第84話 魔導忍者は現人神となる

神の力を得た雷蔵はその力を無意識に今まであった己の力と融合させていた


『気』の最位階の存在である『神』、魔力のその先にある力『魔導力』そして、神の力『神力』


その3つの力を一つにした『神・合力』


それは、ある現象を引き起こす


この現象は、神の力を共有した、仲間たち全員の間に起っていたのだ




既に、『合力』相互循環によって感覚の一時的な共有は体験していた


イブとは戦闘時に思考を共有している


神の力を得た彼らの『心の絆』は更にその先へと繋がっていく


記憶、知識、技能だけでなく、己の中の善なるもの、悪なるもの、醜いもの、そして美しいもの


全てが自分の中にあり、全員の中にある


『俺にはお前たちの全てが分かる・感じることが出来る』


『我も』


『あたいもだよ』


『私もです』


『私もぉ、なんだか不思議な、それでいて懐かしいような感覚です』


『今まで、戦いの中で思考を共有させていただきましたが、今はそれ以上に皆さんの事が理解出来ます』


『人工精霊である私が、このような素晴らしい感覚を体験できるとは、すべてはマスターのお陰です』




『魂の回廊』


今までは、『存在力』や『合力』の共有化にしか使われていなかった霊的回路


今は、お互いの記憶・意識・感覚までもを共有する『心の絆』へと進化した


いやこれこそが『魂の回廊』の本来の姿なのかもしれない




『お互いを知り・理解する』


『これが神の力という事なのか』


いや、神エルネストにはそんな力は無かった


使わなかったと言った方が正しいのかもしれない


エルネストには他者に興味・関心などなかった


あるのは自分の力を大きくすること、他人を思いのままに操ること


そんな考えでは、お互いの心の絆など出来るはずもなかった




『今ならわかる、俺たちは偶然出会ったんじゃない』


『出会うべくして出会ったんだ』


『今なら我にもわかる、きっと我らはずっと以前から出会っていたのだと』


『あたいにもわかるよ、あんたたちに何度も何度も出会って来たんだって』


『私は今本当に幸せな気持ちです 誰かとこんなにも分かり合えるなんて』


『私もぉ、今までよりずっと楽しいですぅ』


『人工の生命体であるはずの私にも、何故かそう感じることができます』


『出会うべくして出会えたのだとしても、これほど幸せなことはありません』


『たとえどんなに離れても、月日が俺たちを引き離しても、俺たちはまた巡り合える』




そして今雷蔵たちは、『賢者の国』の国民たちの心も感じ取っていた


安心、希望、尊敬、羨望その一つ一つを


常人であれば、個と言う概念が崩れ去り、自我が崩壊してしまうほどの感情の奔流


だが、今の彼らにはそれを自然と受け入れることが出来た




『これが神の力てやつなんだな』


『悪くない気分だ』


『カカカ! とうとう自分の力で神になりよったか!』


雷蔵の本来の力であった存在


今では、冒険者生活を満喫しているリュウセンの声が話しかけて来た


『仲間と今まで以上に分かり合える・・・いい力だな』


『そんなもの、神の力の片りんでしかないんじゃがな』


『だがお前さんにとってはそれが、何よりも勝る力なのかもしれんのう・・・』


『お前には、わしと言う頼もしい味方もおるんじゃぞ?』


『それを忘れんようにの! カカカ!』


『ありがとう師匠』




「皆さん、脅威は去りました」


「私たち『賢者の国』は神の軍勢に勝利したのです!」


『賢者』バベルは、映像投影魔道具で雷蔵たちを見守っていた国民たちに勝利を宣言する


「そして、『賢王』とその従者たちは『神の力』を手にされました」


「人の身でありながら神の力を得し者『現人神』となられたのです」




天使の軍勢を退け


強大な力を持つ神エルネストを封印し


人の身でありながら『現人神』となる


『賢者の国』を作り自分たちを守護する雷蔵たちが『神』となった


国民たちは神話の世界の出来事を身を持って体験したのだ


そしてその偉業を、自分たちの事のように喜んだ




人の身で神の力を経た


だがその力に溺れることはない


力よりも意味のあるもの、大切なものがあることを知っているから


雷蔵たちの本質は変わらないのだ




「何だかみんなで嬉しそうにしているところ恐縮なんだがなぁ」


「俺様よぉ、なんかアウェイ感ハンパなくて寂しいんだが?」


「あ・・・お前『魔造骨格』と融合してなかったっけ?」


「それが原因かよ・・・」


「ライゾー そのことで頼みがある」


珍しく思いつめた表情の魔王バルバール


「何だ?」


「俺を『魔造魔王』にしてくれ!」


「「「「「え?」」」」」




『魔造人間』ならぬ『魔造魔王』になりたいと言う魔王バルバール


彼の中のある思いが、その言葉を紡ぎ出したのだった



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