第61話 恣意苦(Seek)
小太刀の軌道は変えないまま横に飛び退いたビクニ、空ぶった小太刀が自身の手首を斬り裂いた。
「痛ぅ…」
後ろを振り返ると、そこには『ナタク』が立っていた。
(いつの間に…)
2mほどの細い体躯、表面はイカのように滑らかに光っている。
大きな黒い目がジッとビクニを見ている。
シルエットこそ人間に近いが、手足の関節は3つ…4つほどありそうな動きをしている。
グネグネと動く様は、本能的な嫌悪を抱かせる。
「悪趣味ね…なに?」
妖魔とは違う、異質な生き物を前にビクニが少し距離を置く。
「フフ…兄さんの造ったクリ―チャーさ、名は『ナタク』」
「説明どうも…兄さん?」
「フラカンは僕の兄…これからの地球に生ける生命を創造する神さ」
「神? バカなことを…」
「ナタクは、イカのように身体を変色させる…視認しにくい生物でね…認識できるとすれば、妖魔コアを嗅ぎ分けれるヤツだけさ…僕や夜叉丸…そして、コアを宿した人間…あなたのようなね」
「少しは、お勉強したみたいね…ユキ」
「あぁ…ミコを殺した連中を皆殺しにするためにね…しかし、オマエ、やけにユキ、ユキと馴れ馴れしいな」
「覚えてないなんてね…お姉さんとの甘い思い出は残ってないの? 可愛い坊や」
軽口を叩きながらも、ビクニは傷の回復を待っていた。
「知ってるよ…ARKのビクニ、死なない化け物なんだってな、徐福が精製した不死の秘薬を飲んだ最初の人間…なんだろ?」
「懐かしい名前ね…」
「始皇帝を差し置いて、オマエが不死を得た訳は…想像に容易い…が、不死を持て余して、命で遊ぶ、オマエを僕は許せない」
「命で遊ぶ? ガキが何を語ってるの…命? オマエが言うな!!」
ビクニが指さした先、外には無残に殺された兵士の死体が転がっている。
「兵隊は死を覚悟しているものだろ…ミコは…何のために殺されたんだ!!」
ユキがビクニに拳を突きだした、その瞬間、ユキの動きが止まった。
「えっ?」
「ユキ…」
ビクニが信じられないといった顔で呟いた。
ユキの脇腹から、突き出した日本刀の切っ先…
「オマエが大嫌いだったんだよ…ユキ」
「兄さん? なぜ?」
ユキがロビーにゆっくりと沈むように倒れる。
その後ろに立っていたケン。
「フフフ…ビクニ、久しぶり」
「ケン…あなた、まさか…」
「気づかなかっただろ? 僕も、『ナタク』と同じようにイカの遺伝子を自分に組み込んだんだ、妖魔のコアを持たない僕には気付かなかっただろ? キミ達、化け物はさ、その能力に頼り過ぎなんだよ、結局、人間には勝てないんだよ」
「それがNOAに行って得た
「そうさ、僕はね、霊力を持たないだけで、孤児院では惨めな扱いだった…でも…アンタに拾われて、やっと居場所を見つけたんだ、それなのに…ビクニ、アンタはユキを連れてきて…僕は、アンタの一番じゃ無くなった…ユキの事は何も解らない…予測すら出来ない不確定要素、皆がユキに注目して…僕はただの記録係に成り下がった!!」
「ケン…」
「僕はね、アンタに認められなきゃ、居場所すら無い、ただのハッカーなんだよ!! アンタに認められなきゃ…僕を見てくれなきゃ…」
「ケン…そんなことで、ユキを連れ出して、この事態を引き起こしたの…」
「そうさ…アンタの前でユキを殺す、そのことだけを考えていたんだよ…ずっと…ずっと!!」
「バカね」
「アンタが僕を拾ったんだ、アンタは僕を見てなきゃいけないんだ!!」
「私は、あなたの母親じゃないのよ、ケン」
「なぜ、僕を拾ったんだ…無責任だよ…ビクニ、僕を見てくれよ」
「見てるわよ…ケン…」
優しく微笑むビクニ、ケンにゆっくりと近づく。
「ビクニ…」
「もう眠りなさい…」
ビクニの小太刀がゆっくりとケンの胸に突き刺されていった。
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