第16話 暗脚(アンギャ)

「メスキータが鹵獲された…」

 多国籍企業NOA《ノア》兵器・医薬品を主力部門におく大企業、その会議室ではデカンのメンバーが招集されていた。

アリエス牡羊座・マンショ』

 細身の女性でくせ毛のショートヘアを弄っている。

タウラス牡牛座・ミゲル』

 ガタイの良い大男2mを超す長身、血管が浮き出る太い腕を胸の前で組んで不機嫌そうに丸テーブルの正面で涼しげな顔をして座る『サジタリウス射手座・ヴァリニャーノ』を睨んでいる。

ジェミニ双子座・ジュリアン』何やら独り言のように呟いてはクスクスと笑っている。

キャンサー蟹座・マルティノ』がそれを楽しそうに眺めている。

レオ獅子座・ロヨラ』長い髪ともみあげ、タウラスとはまた違うタイプの巨漢で金色の髪は外側に跳ね、荒々しい風貌、席には腰掛けず、テーブルに背を向け窓の外を見ている。

スコーピオン蠍座・ドラード』小柄な女性だが大きな目には威圧的な力が宿る。

カプリコーン山羊座・ヌーノ』白髪の老人、その風貌は仙人のようだ、顔そのものが笑ったような造りで穏やかに微笑んでいるように見える。口火を切ったのはこのヌーノである。

「さて…もう一度言うが…メスキータがARKに鹵獲されたのじゃ」

「奴は偵察が任務だったはずだが…鹵獲ってのは少しおかしくないか?」

 背を向けたままロヨラが問いかける。

「奥歯に物を挟めないでよ、ハッキリ言ってくれない?何があったのよ?」

 マンショが興味無さそうな素振りで問う。

「ふむ…メスキータは確かに偵察が任務であった…いつものように、それが何故か…ヤツは駆除班に対し攻撃を仕掛け…結果、鹵獲されたのじゃ」

「何故か…ね…」

 ドラードがチラッとヴァリニャーノに視線を移した。

 ドンッ!!

 机を叩いて立ち上がったミゲルが声を荒げた。

「遠まわしな会話は止めろ!! ヴァリニャーノ、オマエから説明しろ!!」

 全員の視線が涼しげに笑っていたヴァリニャーノに向けられる。

「なんで僕が?」

「そりゃオマエ、オマエが手引きしたからじゃないのか?」

 ドラードが楽しそうに答えた。

「手引き? 僕がARKの駆除班に? 何で? 僕に得の無い話しだね…何の意味があって」

「ARKにじゃねぇ!! オマエ、デカン俺達の情報を公表しようとしてねぇか?」

 ミゲルがヴァリニャーノを睨みつけながら問いただす。

「公表? 世間にかい?」

 スーツの裾をスッと上げて自分の馬の足を見て笑うヴァリニャーノ。

「あまり見せたくはないな~」

 ヘラッと笑うヴァリニャーノ。

「よせ!! ミゲル」

 ヌーノが殴りかかろうとしたミゲルを制止した。

「今、大事なのは、死体になったとはいえ…ピスケスがARKの手中に落ちたという事実と…デカンの精製方法を知られるという結果…妖戒を我々NOAが如何様に活用しているかということを推測する機会与えてしまったという事実じゃ」

「何をしようとしているのさ…NOAは?」

 それまで独りでニタニタ喋っていたジュリアンが急に真面目な顔でヌーノに聞いた。

「ホホホ…NOAの目的は昔から変わっとらん…変わりゆく環境に左右されない進化した人類のみで構成された少数の世界…箱舟に乗せるための選民こそ、その使命」

デカン私達は、そのためのプロトタイプだったわね」

 ドラードがギリッと歯ぎしりして苛立ちを見せた。

「すべては『ミコト』の意思じゃよ…」

 ヌーノが苛立ちを、なだめるようにドラードに話す。

「そのミコトは?」

「この件に関しては関与しなくていいそうだよ」

 ヴァリニャーノが軽い口調で話す。

「貴様!! 何を吹きこんだ?」

 納得がいかないといって再び前のめりになったミゲルをロヨラが無言で制した。

「あくまで命の意思だよ…僕ごときが何を?」

 ヴァリニャーノはスッと席を立ち会議室を後にした。

(お姫様の人形遊びさ…全てはね…)

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