第31話 鬼得(キエ)

 カイトが複雑な表情で、妖魔を貪り食うユキに視線を戻す。

「そもそも、どうやったら戻るんだよ?」

「知らないわ…どうやったらなれるかも解らないんだもの…戻り方なんて…ユキ本人も解らないんじゃない」

「他人事みたいに…」

「アンタ達、さっきの妖魔に圧されてたじゃない…神具まで持ち出して」

「グッ…」

 思わず口籠るカイトとキリコ

「なんでだと思う?」

「それは…私達がまだコイツを使いこなせないから…」

 キリコが口を押さえながら答える。

「それもあるんだろうけど…単純に、あの妖魔が強いからよ」

「個体差はあるんだろ?」

「そうね…でも、アレは特別よ、今まであんな妖魔と出会ったことないわ」

「まぁ…妖魔相手に苦戦とか…無かったけどな…」

 カイトが苦虫を噛み潰したような顔で答える。

「アレは…今までの妖魔じゃないわ」

「NOA…か?」

 それまでユキを観察するように見ていたケンが何かに気づいたようだ。

「おそらく…としか言えないけど、アレは何かおかしい、妖魔にあんな治癒力なんて無かった、あの治癒力…まるで…」

「デカン…」

 カイトが呟いた。

「そう…腕を吹っ飛ばされても、数日で生やして戻ってくる…あの連中のソレに近い」

「あの甲羅だって、デカン同様、甲殻類の遺伝子を組み込んだのだとしたらってことだよね」

 ケンがニヤッと笑う。

「妖魔を捕獲してデカンを造り、デカンによって得られたデータを妖魔に組み込む…子供の発想ね」

 ビクニがフッと笑う。

「笑ってる場合じゃねぇ…見ろ…ユキのヤツ、食事を終えたようだぜ」

 カイトが親指でユキを指す。

「あの子には…食事のマナーを教える必要があるわね…あまりに汚いわ」

「あぁ…アイツが聞く耳持ってりゃな」

「あら…耳は無駄に大きくなってるんだもの…聞こえてはいるでしょ」

「聴こえてても…聞いちゃいないと思うわ…」

 キリコがリボルバーを抜く。

「マジかよ…」

 カイトがキリコに冗談だよなというニュアンスで問いかけた。

「大マジよ…あの姿…妖魔でもデカンでもない…アレは紛れもないヒトが産んだ負の遺産そのもの…」

 ユキの姿は、美しくもあるが…どこか禍々しく、畏れを抱かせる。

 そう見る者の不安を掻き立てるのだ。


 神獣と化したユキが小首を傾げる。

 それは、目の前の人間を観察するようでもあった。

 赤い瞳が、じっとビクニ達をみつめる…

「ユキ…解るよな?」

 カイトが小声で話しかける。

「ガゥ…ガルル…」

 ユキが小さな唸り声を上げる。


「会話にならないわ」

 ビクニがスラッと両の腰に携えた小太刀を構えた。

「やるしかないのかよ…」

 カイトが再び村雨の柄に手を掛けた。

 やや左前のめりに構える、飛び込んで居合で仕留める気だ。

 3人のフォーメーションは、すでに出来ている。

 キリコが相手の手足を撃ち抜き、ビクニが小太刀でズタズタに斬り刻む…動きを止めた相手をカイトが居合で仕留める。

 3人はユキが入る前に、この連携で何体かの妖魔を仕留めてきた。

 人食いをおこなった妖魔を…あまりに無慈悲な連携。


 3人は各々が自然と構えている。

 暗黙で…ユキを仕留めに掛かっているのだ。


 キリコの銃声が合図になる…。

 その時を静かに待っているカイト。

(斬れるか…俺に?)

 心はざわつく。


 ユキが静かに近づく。

 波の音に合わせるように、砂浜をズシャ…ズシャ…と歩み寄ってくる。

(冗談だろ…)

 ケンが固唾をのんでキリコを見ている。

(撃つなよ…撃てば終わりだ…終わる? どっちが?)


『グゥオオオオオオァオオァアアー』

 ユキが月に咆哮をあげた!!

 それが引き鉄トリガーのように

 ダンッ…ダンッ…ダンッ…!!

 キリコがユキに発砲してしまった。


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