第55話 解教(カイキョウ)

「なぁ…キリコ」

「なに?」


 食堂で昼食をとっているカイトがキリコに話しかける。

「ビクニって…幾つになった?」

「はぁ?」

「歳だよ」

「アンタ、そういう詮索は失礼よ」

「あっ? そういう意味じゃねぇよバカ」

「バカ? アンタにだけは言われたくないわね」

「まぁ聞けよ、オマエと俺は、孤児院で一緒だったよな」

「そうね…腐れ縁ね」

「あぁ、否定はしねぇ」

「なんですって!!」

「聞けって、ビクニには、子供の頃、何度も会ってるよな?」

「そうね、ARKの事前事業だし理事だっけ? ビクニ」

「あぁ…アソコに入って、ココに来て、なから20年経つんだぜ」

「………」

「ビクニ…って幾つだよ?」

「………」

「考えたことがねぇとは言わせねぇぜキリコ」

「うん…女だからね…気にならないわけはないわよ」

「40歳は超えてなければ嘘だぜ…あるいは50超えてても不思議はない」

「そうね」

「で、あの姿だぜ、どうみても30歳過ぎにすら見えない」

「そうね…子供の頃から、あのままよね」

「若作りだけじゃ説明つかないだろ?」

「容姿すら変化がない…それは不自然よ…でも…」

「アイツ…妖魔…いや妖戒であっても…いやむしろ、そう言ってくれたほうが納得しやすい」

「バカなことを…」

「というがな…じゃあ納得できる説明が、オマエには出来るのか?」

「ふぅ~」

 大きなため息を吐いて、キリコは席を立った。

「読んでみなよ…」

 そう言ってカイトに1冊の本をテーブルに投げた。

「おい…コレ」

 キリコは黙ったまま食堂を出て行った。

「人魚? なんだこりゃ?」


 …………

「オマエも知ってのとおり、都市伝説、民間伝承、世界中に溢れる化け物…UMAの類、その大半は妖戒、妖魔の目撃情報に尾ひれが付いて広がったもの」

「ふん、お前等が造った、悪趣味なデカン、その成り損ないもだろ?」

「ハハッ、まぁそんなとこよ、でもね、ソレを狩っているアナタのいたARKにも化け物はいるのよ…」

「ふん、封魔師…ユキ達のことか?」

「違うわ、朝倉ユキは霊力の高い人間を掛け合わせ続けた結果、それだけよ…いわば人間の努力、その成果でしかない」

「言ってくれるね」

「事実だろう、だがな…アレは化け物ではない、化け物は、オマエ達のリーダー、ビクニのことよ」

「ビクニ…」

「近くに居て、気づきもしないか? そんなことも無いのだろう? 見て見ぬふりをしてきた…そうであろう?」

 ケンは『ミコト』から目を逸らし唾を飲みこんだ。

「当然よな、歳は取らない、傷はすぐ治る、ARK内の立場すら謎…一介の兵士でもない、疑問に思わないはずはない、だからオマエは私の言葉に耳を傾け、ココに来たのではないか」

 図星だった。

(ユキのためなんて、ウソだ…小さな疑問が、大きくなって…不安だったんだ…恐くなったんだ…)

「よいのだ…それが当たり前なのだ…だから、わらわの傍にいるとよい、ココは楽園を目指す箱舟、NOAなのだから…選ばれし民だけの世界へ漕ぎ出した船、そなたも、ココで不安を忘れるとよい」

ミコト』の言葉には安らぎを感じさせる何かがあった…がケンは見てはいなかった、語るその表情は冷たく能面のような『ミコト』の顔を…


「コレが?」

「そう、現代の箱舟が運ぶ未来よ」

ミコト』がケンに見せたモノ、現存する地球に生ける生命の遺伝子のデータベース。

「これをミキサーにかけると…アナタの思い通りの生命を産み出すことも可能かもしれないわよ…ケン」

「コレは…太古の生物まで…」

「そう、この地球で産まれた生命は、ほぼ網羅しているといっていいわ」

「ミキサー?」

「あぁ…デカンを造るためのデカン、役割を別にして2体いたんだけどね、それを合わせた完成品、システムのひとつだと思って使い熟してくれれば幸いだわ。覚えておいて、遺伝子のミキシングには、『フロフキ』と『妖魔』が絶対不可欠なの」


 ケンはすでに『ミコト』に、そしてNOAに摂り込まれていた。

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