第76話 魔導忍者は希望の大地に世界樹を創り出す


魔王バルバールの案内で、彼が守護する十氏族の集落を巡っていく


と言っても既に各集落には、代々の管理者たちが転移魔方陣を設置しているので、一瞬で移動できた


転移門を開いたとき


「おいおい、マジかよ! こんなのいつ仕掛けたんだ!?」


とバルバールが驚いていた


もし、これが敵対心のある相手だったらと思うとゾッとする


『ヤバすぎだろ! もしあの時ライゾーたちを敵に回していたら俺様たちは一瞬で壊滅していたところだぜ』




魔王自らの訪問に集落の住民たちは感激していた


「魔王様自ら足を運んで頂き、こんなに光栄なことはありません」


「常日頃、民の様子を見て周りたいと思っていたのだが」


「なかなか機会が無くて今になってしまった すまん」


「今日は俺様の友が皆に物資を届けてくれると言うのでな」


「いい機会なので、俺様が案内するつもりだったんだが」


「まさか転移で来れるとは思わなかったぜ」


「これからは、転移門を使って頻繁に顔を出すからよろしく頼むぞ! フハハハハハ!」


「ありがとうございます ご訪問心からお待ちしております!」


民たちの中には『魔王』自ら訪問という想像もしていなかった事態に


感激のあまり涙を流すものもいた


転移魔方陣を使う許可を雷蔵に取っているあたり


ちゃかりさんな魔王である




集落の暮らしは予想以上に厳しいものだった


荒れた土地では十分な作物が育たず、魔物の襲撃で住民たちは常に死の危険と隣り合わせの生活を強いられていた


集落の未来を担うはずの子供たちはやせ細っていた


その眼には、未来を夢見る子供たちが持っているはずの輝きが消え失せていた


『不甲斐ない『魔王』ですまん』


本来であれば、自分がなさねばならない責務


魔王バルバールは心苦しい気持ちでいっぱいだった




しかし雷蔵たち『賢者の国の使者』はその生活を一変させる


「クリエイト・フォートレス」



クリエイト・フォートレス:『賢者の塔』が開発した、文字通り砦を創り出す術式魔法


クリエイト・キングダムほどの大都市は生み出せないが、集落の民が十分に暮らせる広さと建物を有している



「この砦なら、魔物の襲撃にも十分耐えられる」


申し訳程度の柵は設けられていたが、その程度では大型の魔物の襲撃には耐えられない


しかし雷蔵が作り出した砦であれば、強力な魔物も歯が立たない


砦には、数体の『魔導ドローン:アルゴス』を周回させる


これで、人や魔物が襲撃してきた時など


不測の事態が起こり住民だけでは対処できない場合


瞬時に『賢者の国の使者』が転移して駆けつけられると言う寸法だ




そして建物の一角に、『亜空間収納の魔道具』を設置して族長以下数名に使用者の登録をしてもらい、使い方を説明していく


女子たちは、持ち前の明るさを発揮して住民たち、特に子供たちを優先して、食べ物を配っていく


「おねぇちゃん このえなじーばー いちご味とってもおいしいよ!」


子供たちが目を輝かせて頬ぼっている


主成分はミノタウロスさんなんだけどね


主成分はともかく、味は『賢者の塔』特産の甘~いイチゴをふんだんに使っているので、子供たちに大人気だ


栄養も豊富で、子供たちの栄養不足も解決できるだろう




「何という事だ! 一瞬で砦を創り出すなどさすが魔王様!」


「これだけの物資があれば、餓死者を出さずに暮らせます ありがとうございます魔王様!」


民達は揃口々に


「魔王様万歳! 魔王様万歳!」


と感謝と喜びの声を上げている




「いやこれは、俺様ではなく俺の好敵手がだな・・・」


そう民たちに説明しようとするバルバールを止める雷蔵


好敵手である俺の力はお前の力だ」


「それに民の心はお前の元で、一つになった方がいい」


『ああ、こいつは本当に俺様たちの事を考えてくれているのだな・・・』


『この借りは、いつか必ず返す!』


そう心に誓う魔王バルバールだった




いくつかの集落を周り、雷蔵たちは『魔族の大地』の中心地へとやって来た


雷蔵の手には、緑色の透明な球が握られている


よく見れば、その内部には積層立体構造の複雑な術式が光りながら回転しており


その中心に『世界樹の種』が埋め込まれていた


「これが『世界樹』を創り出す魔道具だ」


「中で光ってるのは魔法術式か? こんな複雑なものは俺様も始めてみる」


雷蔵は、球を地面に埋め術式を起動させる


クリエイト世界樹ユグドラシル創造




地面から芽が出ると、急速に成長して苗木ほどの大きさまで育つ


「これに魔力を込めれば急速に成長する」


「ようし! 『魔王』である、俺様の強大な魔力を見せつけてやるぜっ!」


雷蔵と女子たち、そして魔王バルバールは苗木に手を添えて魔力を込める


正確に言えば、雷蔵と女子は、最近になって覚醒させた『魔導力』と『気』を練り上げた『合力』を込めるのだ




雷蔵たちがその力を込め始めると


苗木はグングンいやビュンビュン成長していく!


真っ先に力尽きて倒れ伏したのは、魔王バルバールだった


「俺様の魔力が一番最初に尽きるだと!?」


「まぁ、前にも言ったが俺たちの身体は特別製だからな」


雷蔵は自分たちが『魔造骨格』と融合して『魔造人間』になっていることを説明する


「『生きた魔道具』とかパネェな!」


「『魔王』である俺様も特別製なんだがなぁ・・・」


魔力には自信があったので悔しそうだ


魔王は負けず嫌いだった




それからしばらくしてさすがの最強女子たちも力尽きるが


雷蔵に全く変化は見られなかった


「おいおい、お仲間もさすがにへばったのに、お前はどうなってんだ?」


「ああ、俺は体内だけでなく、大気中の力を取り込んで練り上げられるからな」


「マジか! それってほぼ無限に魔法が使えるって事じゃねぇか!」


「集中力がいるから無限ってわけにはいかないが、力が尽きた事は今までに無いな」


本当に敵に回さなくてよかったと


心底おもう魔王バルバールだった




『マスター 『世界樹』が成層圏に到達しました』


『規模を計測したところ、この世界で最大の『世界樹』となったようです』


1日と掛からず世界最大に成長した


この世界で13本目の『世界樹』


その成長スピードも13本中最速だった


他の12本が現在の大きさになるまでに数百年を要したことを考えれば


その異様さが分かる事だろう


「無事成層圏まで成長したそうだ」


「しかし何て大きさだよ! それに成層圏ってなんだ?」


「地面から約8キロの高さにある層のことらしい」


「8キロだと!?」


「この『世界樹』はこの世界にある13本の中で最大に育ったそうだ」


「今から制御パネルを出して『賢者の塔』とエネルギー供給ネットワークを構築する」


「集めた『魔力』と『気』を『賢者の塔』に送って『合力』を送り返してもらう」


「『合力』で強化された『世界樹』の力ならこの大地が豊かになるのも時間はかからないだろう」


そう言って雷蔵は世界樹の幹に手を当てる


世界樹の傍に黒い物体が出現する


そして、幹の一部が光り輝きそこから人影が現れる


「マスター 始めまして 私がこの『世界樹』を管理させていただきます」


白銀の髪に白銀の瞳の少女 ハイエルフの姿がそこにあった


「お前は第13番目の『世界樹』の管理者となる これからよろしく頼む」




「まずは、この『世界樹』と『賢者の塔』でエネルギー供給ネットワークを構築する」


「この『世界樹』は土地の改良に回せるリソースを全てつぎ込むように調整してくれ」


「かしこまりました」


『賢者』バベルに連絡を取りエネルギー供給ネットワークを構築する


雷蔵とハイエルフの会話を見守っていた魔王バルバールは


「うっはぁ! あれってハイエルフだよな!? 俺様始めて合ったぜ!」


「握手してもらっていいか?」


上機嫌でハイエルフと握手をする『魔王』の姿がそこにあった




「この時からこの大地は『魔族の大地』ではなくなった」


「今日からは『希望の大地』だ」


「『希望の大地』か・・・俺様たちが希望と言う言葉を口にできる日が来るとはな」


『それもこれもお前たちのお陰だぜ』


『ライゾーそして、その仲間たちよ』




『賢者の国』は世界中に、人類がかつて他の星から来た移住者であり『魔族』と呼ばれる者たちがこの星の先住民である事実を広めていく


それに伴い『魔族の大地』という呼び名も、その大地が『世界樹』の力によって豊かな大地に変わっていくにつれ『希望の大地』と呼ばれるようになっていくのである



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