第78話 魔導忍者は異端審問官を受け入れる


『異端審問官』達は、『賢者の国』の首都クオンの門内にいた


『量産型魔導外骨格』を強制装着されて、四肢の自由も奪われた状態だが




「それだ俺たちをどうするつもりだ!?」


「今日は、私たち『賢者の国の使者』の仕事ぶりを見学していただきます」


『異端審問官』のリーダーの問いに人工精霊が答える




『賢者の国』は現在、人族の入国も許可している


主に商人や、冒険者たちが多いが、中には獣人族を攫おうとする犯罪者達も存在する


「本日は『武闘会』の話し合いの為、レストラガの『モンスターレスリング』を取り仕切っておられるハイエルフ様がご訪問されておられるので、ハイエルフ様を狙っている輩も出てくると予想されます」


エルフの里を出ることが無いはずのハイエルフしかも凄腕のモンスターテイマーとなれば、どれだけの価値が付くか見当もつかない


危険を冒しても攫おうとする輩が出てきてもおかしくはないのだ




門を馬車が通ってくる、検問の為止められることもなく素通りだ


「早速連絡がありました」


「あの馬車内には『隷属の首輪』が存在するようです」


「なぜそんなことが分かるんだ?」


「門を通る際に自動的に魔道具でチャックされているのです」


「不審なものがあればすぐに連絡が入ります」




「じゃあ俺たちが入国した時も?」


「はい、武器等が馬車に隠されておりましたし、皆さん全員の人相も登録されていたので、すぐに発見されました」


「・・・まじかよ」


『賢者の国』のセキュリティーは世界一なのです!




「では、『お仕置き』の時間です」


そう言うと、目にもとまらぬ速さで移動し、馬車を止める


御者の男が、突然現れた『賢者の国の使者』ギョッとしながらも


「俺たちはただの商人だ、通してもらえないか?」


とすまし顔告げて来たが


「『隷属の首輪』の持ち込みは禁止されており、所持していた場合は厳重に処罰されると商人ギルドに通達されているはずです」


「くそっ! 捕まってたまるか!」


男たちは武器を手に持ち馬車から降りてくる


先に入国していた仲間らしく物も加わりその数は20名




「後から加わった方たちも、同罪とみなされます」


「「「「「「来い!『根性注入棒マキシマム』!」」」」」」


12体の『賢者の国の使者』(『異端審問官』入り)はは亜空間から『根性注入棒マキシマム』を手に取ると、『地獄の使者』へと変貌を遂げる


マキシマム! どうやら発展したのは『賢者の国』だけではなかったようだ!(゜д゜)!



『根性注入棒マキシマム』:痛覚10倍 遅行性回復魔法の術式、『魔導ドローン:アルゴス』に追尾されまくる『罪の刻印』に加え


打撃を受けた者は、過去の罪に対する罪悪感に一晩中苛まれる!


肉体的ダメージに加え、精神的にもダメージを食らう、悪人にとっては悪夢のアップグレードだ!(((( ;゜Д゜)))ガクガクブルブル



「なんだその木の棒は! なめてんのか? あっ!?」


『あ!この人たち知らないんだ・・・』


周りの獣人たちは気の毒そうな目で、犯罪者たちを見つめている


こうなってくると、もうどちらが被害者か分からなくなってくる (;'∀')


そして、獣人たちの予想通り、男たちの阿鼻叫喚が辺りに響き渡った




「何だったんだ今のは!?」


ただの木の棒で叩かれたにしては、犯罪者たちの苦しみようは尋常ではなかった


「『根性注入棒マキシマム』によるお仕置きです」


2人の犯罪者を両手で引きずりながら『根性注入棒マキシマム』の効果を説明する


「マキシマムにアップグレードされてから再犯率が下がったんですよ!」


ご機嫌そうな声で話しながら、犯罪者たちを見せしめの為に広場の噴水前に放り投げる


『結構えげつないな・・・』




「それなら何故俺たちは、『お仕置き』されなかったんだ!?」


想像して身震いしながらつぶやくリーダーに


「さぁ、我が主から指示がありましたが、理由は聞いてませんね」




それから何度か同じことが繰り返されたが、犯罪者はすべて人族だった


酔っぱらった大声をあげていた獣人族の男がいたが、『賢者の国の使者』達を見るなり、まるで酔いがさめたようにピシリと敬礼し


「ご苦労様でありますっ!」(`・ω・´)ゞ


と言ったのには笑ってしまった




その後は、町を巡回していく


住人たちとすれ違うたびに


「使者様 いつもありがとうございます」


「使者様 これ良かったら皆さんで召し上がってください」


満面の笑顔でお礼を述べる者、差し入れをくれる者までいる



子供たちが通りかかると


「俺大きくなったら賢者の国の使者になってこの国を守る!」


「お前じゃ無理だよ、俺がなる!」


「私は使者様のお嫁さんになりたいわ!」


「私も!私も!」


などとはしゃいだ声が聞こえて来た


人族や魔物の襲撃に怯え、食べ物もほとんどなかった絶望の世界から救い出してくれた


彼らにとって『賢者の国の使者』とは英雄なのだろう




エルネスト法国の特殊機関で『異端審問官』達は、孤児や奴隷から集められ戦闘訓練に加え徹底した教育を受ける 


思えば法国にとって都合のいい理屈ばかりを頭に詰め込まれた気が、今更ながらにしてきた


しかし、『賢者の国』に実際やって来てから、彼らは動揺していた


人族の自分たちにも、笑顔で挨拶をしてくる獣人族達


子供たちの瞳も希望の光で輝いている


しかし、これらも『賢者の国』にやって来てからの事だと人工精霊は話す


それまでは、人族による拉致や略奪、殺りくに怯え、希望もなく暮らしていたのだと




人族の入国に不安が隠せなかった獣人族達だった


「人族の中にも善良な者達がいる事を知ってもらいたいのです」


「もし、不埒な者が現れたとしても、必ずあなた達を私たちが守ってみせます!」


その言葉を信じて入国を認めたのだそうだ




自分たちがやって来た、エルネスト法国の一般市民もお布施と言う名の重税を課せられ、日々貧しい暮らしを余儀なくされている


贅沢をしているのは教会の上層部にいるごく限られた者たちだけだ


もしかしたら、人族以外を亜人と呼び差別することで、不満の矛先を変えられていたのではないかと思い当たる




しかし、今までの自分の行いが間違っていたと認めてしまったら・・・とても耐えられない


「我が主もかつては暗殺者だったそうです」


「えっ?」


彼の考えを読んでいたかのように人工精霊は話始めた


「罪悪感を抱くこともなく、沢山の人を殺してしまったと」


「今は亡くなったご家族が、生きることの幸せを、人の死の悲しみを教えて下さったそうです」


「それから我が主は、人を助けることに人生を捧げて生きておられます」


「亡くなった人たちに償う事は出来ない、だから今、自分にできることで償いながら生きていくしかないんだとおっしゃっておられました」




「俺たちも償えるだろうか」


「犯してしまった罪を消すことは出来ません」


「でも、償いながら生きていく事は出来ますよ」


「少なくとも『賢者の国』ならば」




「「「「「俺(私)たちここで人生をやり直したい!」」」」」


「あなた達がそう言えば、迎え入れるようにと主から言付かっています」


「ようこそ『賢者の国』へ」




こうして、かつて『異端審問官』だった者たちは『賢者の国の使者』となった


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