英霊』の力は、魔王に尋常では無い身体能力と魔力を与える


その『魔王』が本気の攻撃を放てば、身体能力の高い先住民たちですら受け切ることは出来ない


受ければ、その衝撃で身体が無残に弾け飛んでしまうだろう


彼は『魔王』となってから、全力を出したことが無かった




魔王バルバールが本気を出すとき


それは、勇者が軍隊を率いて『魔族の大地』まで攻め込んできたときだろう


そしてそれはバルバールの『魔王』としての生涯の終わりを意味する


だが、彼は知る由もなかった




勇者は、はっきり言ってクズ野郎であった


そんな彼がレストラガの町で


不幸にもイェニーナと言う名の受付嬢に手を出そうとしてしまった


それを阻止したリュウセンなる冒険者に


自慢の聖剣と共に心をボッキリと折られ


「カカカ! お主のその腐った性根」


「わしが叩き直してやる!」


そう言われ、無理やり修行と言う名の暇つぶしに連れまわされる羽目になっている事を


勇者が『魔族の大地』に来ることは当分無いだろう


いや一生無いかもしれない




だが今自分が拳を交わしている相手は


全力の『魔王』の一撃を受けて、なお立ち上がってくる


「俺様の拳を何度も食らって立ち上がってくるとは」


「お前、本当にあの脆弱な人族なのか?」


目の前の人族は、そう思わず疑ってしまうほどの戦闘力を秘めていた


武装し、大軍を率いて攻めてくる人族は、確かに侮りがたいものがある


だが、個体として見た場合、その身体能力、耐久力、魔力は決して高くはない




「普通なら、一撃でやられていただろうな」


「だが、俺の身体は特別製でな」


「俺の友と、その仲間たちの最高傑作で出来ているからな」


「興味深いな! 後で話してもらおうか」


「これを受けて、お前が無事でいられたらな!」


「魔王ダ~イブッ!」



魔王ダイブ:魔王が全力で飛び、相手に頭突きを食らわせる 当たると超痛い!



全力で踏み込み、一瞬でトップスピードまで上げ、雷蔵に飛び掛かり頭突きを食らわせる


『さすがのこ奴も、俺様ご自慢の必殺技の前には一溜まりもあるまい!』


それ程の自信の一撃だった




しかし、雷蔵は魔王の角をつかみそれを受け止める


雷蔵の足は魔王の勢いを殺しきれずズズズッと地面を滑る


壁際に来て、ようやくその勢いを止めることが出来た


「魔王ダイブを受け止めるだと!?」




『マスター 魔王を戦闘不能状態にするには』


『752発の攻撃を連続して放つ必要があります』


自慢の必殺技を受け止められ


驚愕している魔王バルバールに752発の拳を放つ


ほぼ同時と思えるほどの超高速の連撃を!


その数は正確に752発で終わりを迎える


「っ! ぼぐぇはうぁっ?」




想定外の攻撃を食らい


想定外な声をあげて魔王バルバールは意識を失うのだった



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