第54話 型原(カタハラ)

(NOAに逃げ込んだわね…ケン)

 ビクニは薄々、感づいている。

 ARKが手出しできない場所なんて、限られている。

 最も関わりたくないNOAに潜伏するのが一番安全なのだ。

 ユキという絶対の切り札があれば、正門から喜んで迎え入れてくれるはずだ。

(でもねケン…ユキは『エース』じゃないの『ジョーカー』なのよ)


 おそらくビクニの情報を流したのもNOA、『ミコト』だろう。

(つまらない、昔話を持ち出して…同族嫌悪ってヤツかしらね…)


「さて…どうしたものかしら…」

 すでに1週間が過ぎていた。

 京都から出た気配はない。

 ケンは普通に各手続きを済ませ、ユキを搬送したのだ。

 誰の目を欺くことなく、自分で済ませた手続きに沿って、正門から堂々と護衛付きで宿舎を出た。

「さすがというか…大胆と言うべきなのかしらね」


 しばらく自室で窓の外を眺めて考えていたビクニが、カイトとキリコをロビーに呼んだ。

「しばらく出動はないわ…バックアップもいない、封魔師もいない…それどころか、軟禁状態で外出すら制限される」

「当然といえば当然か…」

「ケンはどうなるの?」

「当然、確保されれば…処分されるでしょうね…」

 ビクニは顔の表情こそ変えなかったが、その目はカイト、キリコと視線を合わせることはしなかった。

「なんとかならネェのか?」

「ならないわよ、させないための軟禁なんだから…」

 それだけ言って、さっさと自室へ戻ってしまった。


「クソッ!!」

 カイトがロビーの机を思い切り蹴りあげる。

「カイト…今は待とうよ…ビクニだって黙って従うつもりはないはずよ」

「ハッ!! どうだか?」

 カイトはひっくり返った机を戻さないまま、自室へ戻った。

 机を戻しながら、キリコの目には薄く涙が溢れていた。

(ケン…ユキ、大丈夫だよね)


 …………

「なぜ、僕にビクニの情報を流した?」

「ん? あなたが、ビクニのチームだからよ」

「それだけか?」

「フフフ…自惚れないで、アナタ、自分が特別だとでも?」

「いや…僕がビクニを裏切ると、どこで判断したのかと思ってね」

「あぁ、そういうこと、うん…そうね…アナタが何よりも知識欲に弱そうだから…かしら」

「僕はユキを…仲間を実験体にするようなマネを繰り返す…」

「嘘ね!!」

「なっ?」

「いや…多少は? 違うわね、アナタは朝倉ユキをダシにして、ココに来たのよ、自分の意思でね、私はキッカケに過ぎないわ」

「……」

 黙るケンに『ミコト』は畳みかけるように言葉を続ける。

「デカンは、私…いえNOAにとって必要なモノを回収するための駒なのよ…チェスでいえば、ナイト・ルーク・ビショップがデカン、ポーンが一般の兵士…」

「そしてアンタがキングか?」

「いいえ、私は最強の駒、クィーンよ」

「キングは他にいるってことか?」

「他にいたのよ…アナタが連れて来てくれた」

「ユキ?」

「朝倉ユキ…彼こそがキング、何処にでも動けるけど…不自由な駒よね」

「事実上の最強の駒はクィーンだもんな」

「そうよ、クィーンを活かす為に、他の駒は存在するのよ、蹴散らし、壁になり、犠牲になって道を作るのが、その役目…」

 楽しげに話し、時折ニコッと笑う。

(見た目は少女…ユキと同じ歳くらいか…それより下かも、だけど…コイツは危険だ…この目はまるで…)

「アナタのことは好きになれないな…どこかビクニと同じ匂いがするよ」

「当然でしょ、私は、あの女の妹…娘…まぁそんな関係ですもの」

「なに?」

「最後のデカンが『アスクレーピオスへびつかい座』なら…最初のデカンは?」

「なっ? まさか…」

「そうよ、私は最初のデカンにして、唯一成功したデカン…バルゴ乙女座・オリヴィエーロ…それが私よ」

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