第14話 脳夢(ノウム)

 メスキータの遺体は回収班に任せ、ビクニ達はヘリで京都へ戻っていた。

「改めて入ってみると…ココが魔都だと再認識するわね」

 ビクニがヘリから街を見下ろして誰にというわけでも無く口を開いた。

 島からココまで15分ほど、誰も口を開かなかったのだ。

「結界は生きているからね」

 ケンがソレに応えた。

「結界ね…本末転倒よね…呪詛から身を護るために張り巡らせた結界、多重結界が異空間のドアを開いて妖戒を侵入させるなんてね」

「ビクニさん…妖戒って何なんですか?」

 ユキがビクニに尋ねた。

「そうね…メスキータの遺体もコチラ側に来たわけだし…明日にでも、話すわ…そういう時期なのかもしれないわね」

 ヘリがビルの屋上に着陸した。

「降りて…各自、今日は身体を休めなさい、明日夕食の時に、妖戒のことについて私…いえARKアークが持ち得る情報を話すわ、デカンについては、1週間もすればメスキータの遺体から情報が得られるでしょうから、まずは妖戒のことから知ってもらうわ…妖魔遺伝子のこともね」

「駆除班として知っておいてもいいレベルでか?」

 カイトがビクニに背を向けたまま嫌味混じりに聞いた。

「……いえ…言ったはずよ、ARKの知る限りの情報を話すわ」

「そうかい…」

 カイトは一言応えて、刀を携えて誰より早くドアの向こうへ歩いて行った。

「アタシも今日は寝るわ…銃火器はどうなるのかしら?」

「回収班、清掃班が可能な限り回収してるはずよ」

「アタシの着替えもか?」

 キリコの軽口にビクニがクスッと笑い

「フッ…原型を留めていれば回収するんじゃない…返ってこないかもしれないわね」

「女の回収班員に拾われることを願うことにするわ、おやすみ」

 キリコが軽くユキに手を振って部屋に戻った。

 ドアが閉まる直前、ユキに

「アンタみたいな回収班員に拾われないといいんだけどね」

「バカか!! 下着なんか興味ありませんから」

「中身の方に興味はあってもか?」

「寝てくださいよ!!」

「はいはい…じゃあね」

「なんなんだよアイツは…」

 ユキが小声で愚痴るとケンが不思議そうな顔でユキに聞いた

「ホントにパンティとか興味ない? 僕なら欲しいかもだけど…欲しくないの?」

「オマエもバカか?」

「そうかな~? 僕の方がオカシイのか? まぁいいや…僕も寝よ」

 ケンがドアに向かうとビクニが

「ケン、データは…」

「解ってるよ、コイツごと回しとくよ」

 ノートパソコンを軽く振ってケンも部屋へ戻った。

「ユキ…ひとつだけ聞きたいわ」

「なに?」

「アンタ…メスキータを捕獲しようとは思わなかった?」

「さぁ…そんな簡単な相手じゃなかったから…必死だったんだ」

「……そう…そうね」

「寝るよ、僕も…」

「早いけど…眠りなさい…今日は、ベッド久しぶりでしょ」

「そうだね…おやすみ」

「食事、必要なら運ばせるから4階に頼みなさいね」

「はい…」


 ユキは部屋へ戻った。

 まだ昼前、とにかく疲れた。

 昨夜、早めの夕食後それ以来、何も食べてないのに空腹は感じない。

 部屋に戻るとブルッと身体が震えた。

 恐かったのか…いや恐怖は感じなかった。

 どちらかと言えば…歓喜とも思える心地よい緊張感に包まれている

 満足感…高揚感…充実感…

 何に対する?

 メスキータを殺したこと?


 少し眠って、シャワーを浴びた。

 部屋の電話から4階の食堂へ電話してジェノベーゼとサンドイッチを頼んだ。

 コーラで流し込むように食べて、もう一度眠った。

(いい夢が見られそうだ…)


 眠る前に右手を天上へかざしてギュッと強く握ってみた。

「僕は強い…」

 ヴァリニャーノにも今なら負ける気はしない。

(早く…馬野郎に…)


 気付けばニヤニヤと笑っていた。

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