第51話 芭下螺(バカラ)

「後始末も早かったんですね」

「まぁ、専属で雇ってますもので」

「あぁ清掃係りさん?」

「はい」

「うんうん優秀だ…まるで何も無かったみたい」

「こんなガラスの修復も一晩でやってのけるんだもん、清掃員がね~、軍隊でもこうはいかない」

「交換用に保管してありましたので」

「このガラスの? 割れる前提があるわけですか?」

「そういうわけでは…」

「こんなガラスのストック…ね、そもそも火が立った形跡も無い…まるで痕跡を消したみたいに…あるいはチリひとつ残さないように回収したみたいに?」

「人聞きの悪い…」

「いえ、省察の現場検証後でも、こんな綺麗にはならないもんでね…いや見習うべきですな~清掃員さんを」

「相良さんでしたよね」

「はい」

「今日は何を聞きにいらしたんでしょうか?」

「本題ですか…そうですね…まぁ、大方済んだんですけど…ついでというか、参考までに…」

 シワだらけのスーツのポケットから写真を取り出す。

「コレ? なんだか解りませんか?」

 差し出した写真は、例の病院からプリントアウトした怪物の写真

「さぁ…解りかねます」

「そうですか、こんな生き物飼ってませんか?」

「はい?」

「いえ冗談ですよ…では失礼します」


 去り際に相良がクルッと振り返り、

「そうそう、朝倉ユキ少年にも、よろしくとお伝えください」

「伝えます」


 手配してもらったタクシーに乗り込んで、

「相良さん、挑発ボタン押しまくりでしたね、大分怒ってましたよあの人」

「うん、思ったより短気というか…まぁ、この名刺の時点で挑戦的だとは思ったけどね」

 ヒラッと指で名刺を挟んでヒラヒラさせる。

「何か関係あるんですか?」

「ん? あぁ…この写真さ、逆さまに出したんだ、彼女さ、当たり前のようにひっくり返したんだよ、知ってるのさ上下をね…」

「どういうことです?」

「見たことがあるのさ、同じ写真を…あるいはもっと鮮明な画像でね」

「はぁ? でどうしましょうか?」

「何もしないよ…これ以上何も出て来ないさ、NOAには入る理由がないしね、しばらく京都に宿を取ろうかとは思うけど」

「いえ…生湯葉のお店…何処にしようかと」

 スマホを差し出す花田。

「あっ、そうだ!! 運転手さん、どこかオススメありませんか?」


 ………

(あの刑事…クソッ!!)

 完全に踊らされた。

 ビクニが苛立って壁を軽く蹴った。

「何を知っている?」

 気にはなるが…コチラから近づくには、あまりに危険だ…

(消してもいいが…警察には出来るだけ…もう少し様子見か…癪に障る)

 ユキの知り合い…あのときの事件の調査か…その担当刑事…どこまで掴んだ?

 いや…こっちの世界に踏み込む刑事など…いるわけがない。

(でも…ユキと関わったということは…)


 少し調べさせようか、そんなことも思いはしたが、ヤブヘビになりかねない。

 厄介な繋がりがあったものだ。


(『ミコト』…コレを狙っていたとは考えたくないけど…まさかね)


 本当に、あの子らしい、やり口ね

 でも、デカンはもう撃ち止め、次はどう出る?

 あなたが招きよせた刑事が、今度はアナタに仇名すかもしれないわよ…


 にしても…あの写真1枚で、ココに来たとは思えないけど…ユキが狙いというわけでもなさそうだし…あの刑事、何を追っている?


 ……

 その刑事は、その頃

「相良さん、生湯葉って、ひたすらコレですか?」

「キミ、生湯葉をよく知らないまま食べに来たんだろ」

「トロトロ、フワフワしてるような」

「トロトロ、フワフワしてるじゃないか」

「はい、でもソレだけというか…なんというか…ソレが全てというか」

「うん…」

「そのくせ、引っ込んでいられないというか…自己主張が独特というか…相良さん、アタシ…カツ丼食べたいです」

「うん…キミには向かない食べ物なんだろうな」

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