第46話 魔導忍者は邪竜と対決する(前編)


約5万体の魔物の大群は、辺境の町レスラトガ間近まで迫っていた


地響きを立て向かってくる魔物を見て、人々は絶望するしかなかっただろう


彼らがいなければ




10万体にも及ぶ魔物の襲来は、2週間前に冒険者ギルドの受付嬢 イェニーナによって領主に報告された


領主はすぐに軍隊の派遣を要請したが、2週間以内の到着は絶望的だった




この町を統治する辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガは、イェニーナから事の詳細の説明を受ける


彼女の話によると、信じられない事だが、この町を拠点としている冒険者パーティー『黒き塔』の5名が、10万体に及ぶ魔物の大群をこの町に来るまでに半数に減らすと言う


そして、『賢者の塔』の使者と名乗る500人の戦士が援軍に駆け付ける予定であり、その援軍によって残りの魔物を撃退すると言うのだ


にわかに信じられない話だが、どちらにしろこのままでは為す術なくこの町は魔物の大群に飲み込まれるだろう


被害はそれだけでおさまらない、魔物の大群はこの街を壊滅させてあ後、次々に他の街を襲っていくだろう


軍隊が魔物を撃退するまでに、どれほどの被害が出るか想像もつかない


もし彼女の話が真実であるのならば、どれほどありがたいことであろうか




ただ、この町を統治する者として、その話を鵜呑みにして、安穏としているわけにはいかなかった


無力な市民は護衛をつけて、王都に向けて避難を開始させるように指示を出した


中には、もしも滅びるならこの街と運命を共にしたいと非難を断った市民も多かったと言う


冒険者に関しては、この町を拠点としているほとんどの者たちが残って戦うと申し出てくれているらしい


数を半分に減らしているとはいえ、魔物の数は約5万体


絶望的な数だった


それでも残ってくれている者がいる事が嬉しかった




2週間が経ち、『黒き塔』のメンバーは本当に魔物の数を半数に減らして見せたと報告が入る


直ぐに冒険者ギルドへと赴いてみると、その証拠に、5万体分の討伐部位が所狭しと並んでいた


そして、魔物の進行が間近まで迫ったその時に、門前に500人の戦士が集結した


全員が黒ずくめの装備に身を包み、一糸乱れぬ隊列で、待機している


それだけでも、この戦士たちが精鋭であることは明白だった




そして、その500名の戦士たちの前に5名の冒険者が佇んでいた


冒険者パーティー『黒き塔』の5名


5万体の魔物を2週間で討伐した者たち


辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガは彼らの元へと向かう


「『黒き塔』の方々とお見受けする」


「私は、この町を収めているアルフーゴ・フォン・レスラトガと申す者」


「俺は『黒き塔』のライゾー」


「我は、白豹族の剣士 白玲と申す」


「あたいはイデア」


「私は、ジスレアと申します」


「私はぁ、クレアと申しますぅ」


彼らはそう名乗って、彼に頭を下げた




「この度は、レストラガの町の防衛に助力頂き感謝する」


そう言って彼は頭を下げる


貴族が平民に対して頭を下げることなど、まずあり得ない


だが彼は思っていた、この町を命を懸けて救ってくれる者に、自分が出来ることはどんなことでもしようと




だがライゾーと言う男は、何でもない事のように彼にこう言った


「礼には及ばない」


「俺はこの街が気に入っている」


「大事な仲間が暮らしている」


「だから、魔物に襲われて、無くなってもらっては困る」


「幸い俺達には、この街を救う力がある」


「それならば、やることは一つしかない」




「そう言ってもらえて、この街を収めるものとして光栄に思う」


「どうかこの街を救ってほしい」


「了解した」




とうとう魔物の先頭集団が視認できる距離にまで迫ってきている


「賢者の盾部隊、結界が連結できる有効範囲内で距離を取り整列しな」


イデアが号令をかける


巨大な盾と長い槍を装備した100体の『量産型魔導外骨格:賢者の盾』が町から少し距離を置いて整列する


盾、足の底、そして背中からスパイクが射出され地面に食い込む


「『堅牢なる大地』発動!」


スパイクが食い込んだ地面が強固な石に姿を変える


「防御結界連結展開『グレートウォール』発動」


それぞれの盾から防御結界が展開し繋がっていく、この幅であれば十分魔物の進行を食い止めることが出来そうだ




「賢者の癒し手のみなさぁん、結界強化魔法をお願いしまぁす」


クレアの指示に従い、100体の黒い天使のような姿をした者たちが、展開された防御結界に強化魔法をかけさらに強度を上げる




「賢者の剣部隊 4列横隊にて待機、前面の結界が開き次第、魔物を殲滅する」


白玲の号令に従い、大剣を持った戦士たちが、見事な4列横隊を組み待機する




「賢者の杖部隊 一列横隊にて待機、敵が射程距離に入り次第、上位個体を優先して各個撃破!」


ジスレアさんもしっかり指示を出している




「賢者の影部隊 賢者の杖が上位個体殲滅後ステルスモードで、逃走を始めた魔物を殲滅してくれ」


賢者の影部隊には、雷蔵の『魔導外骨格:ジンライ』の戦闘データが組み込まれている


戦闘能力に関してはジンライに遠く及ばないが、こと隠密行動に関しては引けを取らない


姿無く、そして音もなく忍び寄り、魔物を狩り尽くすことだろう




冒険者たちも、参加を申し出て、賢者の剣部隊を抜けてきた魔物を討伐することになった


「ライゾーたちが、助っ人をかき集めてくれたんだぁ」


「この街の冒険者である、俺たちが黙って見てるだけなんて恥ずかしい真似は出来ねぇよな!」


「「そうだよな!兄貴!」」


『ヴィルクスとゆかいな仲間たち』も参戦していた


実は、彼らはBランク冒険者パーティーだった!(゜д゜)!


頼もしい助っ人登場である




遂に闘いの火蓋が切って落とされる


魔物の先頭集団が、賢者の杖部隊の有効射程距離に達したのだ


100体の『量産型魔導外骨格:賢者の杖』は、思考がリンクしており、的確に標的を割り当て、相手の弱点を突いた精霊魔法で上位個体にヘッドショットを決めていく


5万体の中に上位個体は、最上位から下位まであわせて約7000体


賢者の癒し手100体もジャッジメント・レイで攻撃に加わるため、瞬く間に殲滅が完了した


「賢者の杖部隊はこのまま残りの魔物への遠距離攻撃を続行!」


「賢者の癒し手も皆さんはぁ、冒険者の方々に補助魔法を負傷者には回復魔法をかけに行きますよぉ!」




指揮系統が混乱した魔物たちの中には逃げ出すものも居たが、忍び寄る見えざる者達の手によって瞬殺、そして亜空間へと収納され姿を消していった



しかし、4万体近い魔物が突進を続け、とうとう防御結界と激突した


賢者の盾部隊が展開した『連結防御結界:グレートウォール』は、魔物の突進を見事に受け止めてみせた


先頭の集団は後続の魔物の圧力に潰され死体となって転がった




「前面結界の一部解除、魔物の侵入口を作れ」


結界が解除された10m程の隙間から魔物が溢れだしてくる


「賢者の剣部隊突撃!」


溢れだしたと言っても侵入口は10mと限られているため、魔物の数はそれほど多くない


100体の『量産型魔導外骨格』で対処は容易であったが、それでも何体かは抜けていく


しかしこれは雷蔵たちの想定内であった


抜け出していく魔物は、冒険者たちで、対処可能な数




「よっしゃぁ! レストラガの冒険者の底力見せてやろうぜぇ!」


「「見せようぜ!」」


ヨルンとヨルクの兄弟が


「「「「おう!」」」」


レストラガの冒険者たちが雄たけびを上げる


「くぅ!中に結構強いのがいるぞ、気をつけろ!」


「ぐはっ! すまねぇやられちまった」


冒険者の一人が、素早いグレートサーベルタイガーの爪に引き裂かれ重傷を負う


「おい!しっかりしろ! 誰か手当が出いるやつはいねぇか!?」


見渡せば、少なくない数の冒険者たちが負傷していた




「賢者の癒し手の皆さん回復をお願いしまぁす!」


100体の黒い天使が現れ、負傷した冒険者たちに回復魔法をかけていく


「ぐあぁ、痛ぇ! ってあれ?痛くない!」


冒険者たちの傷は瞬く間に回復していく


「じゃあ、次はぁ、補助魔法をお願いしまぁす!」


「ぐおお!体から力がみなぎってくるぜぇ!」


「ぐはははは! 今なら世界を征服できる!」


「バカなこと言ってないで、戦え!」


全回復し、補助魔法をかけられた冒険者たちは力を取り戻し戦線に復帰していく




戦況は、雷蔵たちの計算通りだった


その存在が現れるまでは


「マスター 今までに計測したこともない強大な魔力の反応が急速に接近してきます」


「『量産型魔導外骨格』達で対応可能か?」


「『量産型』では厳しいかと」


「距離は?」


「現在地から300キロの地点で停止しました」


「魔法の術式の発動を確認!」


「何? この距離で撃ってくるだと!?」




魔法の有効射程距離は、距離が延びるにしたがって威力は減衰していく


それが、300キロ離れた地点から撃ってくるのだ、ただの魔法であるはずがない


そんな魔法を撃てる存在はこの世界でもいないはずだった


「フフフ ジブンタチニ ナニガオコッタノカ ワカラヌママ キエサルガイイ」




復活した『邪竜』は封印される前よりも、強大な力を手に入れていた


竜の谷にいる他の竜たちのコア(核)を食い漁り『存在進化』して



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