第79話 魔導忍者は神の軍勢を迎え撃つ 1/5


「エルネスト法国の攻撃は、俺たちだけで終わりじゃないんだ」


『異端審問官』のリーダーだった青年は人工精霊に告げる


「我が主はすべて知っておられますよ」


「エルネスト法国が『神の軍勢』を送り込んでくることも」


彼は神の軍勢がある国を亡ぼすところを、この目で見たことがある


恐ろしい光景だった、すべてが裁きと言う名の光の前に消滅していく


かつて国があったその場所には、草木一本残っていなかった


今は、『賢者の国』がその二の舞にならないことを祈るしかなかった




今日は、『賢王とその従者たちの活躍』を国民たちに見せるため『賢者』バベルが広場を訪れていた


今日のお題は『魔王との激闘そして友情、世界樹の創造編』


『賢者の国』は首都クオンに加え、獣人族以外の移住希望者を収容する都市、メイザースの学園都市、魔道具生産の為の工業都市と3つの都市が追加建造されていた


そして各都市の広場や、酒場、飲食店など人々が集まる施設には、映像投影魔道具が設置されている


音声も再生できるメイザース印の逸品


『賢者』バベルは週に一度、記録されている雷蔵たちの活動記録の映像を編集したものを国民たちに解説を入れながら鑑賞してもらっていたのだ


バベルおすすめのハイライト集だ


今では国民たちの娯楽の一つとなっており、特に解説をしているイケメン『賢者』を直接見ようと首都クオンの広場には大勢の国民たちが集まるようになっていた


圧倒的に女性が多いのは言うまでもない




『賢者』バベルの解説は分かりやすく


時にはジョークも交えつつ観る者を楽しませる


映像は、雷蔵たちが『魔王城』の前に立つところから始まった


「『魔族』と呼ばれている者たちは、実はこの星の先住民なのです」


「そして我々は、星と星の間を飛ぶ船『宙船そらふね』に乗って他の星からこの星にやって来た移住の民」


にわかには信じがたい衝撃の事実を知り、獣人たちからは驚きの声が上がる


しかし『賢者』の言葉を疑う者は1人もいなかった


「人族は先住民から住み慣れた土地を奪い、『魔族』と呼び自分たちの天敵であると世に広めたのです」


「『賢王』様は、人族がこれまで行ってきた罪を謝罪し、荒廃した土地で暮らすことを強いられてきた先住民たちを救済するために『魔王城』を訪れました」




獣人族ばかりか、今では種族を問わず『賢者の国』へ向かい入れ、飢えることなく、外敵の脅威に怯えることのない快適な生活を与えてくれた『賢王』が今度は先住民たちを救おうとする姿を見て、国民達は口々に感謝の言葉を述べる



問答無用で挑んでくる門番たちを無力化し、城内へと入っていく雷蔵たち


「城内でも兵士たちが迎撃してきますが、『賢王』とその従者を止められるものは存在しません」


「そしてついに賢王様は『魔王』と対面したのです」


雷蔵が、頭を深々下げ『魔王』に謝罪している場面が映し出される



「おのれの力を証明するため、そしてお互いを深く知るために『魔王』と『賢王』様の拳の語り合いが始まります!」


それは壮絶な戦いだった


戦いの心得がない者でも、その一撃一撃が途方もない威力を秘めていることが分かる


両者はそれを笑みを浮かべながら放ち、受け止めていた


「両者は決定打を決めることが出来ていませんでした」


「そこで魔王は必殺技を放ちます」


「魔王ダ~イブ!」


「しかし、『賢王』様はこれを真っ向から受け止めその力を示されました」


「最後に、『賢王』様の一撃で語り合いは幕を閉じます」


その一撃は、実は一瞬で700以上の拳を打ち込んでいるのだと『賢者』が説明すると、雷蔵の力を改めて実感する


そして自分たちはその大いなる力に守護されていることを




「そして『賢王』様はその秘術にて戦いで負った『魔王』の傷を癒します」


「語り合いを終え『賢王』様と『魔王』は友情の絆で結ばれたのです!」


雷蔵と『魔王』が握手をする場面が映し出され


「こうして、先住民たちと『賢者の国』の同盟が結ばれたのです!」


国中から割れんばかりの拍手と歓声が響き渡った




次に、映像は、雷蔵たちと『魔王』が連れ立って先住民たちの集落を訪れるところを映し出す


雷蔵は集落のすぐそばに『クリエイト・フォートレス』で砦を一瞬で作り出す


砦へと移住を終えた者たちに、女子たちが救援物資を配っている


子供たちの笑顔が印象的だった




そして場面が変わり、雷蔵の手には緑色の球が握られていた


「先住民たちを救うため『魔族の大地』と呼ばれる地の中央で『賢王』様は『世界樹』を創造されたのです!」


『クリエイト・ユグドラシル』が発動し、『世界樹』の苗が現れる


『魔王』と雷蔵そして女子たちが力を注ぎ込むと苗はドンドン成長していく


その光景はまさに奇跡だった


「『賢王』様のお力は、もはや人を超えて神の領域まで届いておらるといっても過言ではありません」


「成長した苗は、この世界でも最大の『世界樹』となりました」


「『世界樹』の力は、荒廃した土地を豊かな土地に変えていくでしょう」


「こうして『魔族の大地』と呼ばれた地は『希望の大地』となったのです!」


『賢者』がこう締めくくると、国民たちから止めどない拍手が送られる




「『賢王』ってのは止めてもらえないか?」


映像を見ながら隣で『賢王』を連呼される


雷蔵にとって今までにない試練だった


「申し訳ありませんマスター 既にこの敬称は全国民に知れ渡っておりますので」


「・・・・」


雷蔵はバベルさんの策略で


すっかり『賢王』に祭り上げられてしまった




「この場を借りて皆さんにお知らせしなければならない事があります」


先ほどの和やかな雰囲気から一変、『賢者』の口調は真剣なものへと変わる


「現在、『賢者の国』はエルネスト法国の攻撃にさらされています」


「すでに、一度目の攻撃があり、これを撃退しました」


「ですが、法国の攻撃はこれで終わりではありません」


「近いうちに『神の軍勢』が我が国を襲うでしょう」


『賢者』の『神の軍勢』の言葉に国民たちは動揺する




「しかし心配することはありません」


「我が国には、現在5000名の『賢者の国の使者』が守りを固めています」


「その内500名は、かの『魔王』と同等の力を持っているのです」


「俺様と同等の力を持つ者が500名もいるだと!?」


『賢者の国』との同盟後、外敵から民を守る自分の仕事がすっかり暇になり


遊びに来ていた『魔王』バルバールは驚愕した


まさか、ここ『賢者の国』では精鋭とは言え、自分が兵士1人と同等の力しかないとは、知りたくない事実だった




「他の使者も先の500名には及ばぬものの、4500名で1500の『魔王』と同等の戦力に相当します」


「『賢者の国の使者』だけで2000魔王だと!」


元『異端審問官』のリーダーだった青年が信じられないとばかりに口にしたが


いつのまにか『魔王』が戦力の単位になっている




「さらに、我々は『賢王』様とその従者たちによって守護されているのです」


「その戦力は従者ひとりで1000の『魔王』と同等」


「『賢王』様におかれましては、もはや私にも計測不能なまでの力をお持ちです」


「6000魔王に加え計測不能の戦力だと!!!」


「俺様、白玲達の1000分の1の力なのか・・・」


この言葉に国民は力づけられたが、逆に魔王バルバールの落ち込みようは酷かった


見かねた雷蔵が、バベルに魔王バルバールへの量産型ではあるが『魔導外骨格』の貸し出しを依頼していた




これより数日後、『神の軍勢』が『賢者の国』へ天罰というなの侵略を開始するのだった



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