第55話 魔導忍者はエネルギー供給ネットワークを構築する(後編)


「本当に行くのかジスレア」


娘に最後に再度確認するように問いかける父


第1番目のエルフの里を統べる王 アドリック13世


「はい お父様」




前夜は、エルフたちは、心ばかりにと宴会を開いてくれた


白玲とイデアの飲みっぷり食べっぷりに、エルフたちは度肝を抜かれていた


クリスは屈託のない笑顔で、エルフたちを癒していた




宴会の席で、ジスレアの父であるアドリック13世は


「ジスレアよ お前が冒険者になることは許した」


「だが、そろそろ里に戻ってきてはどうだ?」


王位は王位継承権第一位である長男が継ぐことが決まっていた


ジスレアには王家の義務など煩わしいものに縛られず


相応しい相手を見つけて結婚し幸せになってほしい


それが父親としての彼の願いだった




「お父様 私はもう以前の私ではありません」


「エルフの里の生活に疑問を抱き、冒険者になった私は一度死にました」


「何を言って居る、お前はこうして元気な姿でここにいるではないか」


「正確に言えば、あのままであれば確実に死んでいたのです」


「私は自分の魔法の力に、冒険者としての実力に己惚れていたのです」


「その結果私は、モンスターの中でも最低ランクの魔物 ゴブリンに囚われました」


「なんだと!?」




それを聞いたエルフの女性たちが悲鳴を上げる


ゴブリンやオークの手に落ちる


それは、苗床として凌辱され、最後には食料となり果てることを意味するからだ


「私は四肢を切断され、ゴブリンたちに穢されました」


「体力も底をつき、死を待つのみだったのです」


「しかしそれはおかしい!」


「切断されたはずのお前の体は、五体満足のままではないか!?」




ここエルフの里にある魔法化学文明が残した治療用の魔道具である


即死でなければ、あらゆる病気や怪我を治すことができる


だが、外の世界ではそうはいかない


現実的に不可能なはずであった


「私は、ゴブリンの繁殖小屋で生きる気力も、体力も尽きかけていました」


「そこにライゾーさんが助けに現れたのです」


「私の命を助け、ゴブリンの集落を一人で壊滅させました」




「『機神の討伐者』の力であれば、さもありなん」


神に挑むものであれば、ゴブリンの集落ひとつ単独で潰すなど造作もないこと


アドリック13世はそのことを十分に理解していた


「であれば、お前の体を癒したのもライゾー殿であるということだな」


「彼は、私の心も身体も癒してくれました」


「そして、新たな力も与えてくれたのです」


「『機神の討伐者』の力『魔導骨格』と『魔導外骨格』」


彼女は、命を助けられた後、雷蔵のパーティーの一員となり


『賢者の塔』で生きた魔道具:『魔造人間』となったことを話した




「私はエルフの里には留まりません」


「エルフの王族だった、ジスレアは死にました」


「私は、『機神の討伐者』の一人としてライゾーさんと共に歩みます」


「私は父として、お前には、相応しい相手を見つけて幸せになってほしかった」


『だが、それはただ私の考えを押し付けようとしただけだったのかもしれぬな』


「かつて魔法化学文明の英知をもって『機神』の討伐に向かった人々は1人として戻ってはこなかった」


「それでもお前は行くと言うのだな?」


「はい 例え死ぬことになっても後悔はありません」




「ジスレアを死なせるつもりはない」


「俺の命に代えてもジスレアは守る」


雷蔵は、ジスレアを断りもなく『魔造人間』にしてしまったことを王に詫び


彼女を守り抜くことを誓った


前世では大事な者たちを守り切れなかった


今度はどんなことがあっても守り通して見せる


今はその為に力を蓄える時




「ジスレア お前の覚悟はよく分かった」


「ライゾー殿 娘をどうかよろしく頼む」


「心得た」


雷蔵はジスレアが望むのであれば


エルフの里に返すこともやむなしと考えていた


エルフとして生きるならば、『魔造人間』から元のエルフに戻すことも


しかしジスレアの覚悟を知った今は、迷う事は何もない




翌日、彼らは第一のエルフの里を後にする


反重力列車に乗って


なんと、この世界に12箇所あるエルフの里は


全てが地下鉄道によって繋がっていたのだ


恐るべし、魔法化学文明



こうして、世界に12本ある『世界樹』のアップグレードおよび『世界樹』と『賢者の塔』によるエネルギー供給ネットワークの構築は、二週間をかけずに完了することとなる


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