第32話 恩軽(オンケイ)
キリコの銃弾はユキの左足に2発HITした。
グラッとユキの上半身が傾く。
ビクニが砂浜を蹴って飛び出す。
「クソッタレ!!」
カイトが姿勢をさらに前へ倒す。
「ハァァァアー」
ビクニが高く飛び上がり、ユキに両手の小太刀を振り回す。
乱舞…
壊れた機械人形が狂ったように踊る。
型なんて無視した狂気の刃がユキを切り刻む、血しぶきが砂浜を黒く染めていく…
「アァァァァーハァ!!」
ビクニがユキの両肩に小太刀を突き立てる。
その瞬間、カイトが全力で走り込み、勢いを殺さないまま村雨を抜き一閃!!
チンッ…
静寂が戻った刹那、カイトの村雨が涼やかな鍔鳴りを響かせた。
(殺った…)
ケンがギリッと歯ぎしりする。
ドシャッ…
砂浜にユキが膝を付き倒れる。
「ケン!! ヘリを要請、救護班を同上させなさい!!」
ビクニがケンに怒鳴るように指示をだす。
「あぁ…あ…了解」
ケンが慌ててタブレットを操作する。
キリコが砂浜に膝を付いていた。
(やっちまった…)
そう、撃鉄を起こしたのはキリコ…
(身体が動いちまった…)
ゆっくり近づいてきたカイトがキリコの肩をポンッと叩いた。
言葉こそ掛けなかったが、その顔は
(オマエが悪いんじゃない)
そう言っていた。
ズリッ…
砂が擦れる音がした。
まさか…全員が倒れたユキの方を見た。
そこに立っているのは夜叉丸、息も荒々しく、それでも、その赤い目は光失わず、凛と立っている。
その脇に、もとの姿に戻ったユキ。
砂浜にうつぶせたまま動かない。
「生きてる」
ビクニが呟く、信じられないといった表情でユキを見ている。
「夜叉丸が見えるということは…ユキはまだ生きている、夜叉丸はユキを護っている…」
「護っている? 誰から?」
言い終わらないうちにカイトは悟った。
(俺達から…だよな…)
夜叉丸はユキの前にヨロヨロと歩き出す。
大分弱っているのは、ユキのダメージが反映されているからだろう。
以前から、ある程度のシンクロはあったが、神化したことで共有というレベルまで反映されるようになったのだろう。
ケンが冷静に分析している。
仮説を思いつくまま打ち込んでいる、立証は後でいい、今は見たまま、思ったままを記録している。
夜叉丸は自らビクニ達に牙を向けることは無かった。
ただ静かにコチラを観察しているようだった。
敵なのか…それとも…
ソレを値踏みしているような、そんな感じに見えた。
(観察されているのは、僕達の方なのかもな…)
ケンは夜叉丸の赤い目に、心を見透かされているような、そんな気分になった。
傷ついた手負いの獣、その主は瀕死の重傷で意識はない…
もし、夜叉丸が無傷であったなら?
襲われているのだろうか…
それとも…
そんな緊迫と静寂が、とても長く感じた。
海の向こうからヘリが近づいてくる。
ローター音は、ほぼ無音のために波のさざめきの変化がソレを知らせる。
ヘリから降りた救護班に気付いた夜叉丸が姿を消す。
ユキが搬送されていく。
ビクニ達はやや遅れて着いたヘリで戻った。
ユキは集中治療室に運ばれていた。
「命は助かるのね?」
ビクニは医師に当然だろ?といったニュアンスで尋ねた。
「えぇ…アレを使用しました、事後報告になって申し訳ありません」
「構わないわ…」
ビクニと医師の前には、白いカプセル。
中にはエメラルドグリーンの溶液に浸されたユキ、その身体には数本のチューブと電極が刺さっている。
「欠損部分も、コレなら1週間もせずに回復しますよ」
「そうね…ですって、夜叉丸…ご主人様は助かるわよ」
「はっ?」
「ふふふ…気にしないで、躾の悪い犬がいてね…」
「犬ですか?」
「えぇ…次に会う時は犬じゃないかもね」
「……まぁ、ユキさんのことはお任せください」
「えぇ…お願いするわね」
カプセルの脇で丸まり眠る夜叉丸の目が薄く開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます