第52話 惡啞(アクア)

 アスクレーピオスへびつかい座の襲撃から4日が過ぎた。


「幸か不幸か、ARKは『ユニット』とデカンの素体を入手したわけよね」

 ビクニは地下の保管室で回収された『ロヨラ獅子座』『アスクレーピオスへびつかい座』を眺めていた。

メスキータ魚座』が浮かぶカプセルの脇に並べられている。

「ですが…腐敗というか、まぁ損傷が激しく、大したデータは取れないかと思います」

「仕方ないわ、『ユニット』は?」

「もともと使い捨ての兵器ですから、こちらも…」

「そう…まぁ、こんなもの使い道はないけどね」

「それでもNOAの技術レベルを推測するに足る素材ですよ」

「あぁ、それだけど…こんな廃棄物より、いい状態で手に入るかもしれないわよ」

「どういうことですか?」

「フフフ、楽しみにしていなさい、あなた達、研究者に退屈はさせないわ」


 保管室を出て、ユキの部屋へ向かうビクニ

(問題はコッチ側よね…)

 IDカードでユキの部屋へ入る。

 ベッドではユキが点滴をされ、眠っている。

「薬が効いているようね」

 ユキの手首を持ち上げてプラプラと軽く振ってみる。

 自然に眠っているわけではない、薬で強制的に意識を閉ざされているのだ。

「夜叉丸、ご主人様が心配?」

 ベッドの脇でビクニをいぶかしげな眼差しを向ける霊獣に話しかける。

 もちろん返事など期待してない。

「心配よね、あなたの息子ですものね、安心してね、大事に育てるわ、そういう約束ですものね、私が約束を破ったことはないでしょ」


 内線で医療班に繋ぎ、ユキを目覚めさせるように指示して、部屋を出る。

「そろそろ時間ね…お客様の相手をしなくちゃ」


 ロビーへ降りると、すでに来客は到着していた。

 武装された兵士が6名、来客を拘束している。

「ごめんなさいね、なんせね…わかるでしょ、一応、警戒しているのよ」

「理解はしています、本来、頼める立場じゃないことも…」

「悪気はないのよ、大事に扱うつもりよ…私はね…フフフ」

 ビクニが薄く笑う。

(扱う…か…モノ扱い、いやモルモットか…)

 マルティノ蟹座がギリッと歯ぎしりした。

「彼の世話も頼めるわよね」

 マルティノ蟹座が親指で後方を指す。

 そこには車いすに座らされた両足のないヴァリニャーノ射手座、今にもズリ落ちそうにグッタリとしている。

「あらあら、足が無いから斜めにしていると、車いすだと落ちちゃいそうね」

 ヴァリニャーノ射手座は意識を失い、すでに瀕死の状態だ。

 ビクニが無言で首を横にクイッと逸らした。

 ヴァリニャーノ射手座を兵士がエレベーターに押し込んだ。

「彼は、ウチの医療班に預けるわ…化学班も同行させるから、死ぬことはないわ…」

「安心してね…とでも言いたげね」

 マルティノ蟹座が嫌味に答える。

「フフフ…死ぬことはね…ないわよ、絶対に」

 クスッと笑ってビクニは言葉を続けた。

「アナタ達の姿を見れば、まぁ大体、何があったかは想像できるわ飼い主に噛みついて縄を千切って逃げてきたってとこかしら?」

「反論はしないわ、別に保護を求めているわけでもない」

「へぇー、何しに来たの? 危険を冒してまでARKの庭へ転がり込むなんて、ちょっと理解できないわ」

「モルモットになる気はない、ユキという少年に会わせてほしい」

「ユキに?」

ヴァリニャーノ射手座が私に言ったの…ユキに会えとね」

「何のために?」

「さぁ? そこまでは…」

「呆れたわね、なんだか解らないけどココに来たの? 『ミコト』に殺されるのも、ココで私に殺されるのも、そんなに違わないんじゃないの?」

「確かにね…でもヴァリニャーノ射手座は頼れと言ったわ」

「頼れ…ねぇ」

(ヴァリニャーノ射手座が…ユキを頼れですって…何が狙い?)

「いいわ…少し考えさせて頂戴、どのみち、『ミコト』が送り込んでくれた触手の化け物のおかげで、そのユキはよ、すぐには会わせられないわ」

「そう…ロヨラ獅子座も来たでしょ?」

「えぇ…死んだわ…迷惑よね、他人の庭に入り込んで、暴れて死ぬなんて」

(ホント、『ミコト』は飼い犬の躾も出来ないようね…相変わらず拾うだけで…成長しないのね)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る