第53話 酔化(スイカ)

 ビクニは兵士に指示してマルティノ蟹座に部屋を与えた。

 軟禁状態ではあるが、ソレがマルティノ蟹座には意外だったようだ。

「よろしいのですか?」

「いいのよ、逃げる場所もないんだし、ココにいるしかないの」

(少なくてもユキに会わせるまでは何を企んでいたとしても大人しくしているわ)


「ユキを起こすんだって、ビクニ」

 ケンがロビーでビクニを待っていた。

「あら、聞いたの?」

「アナタ、こんなとこで油売ってるヒマあるの? デカンの解析、ユニットの解析、コア・クリスタルまで転がり込んできたのよ」

「ビクニ!!」

「ケン、勘違いしないでね、私達は友達でも家族でもないのよ、あなたユキにどうあってほしいの?」

「どうって…それは…普通に」

「出来るわけないでしょ!! 霊獣を宿された時点で、あの子は贄になったのよ…夜叉丸に喰われ次の主へ使えさせるための制御装置にすぎない」

「装置だと?」

「霊獣の本能を抑えつけるためには、どうしても必要なことじゃない、知らないわけじゃないでしょ」

「……それでも、ユキは僕の仲間だ…」

「あのまま寝かしておけとでも言うの?」

「ユキは夜叉丸を白虎を纏ってみせた…獣神化とは明らかに違う」

「もしかしたら、霊獣を従えさせることができるとでも?」

「あぁ」

「甘いわ、あれは偶然よ…相手が自分の殺した同級生で、コアがほぼ成長しきっていた…つまりエサとしての魅力が無かった。ついでにいえば、夜叉丸を抑えているのがユキの母親で、夜叉丸とユキが捕食より駆逐に心が傾いた…これだけの条件の中で起きた偶然」

「それだけで神化できるの?」

「……さぁね、神化なんて稀な現象ですもの、解りっこないわ」

「何百年生きてても解らないこともあるんだね」

「……黙りなさい」

「不死は退屈だろうね…ビクニ」

「黙れ…」

「人でありながら妖戒を食った巫女がいたそうだね…その昔」

「………」

「ほとんどは、その場で息絶え…生きながらえても、その姿は、人では無くなった…でも、1人だけ姿は、そのままで不死の身体を得たそうだよ」

「………」

「フロフキを一緒に口にしたんじゃないかな?」

「忘れたわ…」

「ビクニ…あんたは知っている、不死の秘薬の精製方法を」

「バカなことを」

「NOAも、このARKも、あんたの持つ知識を得るために、こんなことをしているんじゃないのか?」

「だとしたら?」

「デカンも…僕達も…今まで、その犠牲になった人間達に思う所は無いのかい?」


「戻りなさいケン、バカな妄想は聞くに堪えないわ」

 ビクニはケンと目を合わせることなく、自室へ戻っていった。


「死ねないってね…意味が違うのよケン」


 …………

「ユキ…オマエは…」

 その夜、ARK宿舎からケンとユキの姿が消えた。


「どういうことだ?」

 カイトが警備に詰め寄る。

「いえ、私達は、ケン様がユキ様を…」

「ケンが…」

 キリコが信じられないといった顔でビクニを見る。

「やってくれるわね、ケン」

「説明しろビクニ」

「説明の必要あるの? ケンが昏睡状態のままユキを連れ去ったのよ…それだけよ」

「ふざけるな!!」

「ホントよね、ふざけた話よね」

「なんでケンが?」

「そんなのケンに聞きなさい、今、総動員で追ってるんだから…」

「捕まるか? ケンだぞ」

 カイトが爪を噛んだ。


 そしてカイトの予想通り、ケンの足取りは掴めないまま2日が経った。


 …………

「よく来てくれたわね」

 ケンが潜伏先に選んだのはNOA京都支社…『ミコト』の懐だった。

「不本意だけどね…ARKにユキは預けられない」

 昏睡状態のまま、運ばれてきたユキ、その傍らに夜叉丸が静かに付き添う。

「いい判断よ…そうビクニの元に、この子がいることが不自然なのよ、元々ね」

ミコト』が冷たく微笑んだ。


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