第59話 素悩(Snow)

ヴァリニャーノ射手座…オマエが頼れと言ったのは、あのガキのことか?」

 マルティノ蟹座が不思議そうに尋ねる。

「あ~まぁ…そうなんだけど…色々、眠っている間に事情が変わったようだね~躾の悪い飼い犬も白から黒に変わったしね」

「躾がなってないのは、犬だけじゃないわね…あのガキも相当に躾が悪い」

 チラッとマルティノ蟹座がビクニの顔を見る。

「私が躾けたわけじゃないわよ…」

「躾けないから…あ~なったんじゃないの?」

 ヴァリニャーノ射手座もビクニをジロッと見る。

「助けに来てくれたんじゃないの? 責められている気がするわ…」

 ビクニがマルティノ蟹座ヴァリニャーノ射手座を交互に見返す。

「まぁ…躾の問題は、後で考えるわ…とりあえず、あの子を椅子に座らせることから手伝ってちょうだい!!」

 ビクニが小太刀を逆手に持ち替えて、ユキに再び突っ込んでいく。

「あの人は、懲りないというか…なんというか…」

 ヴァリニャーノ射手座が呆れて溜息を吐いて、夜叉丸の方に向き直り、牽制するように片足を上げる。

「顔に似合わず、戦い方は凶悪なのよね…あの女は…」

 マルティノ蟹座もスッと構えをとり、夜叉丸の前に立つ。

ヴァリニャーノ射手座、その足には慣れたの?」

「ん? なんかね…まぁ、結局、動かさないとさ、慣れないんだよね…リハビリ感覚で充分かな、犬を躾ける程度ならさ」

「機械式の足ね~、アテにしていいのかしら?」

「馬の脚よりは、マシなんじゃない、見た目は…」

「ソレに、あの大型犬は、簡単に躾けられる気性じゃないわよ」

「うん…そうだね…だから全力でいくのさ!!」

 ヴァリニャーノ射手座の足がキュィーンと機械音を上げ、一気に距離を詰め、夜叉丸の脇腹を蹴りあげる。

「ギャンッ」

 息を上げている夜叉丸が再び叫び声をあげる。

 その大きく開いた口に、両手の拳を肘まで突っ込んで夜叉丸の動きを止めるマルティノ蟹座

「甲羅に覆われた、この腕、噛み千切れるものならやってみな」

 マルティノ蟹座を振りほどこうともがく夜叉丸の背中に、ヴァリニャーノ射手座の蹴りが入る。

「よく動くみたいね、その足」

「あぁ、さすがARKのサイボーグ技術ってとこだね、NOAもARKも、マシンナーズ機械化兵士が優秀な兵士だと実感するよ、我が身になるとね」

「もとは医療技術目的なんだけどね」

「まぁ、電子レンジと水爆にも共通の技術はあるようだしさ…」

「そうね、電子レンジよりは、今は心強いわ」

 マルティノ蟹座は、ググッと両手に力を込めて、夜叉丸の上体を持ち上げる。

 口に突っ込んだ両手を外されないように、夜叉丸の口を内側から上下に広げて、持ち上がった夜叉丸の半身目掛けて、ヴァリニャーノ射手座の蹴りが連続で入る。


 まだ、フラフラとガスの影響を受けているユキ、霞む視界の先で夜叉丸の姿を捉えた。

「クソッ…戻れ」

 夜叉丸を不可視に、そして質量を奪い透過させ、逃がそうとしたユキに

「させないために、私がいるのよ…」

 ユキの視界に飛び込んできたビクニの小太刀がユキの両手を深く斬った。

「ガッ…」

「まずは手足の自由を奪わせてもらうわよ、ユキ」

 止まらないまま、身体をクルッと回転させ、今度は両足を斬りにいく

 たまらず、後方に飛び退くユキ、それでも小太刀はユキの太ももをかすめる。

「汚い血を抜いて…またしばらく眠りなさいユキ!!」

「また?だと」

「良い子になって目覚めたら、全部、話してあげるわ、だから大人しく手足を差し出せ!!」

 先手を取られたユキは防戦一方、夜叉丸も攻守に分担されたヴァリニャーノ射手座マルティノ蟹座相手に苦戦している。

 それでも自由になる前足で、マルティノのスーツは裂け、所々、肌が露出している。

 剥き出しの肌はもちろん、甲羅に覆われた部分も、砕かれ、裂かれつつある。

(そう長くはもたないな…)

 マルティノ蟹座は、1撃ごとに近づく死を感じていた。

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