第23話 魔導忍者は聖女を救う(前編)

「と言う訳で、明日はダンジョンに行く」


「ジスレアだっけ?その子使えるのかい?」


「ああ!俺と同じCランクだが、精霊魔法が使える」


「今度こそ我もお供しますぞ!」


場所は、肉が美味い亭


雷蔵の話を聴きながら、猛烈な勢いで食べている二人


店の食材を食いつくさんばかりの食欲だったが、雷蔵の心には余裕があった


懐に余裕があったが故に


異例の4階級特進でCランクに昇格、ダンジョンに入る資格を得た


今回は、様子見と言う名目だったが、ジスレアのリハビリが本当の目的だった




雷蔵は午前中にジスレアと話をした後


命精活性の術を施しながら、彼女の健康状態を調べていた


その結果、彼女は身体的には、ほぼ完治していた


不調の原因は、ゴブリンの集落での悲惨な体験、その上精霊魔法が使えなくなった事


顔を合わせた当初は、見るからに元気がなかった、ジスレア


しかし、雷蔵の手助けもあって、精霊たちの気持ちを知ることが出来た


そして魔法が使えると分かると、少しずつ元気を取り戻していった


絶望で、今にも消え入りそうな状態だった患者の変わりように、治療師達は、何が起こったのかと驚いたそうだ


本人のたっての希望もあり、念のため今日一日は様子を見て、問題なければ明日退院しても問題ないだろうとのお墨付きをもらうことが出来たのだった




「退院していきなりダンジョン入りなんて大丈夫なのかい?」


「明日はあくまで様子見だ」


「無理そうなら引き返せばいいし お前たちがいるだろう」


「それだけ食ったんだ さぞかし活躍してくれるんだろうな?」


「試練の洞窟だろう? あたい1人でも楽勝だね!」


「試練の洞窟なら、我も経験済みだ 大船に乗ったつもりでいて下され!」


食欲以外も頼もしい二人だった




試練の洞窟:そのダンジョンの入り口はレスラトガの町の中にあった


全15層で、5層ごとに転移魔法人が設置され地上に帰還できるようになっていた


試練の洞窟のその名の由来は


『このダンジョンが攻略できないようでは、レスラトガで冒険者として通用しない』


レスラトガでの冒険者としての資質を試される、という事から名付けられたらしい




食事が終わると、ダンジョンに入る準備のために買い物をすることになった


「携帯食はこれがあるから買わなくていいぞ」


そう言って、銀色の包装に包まれた棒状の物体を二人に見せる雷蔵


「始めて見る携帯食であるな」


「ゴブ・・・いや えなじーばーと言う」


「ひとつ食べれば2,3日は持つ」


「あたいも始めてみたよ、どこで手に入るんだい?」


「それは企業秘密だ」


そう入手経路はともかく、素材も秘密にしなければならない


食欲的に!




一流冒険者である二人は手慣れたもので、ポーション等の消耗品をしっかり品質を確かめながら購入していく


途中、装飾品を扱う店が目に留まる


食欲第一主義の二人であるが、そう言ったものに興味がない訳ではなかった


店員が、待ってましたとばかりに話しかけてくる


「素敵なお嬢さん方にこちらのイヤリングなどいかがでしょうか?」


「体力回復の効果が付与されておりますので、冒険者の方に相応しい逸品でございます」


素早く、白玲にはオパールを、イデアにはルビーをあしらったイヤリングを試着させている




二人はチラチラこちらを見てくる


『お二人は、マスターの賛辞を期待しているようです』


出来る人工精霊イブさんのさりげないアドバイスに


「二人ともよく似合っている」


と褒める雷蔵


二人とも半ば期待していなかった雷蔵からの賛辞に、嬉しそうな笑顔を浮かべている




「二人がつけているものを貰おう、後、エメラルドをあしらったものはあるか?あるならそれも貰う」


「はい、ございます 3点で金貨3枚と銀貨60枚でございます」


思わぬ出費だったが、二人の喜ぶ姿を見たら、良い買い物だったと思う


ジスレアも喜んでくれればなおいい


そう思う雷蔵だった




「初めまして、ジスレアと言います」


「職業は、魔法使いで精霊魔法を使います」


「よろしくお願いします」


優雅にお辞儀をする美麗なエルフのジスレア


「あたいはイデア 盾職だよ」


「我は白玲 ライゾーの剣である!」


何故か、三人の目から火花がほとばしっているように見えたが


どうやら、気のせいだったようだ




朝一、ジスレアと合流し、冒険者ギルドへ向かってパーティー登録を行ってきた


見目麗しいジスレア達を連れている雷蔵を見て、男の冒険者たちから、嫉妬の視線が降り注ぐが、軽く受け流す雷蔵 


相変わらず、嫉妬とは気づいていない


イデアと白玲は、「自分が先導者になる!」と、また言い争いを始めたが


「お二人が先導者になればいいのではないでしょうか?」


「先導者は1人でないといけないと言う規則はありませんので」


とイェニーナが一瞬で解決してしまった


それを最初に言ってくれてたら、面倒な勝負とかにならなくて済んだのではないか?


と、口に出しそうになったが、イェニーナからも何やら殺気のようなものを感じたので、慌てて引っ込める


「私はCランクなので、ライゾーさんとお揃いですね」


とジスレアが言ったあたりから、なにやら雲行きが怪しくなった気がする




パーティー名は雷蔵の鶴の一声で『黒き塔』に決まった


名前の由来が謎に包まれていたが、特に他のメンバーからの異論もなかったので即決定


そう言うわけで、一見ハーレムなパーティーが結成されたのだった




ジスレアも試練の洞窟には入ったことがあるらしく


「俺は、ダンジョンは初めてになる」


「三人ともよろしく頼む」


こうして、パーティー『黒き塔』のダンジョン攻略が始まったのであった


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