第11話 煙眼(エンガン)

「アタシじゃ…ないわよ…」

 厨房で電話を受けていたビクニ。

 電話の相手はキリコである。

 キリコは電話を切ると、すぐに銃器を携えて部屋を飛び出した。

 着替えているヒマはない。

 タンクトップに薄いブルーのシンプルなボクサーパンツのままホテルの廊下を走る。

 1フロア下の部屋まで階段を駆け下りると、エレベーター前でケンと鉢合わせる。

「バカ!! エレベーターなんか使うな!!」

 ケンの首根っこを引っ張って外へと急ぐ。


 ロビーで厨房から出てきたビクニと合流して3人は外へ飛び出した。


「何も起きないわね…」

 ビクニが怪訝そうな表情で呟いた。

「そうね…正直、銃弾の雨を覚悟していたんだけど」

 キリコも妙だと感じているようだ。


 最初の爆発が敵襲だとして…その後何も無いなんてことは無い。

 仕留めるほどの爆発ではない、当然、立て籠もらせないために外へ追い出すための爆発、そう考えるのが普通だ。

 待ち伏せが無いなんて在り得ないのだ。

「考えられることは?」

 ケンが首を傾げながらビクニの顔を見る。

「敵は少数…というか単独ということよ」

「デカン!?」

 キリコが愛用のグロッグ17、グリップを握る手に力が込められる。

「ケン、何か解らないの?」

 ビクニがケンのノートパソコンを指でカンカンッと弾く。

「あのね…何かって何だよ?」

「アンタ、バックアップなんだから情報くらい取りに動きなさいよ」

「なんの情報だよ…」

 ノートパソコンを開いて、カタカタッとキーボードを叩いて首を傾げるケン。

「ダメだ…繋がんないや…電波妨害だね、当然と言えば当然だけど」

「役に立たないってことね」

 ビクニが溜息を漏らす。

「ホント…助けて損した気分」

 キリコも冷ややかな視線をケンに向ける。

「なんだよ…しょうがないだろ!! だけどさ、僕達の信号を本部だってロストしてるんだからさ、何らかの救援はあるさ…きっと」

「相手の出方が解らないし…まずはユキ達と合流しないとね」

「合流って…案外、アッチが本命ってことはないの?」

 ケンがキリコの顔を繁々と見ている。

 互いに顔を見合わせて黙っているキリコとケン。

「まぁ、とりあえず…ユキの野宿先へ移動しましょうか」

 キリコが先頭に立って3人は移動し始めた。


「よう…どう思う?」

「何がですか?」

「何がってオマエ、ホテルに戻った方がいいか、ココで様子を見た方がいいか?」

「僕に聞かれても…カイトさんの方が経験豊富なんじゃないですか?」

「ホテルを爆破された経験はねェよ…いくらなんでもよ」

「案外、頼りにならないんですね」

「うっせェよ!! こうしよう、ジャンケンで俺が勝ったら移動、オマエが勝ったら様子見だ…いくぜ、ジャンケン」


 5人が合流したのは、それから30分後であった。

「呆れた…ジャンケンで行動決めたの?」

 キリコがバカを見る目でカイトを見ている。

「俺が勝ったから、早く合流出来たんじゃねェか!!」

「バカはジャンケン強いよね」

 ケンもカイトをバカにしている。

「バカバカうるせェんだよ!!」

「そうよ、パソコン持ってても、何の役にも立たない後方支援係り、よりマシよ」

 キリコがケンをジロッと睨む。


「仲の悪いチームだね~どうも…」

 草むらからウェットスーツの小男が姿を現した。

 ガンッガンッガンッ!!

 ギィーン…

 金属音が林に響く。

 キリコが放った銃弾が小男の身体で弾かれた。

「チッ!!」

 舌打ちするキリコ

「ホホッ…あぶねぇな…振り向きざまにぶっ放すとはね…恐いわ」

 両手を交差させて頭部と胸を守った小男がニヤッと笑う。


「キリコ…キリコ」

 ケンが嬉しそうにキリコに話しかける。

「なによ、今、忙しくなりそうな雰囲気でしょ!!」

「アイツはさ、ピスケス・メスキータだよ、ほらっ」

 ノートパソコンに小男のデータが表示される。

「役に立ったつもり?」

「大したデータはないけどさ…それは僕のせいじゃないからさ」

(ピスケス…うお座…魚かよ…馬やら魚やら…味方も敵も、バカばっかかよ)

 ユキは心で舌打ちした。

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