第58話 魔導忍者は戦争に備える

『賢者の国』が一夜にしてこの世に姿を現してからちょうど二週間


獣人族の移住希望者の受け入れは完了した


獣人族達の族長たちとの事前の話し合いと、集落に設置した転移魔方陣を使った転移門の力が短期間での移住を可能とした


獣人たちが転移門をくぐると、そこには強固な城壁に囲まれ、世界最強の戦力に守護された国『賢者の国』がその威容を誇っていた


建国の表明と挨拶の為の世界各国への訪問は、使者として人に姿を変えた100体の人工精霊たちがそつなくこなしてくれた


大国の使者でも着ることのできない、上質な礼服を身に纏い、貴族への礼節を重んじる態度は堂に入っていた


手土産として『亜空間収納』から取り出されていく金銀財宝は、小国ならば国家予算に相当するような価値を持つ


どこれもこれも逸品ぞろいの品々は、『賢者の塔』に収められた研究費用として保存されているもののほんの一部だ


各国の王たちは、思いがけない宝を手に入れて大満足だった


それで満足しておくべきだった




だが人間の欲望とは、どれだけ手に入れても果てる事のないもの


その者たちにとって『賢者の国』とは、是が非でも手に入れたい宝の山だった


獣人たちを保護している事を格好の理由にして、


軍事帝国のゲルベルト


人以外の種族を認めず多種族狩りを積極的に行っているエルネスト法国


戦争に加わることによって、おこぼれにあずかろうとするミンガラム連合に属する小国


恐らくこのあたりが攻めてくるだろうと『賢者』であるバベルは予測していた




「ようやく俺たちの出番が来そうだな」


「何事もないことが一番なのですが」


「これまでの記録から推測すると、侵略戦争は回避不可能です」


『賢者』であるバベルにも人間の欲望を抑えることは出来ない


「『賢者の国』は他国に戦争を仕掛けることは絶対にない」


「だが相手が攻めてくるのであれば、話は別だ」


眠れる獅子をたたき起こす者たちに容赦をするつもりはない




「あたい最近戦った記憶がないんだよねぇ・・・少しは骨のあるやつがいるといいねぇ」


確かにイデアさん


最近は飲食関係でしか活躍の記憶がない


「いよいよ我の『ケンセイ』の力を知らしめる時が来たか」


そうです白玲さん、食欲だけが最強ではないことを証明するときだ!


「戦いは好みませんが、力き者たちを踏みにじるような相手には容赦はしません!」


恋愛以外はかなり積極的になってきたジスレアさん


「フフフ 魔法を撃ちまくれるわぁ!」


やりすぎない方向でお願いしますクレアさん




移住してきた者達も新しい生活にすっかり慣れてきた頃


『賢者の国』は宣戦布告を受けた


布告の理由も、戦争に参加する国も、バベルの予想と全く同じだったことには苦笑いするしかなかった




雷蔵たちが冒険者としての活動拠点としている町レスラトガがあるグーベルク王国も他の国から参戦するよう圧力を受けていた


浅はかな貴族の中には、参戦を支持するような者たちも少なからずいた


だが、レストラガの領主 辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガが『賢者の国』に関係する者たちに関する報告をした後、参戦を支持する者はいなくなった




魔物5万体を五人で討伐した冒険者パーティー『黒き塔』が守護する国


そのメンバーは、自分たちでは、数万人の犠牲を出しようやく封印することが精いっぱいであった『邪竜』の凶悪なブレスを防ぎ、これを討伐する戦闘力を持つ超越者の集まりである事


500人で魔物五万体からレストラガの街を救った『賢者の塔』の使者達の存在


「参戦するかどうかなど、考えるまでもない」


グーベルク王国の王 グーベルク3世の一言に異議を唱える者はいなかった


この時の判断が正しかったと、レストラガ街の誰もが身を見って分かっている




宣戦布告は、既に軍の編成も終わり、『賢者の国』間近まで進軍が済んだ後に行われたのであろう


数日後には、『賢者の塔』から視認できる距離に布陣を完了していた


自分たちを、汚らわしい獣人族を保護する背信者の国『賢者の国討伐連合軍』と名乗っているらしい




ゲルベルト帝国4万、エルネスト法国4万、ミンガラム連合2万の合わせて10万の軍勢


ゲルベルト帝国には、500体の魔導アーマーを要する魔導重騎士大隊


エルネスト法国には、特別強力な法力を備えた最精鋭であるエルネスト聖騎士団


と言う、小国など単独で壊滅させるほどの強力な部隊を所有していた


それに反してミンガラム連合の軍隊は、軍隊と呼ぶのもおこがましい紛い物だった




連合に所属する小国では、常時軍隊を養えるだけの国力はない、その為、数合わせの為に市民に武器を持たせたせて軍隊の形をとっているだけだった


武力を持たない市民を矢面に立たせ、その命を犠牲にして、この戦争のおこぼれにあずかろうとする鬼畜の所業


到底許せるものではない




対して、『賢者の国』の戦力は、冒険者パーティー『黒の塔』であり『機神を討伐する者』そして『賢者の国の守護者』である雷蔵、白玲、イデア、ジスレア、クリスの5人


5万体の魔物に加えて『邪竜』の膨大な『存在力』によってさらに数段階『存在進化』したその力は


5人だけで一国どころか、愚かな戦を起こそうとしている連合軍を殲滅する事も不可能ではない




さらに、1000人の『賢者の塔』改め『賢者の国』の使者達


人工精霊が制御する1000体の『量産型魔導外骨格』である


500体で5万の魔物たちと渡り合った時から、500体追加されている


実は『賢者の国』の中には、更に1000体の『量産型魔導外骨格』が待機しているのだが


あくまで不測の事態が起こった際の保険で、今回の戦闘には参加しない




約100倍の戦力差、普通の国であれば戦う前に即時降伏する状況


だが、『賢者の国』の住人たちの中に自分たちが敗北するなどと考えている者は、唯の一人もいなかった


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