第13話 夜射蛇(ヨイタ)
夜叉丸に加減はない。
なまじ制御できないから全力で敵と認識した者へ襲い掛かる。
具現化した夜叉丸は宙へは浮かべなくなるが、その跳躍力は15mを超え、爪のひと裂きは巨木を斬り倒す。
具現化は夜叉丸の身体能力を飛躍的に向上させるのだ。
「ちっ!! ヴァリニャーノから聞いてた話しと大分違うぜ…簡単にねじ伏せられるような獣じゃねぇ!!」
メスキータの皮膚を覆う体毛が辛うじて夜叉丸の爪を防いでいるものの、完全に力負けしている。
(このままじゃ…)
「ほほぅ、やるじゃねぇのユキもよ」
カイトが傷口を擦りながら感心している。
「アタシの指導の賜物よ」
再びビクニが口を出す。
(当然よ…早いトコ霊獣を使いこなしてもらわないとね…アタシのために)
軽口とは裏腹に心では、強かに微笑んでいるビクニ。
夜叉丸はメスキータのウロコのような硬質体毛によって血を流しているが、気にする様子も無い。
「狂獣…」
その姿に寒気を覚えたキリコがボソリと呟き身震いした。
直接戦力になれないケンは少し離れた場所から興味深そうに眺めている。
「あれが
ケンはとりあえず可能な限りのデータ収集に勤しんでいる。
ブツブツ言いながらも仕事は熟す優秀なバックアップではある。
「えぇーい!! 冗談じゃない!! この犬っころがー!!」
メスキータは完全に逃げに入っていた。
だが、夜叉丸の猛攻と、逃走を許さないキリコの援護射撃、カイトとビクニが逃走経路を塞ぐように追撃しているため、なかなか思う様に隙を付けない。
(クソッ…クソッ…話が違うじゃねぇか…ヴァリニャーノの野郎!!)
「小僧をさらっちまえば、一挙両得じゃないのか、偵察しかできないなんて誰にも言われなくなるさ…メスキータ、クククク…」
ヴァリニャーノが任務の前に話しかけてきた、その言葉に踊らされたのか!!
「クソッがーーー!!」
メスキータが夜叉丸を思いっきり殴りつけた。
横っ面を殴られた夜叉丸の口から血が飛び散る。
「今よ!!」
ビクニの掛け声でキリコがメスキータの顔面目掛けて乱射する。
先ほどと違い、AP弾(貫通力を高めた弾丸)を使用しているため、弾かれずに皮膚に刺さるように喰い込んでいく。
「グアッ!!」
顔を押さえて仰け反ったメスキータの開いた身体にカイトの日本刀が突き刺さる。
「上体が反れば、ウロコも開くわな~」
そのまま日本刀の柄尻を足で押し込んで、貫通させ地面に串刺しにする。
「仕上げよ…」
腕の内側、足の裏側、体毛が薄い部分をビクニが小太刀で滅茶苦茶に斬りつける。ズタズタになった手足がダラリと垂れ下がる。
左目をAP弾で貫かれたメスキータの右目が映したもの…
大きく口を開いた夜叉丸の姿、地面に串刺された身体、上がらぬ手足
(終わりか…)
メスキータの頭を夜叉丸が噛み砕いた。
(殺した…?)
ビクニが怪訝そうな顔でユキを見ている。
ユキは笑っていた。
(あの子の本性だとは思いたくないわね…雌型を宿したことによる影響だと信じたいけど…)
夜叉丸を霊体化して戻したユキの姿。
華奢な身体、だが、その顔は血の海で嗤う悪魔のようだとキリコは再び身震いした。
(どっちなんだろうな…夜叉丸が怖いのか?それともガキのほうか…俺はどちらに恐怖しているんだ?)
カイトはメスキータに刺さった日本刀を引き抜き、一振りして血を払い深く深呼吸して自分の恐怖を振り払おうとしていた。
チンッと涼しげな音を立てて納刀してユキに背を向けた。
メスキータの死体を中心に皆、無言のまま、カタカタとケンの叩くキーボードの音だけが森林に響いていた。
迎えのヘリが到着したのは、メスキータの死、それから20分後の事であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます