第25話 雨勘(ウカン)
「NOAはデカンを産み出す為に妖魔を鹵獲している?」
激しい雨が窓に叩きつけられ雨粒が弾ける朝。
強化ガラス越しでは、その音は聴こえない。
ユキは自室で朝食を食べながら考えていた。
僕は…いずれ人を食うのか?
目の前のベーコンが急に気持ち悪く思える。
ベッドの脇には身体を丸めて眠る『夜叉丸』
僕が受け継いだ『力』
不可視でありながら、具現化すれば妖魔すら容易く殺せる『力』
そして質量を自在に消せる獣。
それは相応の霊力がある者にしか視えず、具現化すれば物質に関渉できる…つまり不可視のままでも人を殺せる。
通りすがりでも…
自分の半径10m程度で自由な意思を持ち、自分の感情によってその性質を変える。
こうして見ていると、大きな犬にしか見えないのだが…
気のせいか…以前より性格が凶悪になったようにも思える。
デカンの顔面をかみ砕いた瞬間、この獣は笑ったように視えた…
ビクニの話では、それは僕の性質に左右されること…
つまり、僕はあのとき、笑ったのだ。
デカンを…ピスケスを食ったから?
夜叉丸は、確かにあの魚野郎を食った。
吐きださずに飲みこんだ、その感覚が僕にはあった。
胃と言うより、何か本能が満たされたような…そんな感覚が僕にはあった。
夜叉丸をコントロールできるようになればなるほど、夜叉丸の感覚が僕に流れ込んでくる、そんな気がする。
痛みは感じない、夜叉丸が攻撃を受けるとなぜか怒りが込み上げてくる。
その怒りに夜叉丸が呼応するように凶暴さが増していく…そんな感覚が僕にはある。
そして…デカンを食った、その瞬間、僕はナニカに満たされた。
部屋の電話が鳴る。
「ユキ…第3会議室へ来なさい、魚の解析結果を話すわ」
ビクニからの呼び出しだった。
会議室へ入ると、カイトが軽く手を上げた。
「揃ったわね」
モニターには、何やらグラフやら、数値がゴチャゴチャと並んでいる。
「モニターは観なくてもいいわ…ケンが理解できていれば、問題ないから、カイト、キリコ、ユキは、私の話だけ聞いていなさい」
クルッと椅子を返して、ケンがカイトの方に振り返る。
「バカには必要ないデータだということさ」
「テメェ…」
「怒らないでよカイト…事実なんだから」
鼻から観る気はないとばかりにキリコが机に脚を投げ出したままカイトをなだめる。
「ねぇユキ」
そして僕に同意を求める。
「そうだね…理解できそうにないのは事実だね」
「そういうことじゃねぇだろ!!」
カイトは腑に落ちないといった顔でキリコの顔を見る。
「いいの…アナタ達には、別の事を学んでもらうのだから」
ビクニは僕を席に座るよう目で促して、説明を始めた。
「最初に言っておくわ…先の戦いで解ったこと、デカンには現状の武器は大して役に立たないということ」
ピクッとカイトの目尻が動いた。
「それは!!」
「事実よ認めなさい!!」
ビクニがキツイ口調でカイトの言葉を制した。
「順序が変わるけど…いいわ、カイト、あなたには『村雨』を、キリコには『コルトパイソンカスタム』を所持してもらうわ」
「カスタム?」
キリコがビクニに聞き返す
「そう、アナタに合わせて調整されたカスタムリボルバーよ、ベースにはパイソンを使用しているけど、その材質はヒヒイロカネ製、弾丸もアダマンタイトの特注よ」
「ヒヒイロカネ?アダマンタイト?そんなモノが本当に実在するんですか?」
ユキがビクニに尋ねた。
「極希少なだけでなく、精製方法も公にはしてないけど…神具というモノは存在しているわ、もちろん、この地球上には無かった金属…後で説明するけど『フロフキ』を呼ばれる植物も、ダレカがこの星に持ち込んだ異物よ、ある程度の量ならARKも保持しているし、先の金属については精製方法も解析済みなのよ」
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