第18話 快疑(カイギ)
「ビクニさん…聞いてもいいですか?」
ユキが焼きそばを箸で、かき回しながら口を開いた。
視線は伏せたまま、だが、その言葉は『答えてもらいますよ』という語気を含んでいた。
「なにかしら?」
ビクニの返答を待ってユキは顔を上げ、ビクニを睨むように見た。
「オス型ということは…メス型もあるということでしょうか?」
ケンがチラッとビクニの方を見る、ビクニは能面のように眉ひとつ動かさないままスッと息を静かに吸い込んで
「あるわ」
一言だけ答えた。
「メス型とは、どういうモノなんでしょうか?」
ビクニは目を閉じて、少し考え説明を始めた。
彼らのいう交配とは口から自らの情報を持った2cm程度の蟲のような幼体を移す行為を指す。
幼体(コア)を失った肉体は数時間で瓦解する。
幼体は口内から異種族の生殖器へ移動し、ソコで遺伝情報を採取すると考えられている。
人間のメスが生殖を繰り返し、男性の精子から遺伝子情報を採取した幼体は、胎児に寄生しメスから離れる。
胎児の成長に伴い、様々な情報を学習し、やがて幼体は宿主の乗っ取りを開始する、これが『妖魔化』である。
妖魔化のタイミングはランダムで、何世代も宿主を変える場合も珍しくない。
「人間のメス…つまり女性の子宮に寄生しているということは…」
ユキが言いかけた途中でビクニが答えた。
「そう、寄生された胎児は、ほぼすべて女性になる」
カイトが口を挟んだ
「へぇ~、じゃあ、一生処女で寄生されたまま死んでいく幼体もいるのかい?」
「まず、いないわね…寄生された女性は男を求めるから…」
「淫乱になる? そもそも最初の交配相手の女性が醜かったら?」
やれやれと言った顔のビクニ
「歴史も含めて…説明するわ」
結界の隙間から現れた妖戒は、人を学んでいた。
食人が目的では無かったということだ。
彼らは本能で動く動物ではない。
知的生命体なのだ。
自らを進化させること…
「進化?」
ユキが首を傾げる
「アナタ…妖魔が単純に人間を捕食するだけだと思ってたでしょ」
「……違うんですね」
妖戒は更なる進化のために多種族を摂り込んでいると考えていい。
それまでも…これからもそうやって生き続ける。
繁殖という繁栄方法を取る地球上の生物とは違う、カンブリア紀の生物のように多様性を模索しながら、個体を強化、進化させることを選択した生物。
そして…個体数を増やさないことで種の本能を満たし続ける。
「種の本能…」
呟いたキリコが、たこ焼きを床に落とした。
「ワガママなのさ」
蕎麦の汁を飲み干したケンがチャラけたように答える。
「フフ…そうね、自らの欲望に忠実なのかもしれないわね…」
ビクニの表情が和らいだ。
妖戒の姿は個体差が激しく、おおよそ同じ種には思えない。
個々に摂り込み、反映させる箇所が違うから、同じようには進化しない。
彼らは事実上の不死である。
しかし不老ではない。
個体としての限界は老化により活動を止めることを指すが、身体を変えることで遺伝子情報を移ことで生きながらえる不死ともいえる。
記憶はそのままに別の生物に生まれ変わると言ったほうが理解しやすい。
「妖魔の発生が日本に集中しているのは、京都という多重結界都市、妖戒を招いた国だからよ…ユキ」
「外国にはいないのか…」
「いないわけではないわ、圧倒的に数が少ないだけ」
「まだメス型の話は聞いてないですが」
「解っているわ…」
「ついでに…妖戒は、どこから来たんですか?」
「そうね…推測でよければ話すわよ」
ビクニの表情に影が差したように思えた。
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