第15話 眠兎(ミント)

「じゃあ席に座って頂戴、アナタで最後だから」

 ビクニがユキを席に座らせる。

 だだっ広い会議室に、ケータリングが並んでいる。

「適当に摘まみながら聞いてくれて構わないわ、コレといって重要な話しでもないし、まぁ適当に知っておいてくれればいい…そんな程度の話しだから」

「そんな程度しか解ってないってことだよね」

 ケンがカップ蕎麦にお湯を注ぎながら話しの腰を折る。

「そうね…ホントそうなの」

 ビクニがプロジェクターを操作しながら話を進めた。

 画面には妖魔遺伝子が覚醒した『妖魔』が映し出されていた。

「各人、妖魔には幾度か遭遇しているはずだけど…」

 ビクニの話しが続く

 いわゆる『妖戒ヨウカイ』という異界の住人が多重結界の隙間から現れたのは平安時代、妖戒は、もともと次元の裂け目を横断できる生物らしい。

 それが別次元の知的生命体なのか、地球外惑星生命体なのか、まったく解っていない。

 妖戒は個体差が激しく、その容姿は個体別に大きく異なる。

 これは、生殖機能が人間とまったく異なるためだと推測されている。

 様々な生命体と交配が可能だが、その生命の繋ぎ方が人間とは根本的に異なる。

 妖戒は、基本的に不死の生命体である。

 身体が老朽化、いわゆる老いてくると別種族の卵巣に自らの遺伝情報を植え付ける。

雄型おすがた』と呼称される交配種は、妖魔遺伝子、通称『コア』を交配相手に植え付け絶命する。

 絶命とはいえ身体に限ったことで、事実上『コア』に己の記憶に至るまで完全に移植していると考えられる。

 多種族と交配することで交配相手の遺伝情報を自らのコアに写し再び覚醒すると、その容姿、記憶はそのまま、ゆっくりと覚醒していく。

 覚醒のタイミングは完全にランダムで、何世代に渡りコアを受け継いでいくことから、これを俗に先祖がえりと呼んでいる。

 完全な変異までおよそ72時間。

 覚醒開始から身体の変異、記憶の乗っ取りを行う72時間、この間にコアを抜き取ることができれば、妖魔化を抑えることが可能であるが、残念ながら変異した部位は腐食するため切断し生命を繋ぐだけとなる場合が多い。

 つまり、早ければ早いほど良いということになる。

 駆除班にコアを抜き取る能力を持つ者を配置するのはそのためである。

 妖魔化した人間を元に戻すことは不可能であり、妖魔はかつての同種族を捕食の対象とすることで個体数の増加を制御していると考えられている。

「つまり、人食いと化した妖魔は妖戒より性質が悪いってことだな」

 カイトがコーラを飲みながらユキの頭を軽くポンッと叩いた。

「そうね…ベースの妖戒に人間の遺伝子がプラスなのかマイナスなのかは解らないけれど、人食いになることだけは間違いのない事実よ」

 妖魔は元の妖戒の容姿を色濃く残す場合もあるが、人の特徴が前面に出る稀な個体も存在する。

「区別がつかない?」

 キリコがビクニに聞いた。

「そうね…まったく人と同じとはいかないまでも、カモフラージュする個体はいたわ…厄介なケースね」

「知的生命体にも個体差はあるってことだね…能ある鷹は爪隠すってヤツさ」

 ケンが蕎麦をすすりながら自分のパソコンの画面をキリこに見せた。

「コレが…」

「あぁ…駆除した後だけどさ…ほとんど人だろ、服着て歩いてたらさ」

「どうやって見つけたの?」

 ビクニがチラッとユキを見た。

「探すの…それを可能にするのが霊獣を使役できるユキのような能力者なのよ」

 霊獣にはコアを嗅ぎ当てる能力があるらしい。

 コアの位置も個体差があり、脳だったり生殖器だったりするらしい。

 正確に抜き取るにはコアの位置まで嗅ぎ分ける霊獣が適任ということらしい。


「どう…自分がココに連れて来られたわけが少しは理解できたかしら?」

 ビクニが僕に笑いかけた。

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