第12話 月紅(ゲッコウ)

「自己紹介はいらないようだね」

「あぁ…必要ない、ココで始末されるヤツの名前なんかどうでもいい!!」

 カイトが一気にメスキータとの間合いを詰める。

 居合一閃!!

 右切上、カイトの日本刀はメスキータの右拳で止められた。

「ギィンって…鎧でも着こんでるのかよ」

「いや…裸だよ」

「硬い皮膚だなって…冗談だろ?」

「硬いのは皮膚じゃない…ウロコだ!!」

 メスキータの左裏拳がカイトを吹き飛ばした。

「なるほど…」

 ビクニが頷く。

 裂けたウェットスーツから銀色に光る腕が覗いている。

「体毛の全てが細かなウロコなのさ…強度は、ご覧のとおり」

 メスキータが頬を抑えて睨んでいるカイトを嬉しそうに指さす。

 カイトは頬から出血している。

 傷口はノコギリで裂かれたようにグチャグチャになっていた。

「クソ野郎が…」

 頬を抑えながら、ヨロヨロと立ち上がるカイト。

「体毛が硬質化したウロコ…攻防に使えるってことね」

 ビクニが小太刀を構えながら考えている。

「銃も弾くとは…面倒くさい…というか毛深いのね」

 キリコも銃口をメスキータに向けたまま攻め倦んでいる。

「手詰まりのようだね…さすがのアークの特殊部隊もさ」

 メスキータが楽しそうに笑みを浮かべる。

「フフフハハハ…遺伝子を弄り回されて、人を捨てた僕達と、まともに戦えるわけないだろう?」

「無駄飯喰らいのデカン、長時間の単独行動はできない…か…」

 蚊帳の外で傍観していたユキがボソリと呟く。

「ん?…何か言ったか?」

「なんで人の身体に馬の足をくっ付けることが出来るのに、腹が減るくらいのことをクリアに出来ないんだろう…今、解った、お前等は時間制限を設けられることで視えない首輪をハメられているんだろ?」

「首輪?だと」

「あぁ、行動時間内に戻らなければどうなるんだ?」

「さぁな…戻れなかったことはないんでね」

「瓦解でもするんじゃないのか?」

「なに?」

「お前等はヨウカイに対しての絶対の戦力であり、敵対する僕達への抑止力でもあるが、諸刃の剣だよな…自分達が企業機密の塊なんだから、だから単独行動しかしない、それは大量に失うわけにはいかないから…そして、捕獲されるわけにはいかないから」

「時限爆弾でも仕込まれてるってか?」

「さあね…今は解らない…」

「今は?」

「じきに解る」

「どういうことだ?」

「オマエを捕獲するぞサカナ野郎」

「あん?」

 メスキータの顔から笑みが消えた。

 ウェットスーツから硬質化したくろがねのような体毛が突き出している。

「ホントにデカンって趣味が悪い…」

 キリコが毒づく。

「同感ね…毛深い男は好みじゃないわ」

 ビクニがウンザリといった表情で応える。

「俺を捕獲する気か?」

「魚獲りには自信がついたんだ、この数日間でね」

「オマエの能力を視ることが目的だったんだが…まぁあわよくば、連れ去ろうかと…もういい…死体で運ぶことにしたよガキ」

「そのガキに捕まるんだオマエは!!」

「銃も剣も効かない俺をどうやって?」

 ニタッと馬鹿にしたようにメスキータは笑った。

「僕のじゅうは特別製なんだ!! 夜叉丸!!」

 ユキの前に立ちふさがる様に白い獣が現れる。

「それが御自慢の霊獣ってやつか…主人に似て凶悪そうな面構えだな、当然か…オマエが育てたようなもんだろうしな…」

「僕が育てた?」

「ん? オマエ何も知らないのか?」

 メスキータが意外そうな顔でユキを見ている。

「おしゃべりはそこまで!! ユキ、殺れるならヤッてしまいなさい!!」

 ビクニが会話を遮るように怒鳴る。

「殺る気はないですけど…夜叉丸行け!!」

 白い獣が解き放たれた。

「霊獣が相手か…面倒だな…」

 具現化した霊獣は視える人には視える、その代わり物理的な接触も可能となる。

 以前は一瞬しか具現化出来なかったユキだが…

「少しづつ具現化をコントロールできるようになっているのよ、アタシのおかげで」

 ビクニがケンに自慢げに話す。

「あぁ…スパルタ式の放任主義が功を奏したっていう稀有な例だろ?」

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