第63話 唖反吐(A Head)

「それで、私の存在があるのよね…母さん」

ミコト』がニヤリと笑う。

「私の子宮から、取り出した子供の遺伝子情報から産み出されただけのクローンが大層な口をきくものね」

「クローン…ね、まぁそうなるのかもね…」

「母さんがNOAを去った理由がソレだものね」

「そのクローンが、今やNOAのトップとはね…恐れ入るわよ」

「さすがでしょ、母さんの遺伝子を継いでいるのだから当然といえば当然かな」


 ビクニも『ミコト』も、孤児院から適当な人材を選んでは、その戸籍を貰っている。

 その人物になりすまし、社会的に存在しているのだ。

 そして、NOAもARKも、ある一定のレベルに名を連ねている役員の大半は存在していない。

 その全てはビクニであり、『ミコト』なのである。

 多国籍企業とは名ばかり…その実は、彼女達の私物に過ぎない。


「で? 寂しくなったから…人の世を壊して、自分を愛してくれる世界を造りたくなったの?」

「さぁね…もう解らないわ…」

「母さんこそ、ただ『徐福』を追い求めて『妖魔』を狩り続けるの?」

「さぁね…もう解らないわね…」

(『徐福』が『妖魔』になったのなら…もしかしたら…もう一度、その生まれ変わりに逢えるのかも…そんな思いで『妖魔』を狩り始めて何百年経った?)

「ユキを返して頂戴…」

「惜しくなった?」

「ユキは、私と生きるの…まだ間に合う…不死の秘薬を私に頂戴、母さん」

「バカなことを…ユキは不老不死にはなれないわ」

「なれる」

「不死の私達は常に置いて行かれる側よ…ましてユキは…」

「霊獣を引き剥がしてみせるわ」

「無理よ…白虎は…ユキの」

「母親でしょ? 知ってるわ」

「そう…」


 ビクニの表情に陰りが見える。

 ユキの母親は、ARKに所属していた。

 もちろん封魔師として。

 父親ともARKで出会い、ユキを産んだ。

 それは、封魔師を引退すること…つまり自らを霊獣に喰わせることを意味している。

 ユキの父親は、母親を連れて逃げようとした。

 逃げても、意味などないことは知っているはずなのに…


「で…殺したのよねビクニ、ユキの両親は、このARKの役員に名を連ねている…多額の報酬を振り込んでいるのは罪滅ぼし?」

「そんな理由じゃないわ」

「恋人を殺されたユキの母親は、ビクニ…あなたを恨み、ユキを産んだ後、あなたに」

「そうよ、殺しに来たわ…白虎と獣化してね…」

 以前、妖魔相手に獣化したユキを見た時、ビクニの脳裏に、あの時の記憶が過った。

 恐怖したのだ。

「ユキを危険だと感じた…でしょ、あなたはユキを恐れているのよ…ビクニ」

 図星であった、ビクニはユキに恐怖を感じている。

「でもね…私は殺せない…」

「フフフ…そう、だからユキを私が引き取ってあげる」

「お断りよ、恐い者は身近に置いたほうがいいの、私、根は臆病だから」

「可哀想…」

ミコト』がユキに視線を移す。

 瀕死の重傷、意識は途切れているようだ。

 夜叉丸の赤い目が『ミコト』を睨む。

「嫌われてるのね…母親には…」

「過保護なのよ…死してなお」

「嫁姑の争いは仕方ないわ」

「呆れた…嫁の気分なの?」

「私以外、ユキを理解できないわ」

「あなた…恋したの? いよいよ呆れるわ…そして、その身の程知らずに虫唾が走る!!」

「ふん、昔の自分を棚に上げて…それとも忘れた? 徐福のことは」

「オマエがその名を口にするな!!」

「理解しなさい!! ビクニ、私は徐福の遺伝子を継いでいる!!」

「している…だからアナタが嫌いなの」


 スッとビクニが小太刀を抜く。

「ユキは返してもらうわ…私はそのために、わざわざ来たのよ」

ミコト』はスッと後ろに下がる。

 ビクニと『ミコト』の間に『ナタク』が入る。

「足止めなさい、ナタク」

ミコト』がニタッと笑った。

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