第83話 魔導忍者は神の軍勢を迎え撃つ 5/5

「私の目は、この空のその遥か先をも見通すのですよ」


そう言って神エルネストは、空を見上げる


「手ごろな小惑星が見つかりました」


「なあに高々直径40mの石ころですよ」


「このあたり一帯を吹き飛ばすには、十分過ぎる大きさですがね」




そう言って、空に向かって手を伸ばす


もちろん小惑星に直接手は届かない


しかし、『神の見えざる手』は小惑星をつかみ取っていた




「自分たちの愚かさを、その身をもって知りなさい!」


「これが、これこそが『神の怒り』です!」


今までの無表情から想像がつかないほどの、憤怒の形相をその顔に浮かべている


だがその口元には、引きつるように笑みを浮かべていた




『神の見えざる手』は小惑星をどんどん引き寄せる


激突すればメガトン級の水爆の爆発に匹敵する衝撃力が発生するだろう


だが、雷蔵に慌てた様子は見られない


「じゃあ俺も奥の手をだそう」


『イブ 魔導アーム起動』


『了解しました 魔導アーム『千手観音』起動』


亜空間より無数の手が姿を現す


その数1000




小惑星は遂に誰の肉眼でも見える距離まで到達する


空気との摩擦で表面が燃え始め光を放つ


雷蔵はその小惑星に向かって手を伸ばす


もちろんその手は小惑星に届かない


『魔導忍術:千手神掌』


雷蔵の手の代わりに魔導アーム『千手観音』が彼のの手のひらの形をなぞるように並び天に向かって飛んでいく


『千手観音』の作り出す手のひらは小惑星をつかむ大きさまで広がるとその動きを止めた


燃え盛り急接近する小惑星は『千手観音』の位置まで到達すると、今までの勢いが嘘のようにその場に停止する




「っ! 貴様何をした!?」


「いや、だから奥の手を出したのさ」


魔導アームは手の形をしていた


普段、雷蔵の冗談なぞ聞いたことが無い


仲間たちが効いていたら仰天していた事だろう


今は相対する神が別の意味で仰天しているのだが




ジスレアなどは奇跡のような瞬間をを神に感謝した


もちろん目の前の神などではない


彼女が神だと認識している漠然としている存在に対してだ




雷蔵はジスレアに声をかける


「ジスレア あの隕石消せるか?」


「俺がやると破片が飛び散って、辺りに被害が出てしまいそうだ」


「私に任せて下さい!」


『ライゾーさんにいいところを見せるチャンス!!!』


彼女の身体から、やる気と共に力がほとばしる!




『嬢ちゃんやる気じゃねぇか! どれわしがちょっと手伝ってやるか!』


土の大精霊:王土オウドも張り切って、手を貸そうとしたその時


「こんなちゃちい石ころ飛ばしてきやがって!」


「惑星ぐらい飛ばしてこいや! こらぁ!」


ジスレアはどうやら力と感情が高まると人格変わっちゃう系のようだ



今まで気が弱そうで大人しい印象の少女の変貌


それは雷蔵どころか、神エルネストまでもが躊躇するほどのものだった




「デストラクション!」


彼女の声と共に、小惑星は粉々に砕け散る


「それでもってハイパープレッシャー!」


破片は高圧縮され、一辺が1m程の立方体へと姿を変える


「亜空間収納しておしまい!」




神エルネストの切り札は三段階で消え去った


土の大精霊の出番は無かった・・・


この隕石の塊から特殊な『魔導外骨格』が誕生することは


まだ誰も死なない事実であった




「私の最強の攻撃が一瞬で消されるだと!?」


「そしてお前の力も、消える時が来た」


神エルネストの背後から声が聞こえ、その肩に手が触れる感触が伝わる


振り払おうとするが、体の自由は既に利かない


その手は、エルネストを神の座から引き下ろす




「魔導忍術:簒奪の手」 その手に触れられたものは、あらゆるものを奪われる


たとえそれが神の力であろうとも


「ああああああああ! 止めろぉ! いや!やめて下さいぃ! 力を奪わないでぇ!」


エルネストはなりふり構わず必死に懇願するが


術の効果が止まる気配はない




エルネストの神の力と共に、その記憶の一部が雷蔵に流れ込んでくる


エルネストは、元は光の精霊だった


機械文明、魔法化学文明共に崩壊した時、その力に頼り切っていた人族は、滅亡の危機に陥る


偶然生き残った精霊魔術士がエルネストの力を借りて幻術魔法を使い、人々に神の姿を見せて周った


生きる気力を失っていた人々には、希望が必要だった


人々は、神の姿をしたエルネストに懸命に祈りをささげた


やがて人々は、その偽りの神を心のよりどころとして復興していった


魔術師もエルネストも最初は、人々の心の支えになれるだけで満足だった


だが、祈りの数は日ごとに増し、エルネストは自分の力が高まっていくのを感じるようになる


力が増すごとに初心は消え去り、自分よりも非力な者への傲慢さと、力への飽くなき渇望がだけ残った




エルネストは神意と偽り、人々を扇動して国を作らせ、自分を神と崇める信者を増やしていく


その国こそが、エルネスト法国


やがて光の精霊は、偽りの神ではなく、真の神となる


以後数千年の間、神の座に君臨し、眷属たちに力を分け与え天使にした


自分の意のままに動く駒として


そしてそれは不意に終わりを告げる




「お前はやりすぎた」


「力の使い方を間違ったんだ」


「天使たち、そして信者たちを偽り、操り続けた時間と同じだけ、お前を封印する」


雷蔵はエルネストに数千年存在を維持するだけの力を返してやった


「何が悪かったのか、考えろ」


「時間はたっぷりある」


「ジャッジメント・ジェイル」


クリスの結界に閉じ込められ、エルネストは亜空間へと姿を消した




その後、エルネスト法国に『神の軍勢』が『賢者の国』に敗北したことが報告される


同時に、教会の上層部の悪行が暴露され、これが起点となり革命がおこった


革命は成功し、教会の上層部は資産を没収され投獄、規模は縮小されるも教会は存続していく事となる


教会の支配から解放されたエルネスト法国は、共和制がしかれエルネスト共和国へとその名を変えた



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