第60話 子売琉(Call)

「待ってたよ…案外、遅かったね」

 カイトとキリコが宿舎脇の公園に停車してあるフルスモークのワゴン車に近づくと、サイドドアを開けて、ケンが降りてきた。

 チラッと見える車内は、モニター類が積み込まれている。

「相変わらず、覗き見とは良い趣味ね、ケン」

 キリコが嫌味混じりに話しかける。

「フラカン…」

「はっ?」

「『ミコト』から貰った名前、僕は今『フラカン』…『ケン』はもういない」

「ふん、NOAに尻尾を振ったってわけか」

 カイトが1歩前へ踏み出す。

 キリコもカイトも武器に手を掛けない。

 鼻からケン相手に武器など不要と思っている。

 それが初手を決めた…

「相変わらず…甘い」

 ケンが呟く。

 ゴンッ!!

 キリコの足元のマンホールの蓋が宙へ舞い上がり、中から白い影が飛び出してきた。

「妖魔を潜ませていたか!!」

 カイトがすぐさま、体を翻し飛び出した影に一太刀浴びせる。

「キリコ!! 無事か?」

 不意をつかれ、地面に伏せたままのキリコを抱えるようにカイトが膝を付いたとき、

「今度は僕に背中を向けるとはね…つくづく甘い…」

 ケンがカイトに向けて銃口を向け、躊躇なく撃つ。

「ガハッ…テメェ…ホントにNOAに…」

 背中に数発の銃弾を受けて、カイトがキリコにもたれ掛るように倒れた。

「いやぁーーー」

 キリコの悲鳴で、数名の兵士が駆けつける。

 タタンッ…タンッ…

 数発の銃声の後、悲鳴すらあげないまま、兵士が倒れた。

「こんな妖魔…いるの?」

 キリコが銃を構えながら呟く。

「キリコ、ソレは妖魔じゃない、僕が想像した新たな生命…この先の地球に息づくであろう生命体さ…『ナタク』と名付けた、僕が造ったんだ」

「ケン!!」

 キリコがケンに銃口を向ける。

「今度はナタクに背を向ける…学習しないねー!!」

「グッ…」

 ナタクの右腕がキリコの背中に食い込んだ。

「ふん…連れて来い、僕らもARKへ行くぞ」

 潜んでいたNOAのマシンナーズが数名、ケンに付き従う。

(ケン…ケンといつまでも…僕はフラカンだと言ったはずだ…変わらずバカなんだな)

「フラカンさま…こいつらは?」

「ん、とりあえず人質だ、延命処置だけしておけ、簡易的でいい、終わったらARKへ乗り込む…が心配なんでな」

「はっ!! ナタクは…」

「単騎で先にARKへ向かわせろ」



「夜叉丸…」

 ビクニの小太刀を避けながら、ユキは夜叉丸の名を呼んだ。

 ピクッと夜叉丸がユキの声に反応する。

「グガァァアァァアアーーーー」

 夜叉丸は口を開くことを止め、むしろ四肢を踏ん張って、口を閉じようとしている。

「カハッ…」

 マルティノ蟹座の腕がその牙で締め付けられる。

(持たない…)

 腕の甲羅にギシギシと音を立てて、時折ビキッとヒビの入る音がする。

(ダメだ!!)

 ゴキッ…

 マルティノ蟹座の肩が外れ…ダランッと夜叉丸の口から抜け落ちる。

「マルティノ!! 離れろ」

 ヴァリニャーノ射手座が夜叉丸への攻撃を止め、マルティノ蟹座を後方へ逃がすために蹴る。

(しまった!!)

 無理な体制で蹴りを放ったヴァリニャーノ射手座の崩れた身体に夜叉丸の爪が振り落される。

 背中から腰までザックリと裂かれたヴァリニャーノ射手座がロビーに叩きつけられる。

 ヴァリニャーノ射手座の頭を前足で抑えつけながら、夜叉丸がユキの方を見る。

「いいぞ…夜叉丸…」

「随分、甘く見られたものね、無手で私の小太刀を裁いて、飼い犬の心配とはね」

「ん? オマエの太刀筋は…不思議と知っているようだ…簡単に裁ける」

(記憶が残っている? というか…過去の戦闘を、そういう目で見ていたのね…そういうところが賢しいと言うのよ!!)

 ビクニの小太刀が左右、袈裟斬り、左薙ぎからユキを襲う。

「頭だけ残して斬り刻む!!」


 トドメを差しにいったビクニの背中に悪寒が走った。


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