第48話 魔導忍者は魔物の大群を殲滅する

『邪竜』は討ち取られた


雷蔵の新術『魔導忍術:電磁手裏剣』によって


だが、イデアが命懸けで時間を稼がなければすべては無駄になっていた




『娘よ見事であった 汝が真の巨人族の子孫である事を認めよう』


『こんなに力を出し切ったのは生まれて初めてかもしれないねぇ』


『イブ 『魔導外骨格』の名前って変えられるのかい?』


『はい 装着者の意思があれば変更は可能です』


『じゃあ新しい名前『タイタン』に変えておくれ』




『ほう! この鎧で我の名前を称えるか』


『神さんには命を救ってもらったからね』


『フハハハハハ! 殊勝な心掛けよ』


『オペレーティングシステムをイブより『タイタン』に移行します』


『人に造られし精霊よ 我にこの鎧を託すか』


『タイタン様にお任せするのが、相応しいと愚考いたしました』


『恐れながら、戦闘時のリンクをお許しいただければ幸いです』


『ほう? 戦いの場において思考を共有するのか? おもしろい! 合い分かった 良きに計らうがよい』


『ありがとうございます』


こうして、イデアの『魔導外骨格』は『タイタン』と改名され


巨人の神が守護する鎧と言う凄い存在となった




最大の危機は去り、魔物の大群は危なげなく討伐されていく


そのすべてが活動を停止するまでそれほどの時間はかからなかった


「俺たち勝ったのか? 5万の魔物に!?」


「ああ まぁライゾーが呼んでくれた援軍のお陰だがよぉ」


「「そうだな兄貴!」」


「「「「俺(わたし)たち勝ったんだ!」」」」


冒険者たちは勝どきを上げる




「だが、これだけの魔物の死体を片付けるのは大変だな・・・」


冒険者の一人のつぶやきにゲッソリする一同


何せ5万体の魔物の死体、すべて処理する間に腐敗は進むそしてどれほどの時間がかかるか想像もつかなかった


しかし、それも杞憂に終わった




「魔物の死体がどんどん消えていくぞ! 一体全体どうなってやがんだ?」


「「どうなってんだ?」」


「賢者の塔」の『亜空間収納』に一旦保管していっている」


「処理が終われば冒険者ギルドに引き渡すから報酬は心配しなくていいぞ」


「いや、俺たちはほとんど何もしてねぇし、町を救ってもらったんだ報酬はいらねぇよ」


他の冒険者たちも同じ考えのようだ


「お前たちは命を懸けて街を守ったんだ対価を得るのは当然の権利だ」


「それに俺もこの街の冒険者だしな」


「全部俺のもんだって言っても 誰も文句は言わねぇのに」


「おめぇは相変わらずお人好しだな・・・」


雷蔵は、普段は不愛想に見える


だが、彼が本当は心の優しい


お人好しなのはもう周知の事実だった




「この度は、街を救っていただき感謝の言葉もない」


辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガが深々と頭を下げる


「報酬は出来る限りの事はさせてもらうつもりだ」


「報酬は冒険者ギルドから受け取ることになっている」


「俺はこの街の冒険者だからな」




この戦いが始まる前にギルドマスターであるライマールに報酬についての話はつけてあった


「本当にそれでいいのかよ?」


「そりゃそうしてもらえりゃあレストラガの財政も一気に立て直せるんだがよぉ」


「町を救ってもらっておいて、そこまで融通してもらっちゃあ、立つ瀬がねぇぜ」


「延期にはなったが、これから、モンスターレスリングで稼がせてもらうからな」


「でもよぉ、折角の話なんだが問題があるだわ」


「なんだ?」


「5万体分の魔物の死体なんて処理するまでに腐っちまう」


「それに、それだけの量を、売却するまで保存できる設備もねぇ」


「それなら『亜空間収納』の魔道具を貸し出そう」


「おいおい そんなものまで用意できちまうのかよ?」


「俺の力じゃない『賢者の塔』の力だ」


そう言って、雷蔵は報酬について、話をまとめてしまった




報酬の内容についてだが、コアはすべて譲ってもらうことにした


魔物5万体分の『存在力』


進化の段階が進み、次の進化に必要な量はどんどん増えているが、2段階分にはなりそうだ


素材や肉の売却益はいったんギルドが預かり、冒険者にも相応の報酬を出してもらえるように依頼した


5万体分の死体を楽に保存できる『亜空間収納』の魔道具を貸し出した時にはギルドの職員たちは仰天していた


そんな異常な性能の『亜空間収納』の魔道具など聞いたことが無かったからだ


雷蔵たちへの報酬は、『賢者の塔』の使者500名分とした


今回の雷蔵たちは、指示を出すだけのつもりだったからだ




残りは、レストラガの財政再建に使って貰うように伝えた


10年前、『邪竜』討伐隊に、この町の兵士と冒険者も参加していた


そして、そのほとんどが戦死してしまった


領主である、ルフーゴ・フォン・レスラトガは兵士だけでなく、本来は依頼で死んでも一銭の金も受け取れないはずの冒険者の遺族にまで慰霊金を支払った


冒険者たちがレストラガを命を懸けてまで守ろうとするのは、そう言った理由もあったのだ


だが、それが理由でレストラガの財政は火の車だった


しかし、魔物5万体分の素材と肉を売却できれば


冒険者の報酬を差し引いても莫大な額になる


レストラガの財政も一気に立て直せるはずだ




「ああ、出来ればイデアには報酬に色を付けてやってくれ」


「あいつは命懸けで、『邪竜』のブレスを防いでくれたからな」


「『邪竜』!? あれは封印されたはずですが」


アルフーゴ・フォン・レスラトガは雷蔵の言葉に驚く


しかし、あの恐ろしい魔法の威力がその存在を証明していた


イデアが防いでいなければ、街どころか周辺一帯が焦土と化していたに違いない


「ここから300キロ辺りに死体がある」


「あれは俺たちが貰ってもいいか?」


「『邪竜』の死体だと!?」


「ああ、イデアが時間稼ぎしてくれたから、何とか倒せた」


「『邪竜』まで倒してくれていたのか・・・もちろん死体は誰のものでもない、そなたたちのものだ」


「それは助かる」


あれだけ強力な『邪竜』の死体だ素材として利用価値はどれほどのものか


辺境伯:アルフーゴ・フォン・レスラトガは


「この御恩はいつか必ずお返しする」


と言い残し去って行った


彼が忙しくなるのはこれからだ、辺境伯の戦いは、今から始まるのである




なんと、夜が更ける前に魔物の収納は完了してしまった


『邪竜』の死体もマッハで飛んで収納した


後は、『賢者の塔』で高速で処理されて、ギルドの『亜空間収納』へ転送される手はずだ


今回活躍してくれた人工精霊たちにも、何か褒美をと考える雷蔵であった




夜になると、冒険者ギルドの酒場では場所が足りず、急遽テーブルの椅子を持ち出して屋外も会場にして宴会が行われた


雷蔵たちは、冒険者全員から大いに感謝されつつも、『賢者の塔』や使者たちの事を根掘り葉掘り質問される羽目になった


魔物の大群との死闘の後だというのに、冒険者たちは元気だった


報酬として大金も手に入る!とみな大喜びだ


戦いの後、冒険者たちの姿は、回復魔法で、怪我はないものの装備はズタボロだった


そして、報酬が出ると、冒険者たちは装備を新調することになるが、一流の装備を格安で手に入れることが出来た


武器屋、防具屋に冒険者ギルドから、冒険者達がが装備を購入しに来た際に格安で販売してほしいと依頼があった


その見返りとして高ランクの魔物の素材を格安で卸す契約をしていたからだ


この戦いの後、冒険者たちは装備が一新され戦闘力が格段に上がった


それはこの街の戦力も大幅に向上したという事




「そういえば、ライゾーあたいとの約束忘れてないだろうね?」


「ん?何か約束したか?」


「人が命懸けで頑張ったってのに!」


「キスだよキス! あたいのファーストキスだよ!」


「「「「ファーストキスだと!?」」」」


冒険者一同が驚愕の声を上げる




「おお!ライゾーとイデアがキスするのか!?」


「それは見ものだな!」


冒険者が「キッス!」を連呼し始める


大事になってしまった


しかし雷蔵も男である


「よし! 約束は守る」


イデアを立たせ、熱いベーゼをと顔を近づけるが


如何せん身長がありすぎた、迫ってきたのは二つの巨大な爆弾だった




「届かない 仕方がない・・・よっと」


と言ってイデアを抱っこする 


お姫様抱っこというやつだ


「ちょっいきなり何すっ! んっ!?」


雷蔵は抱きかかえたまま、イデアにキスをした



その後イデアは、顔を真っ赤にして意味不明な言葉をを叫んだ後・・・気絶した


鉄壁のイデアにも弱点があった訳である


『ピンチはチャンス!!!』


白玲、ジスレア、クレア


3人はこの言葉をしかと胸に焼き付けるのだった




辺境の町レストラガは、魔物の大群によって壊滅の危機を迎えた


にもかかわらず、終わってみれば、戦力の増強、財政の再建といいことずくめだった


同時に、あっという間に『賢者の塔』の名とその使者たちの力が知られることとなる



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