第33話 紅娑(コウサ)

 ユキが抜けた間に、ビクニ達は妖魔を2体狩った。

 あの夜の妖魔のような苦戦も無く、ある意味ではスムーズといえるミッションではあった。

「普通の妖魔なら手間取ることはネェ…」

 カイトの言葉はどこか不服の香りを匂わせていた。

「あぁ…そうだね」

 キリコも今一つ物足りないといった顔だ。

 別に妖魔狩りに物足りなさを感じているわけではない。

 元は人だと思えば、複雑な思いも抱く。

 それも…ただコアが覚醒しただけで、それまで普通に生きてきたはずの人なのだ。

 それを撃つ、斬る…殺す。

 愉悦で狩れるはずもない。

 彼らには家族もいるだろう…自分達と違って…


 カイト、キリコそしてケン、彼らには家族はいない。

 産まれた時から孤児院で育った。

 ARKが関与している孤児院、もちろんARKはただの慈善事業をしているわけではない。

 孤児院では、その資質に応じて特別な教育を受ける。

 霊力が高ければ、カイトやキリコのように裏で働くこともある。

 ケンのようにバックアップに就く者もいるし、医師免許などなくても、それ以上の知識を得てARKで働く者もいる。

 すべては非合法の裏方である。

 カイト曰く

「孤児院からARKに住むところが変わっただけ…飼われていることに何ら変わりはない」

 結局は日陰でしか生きていけないということだろう。

 今さら、普通に社会に馴染むことはできない。

 長生きなど望めない。

「死ぬときは妖魔に喰われるか…ARKに消されるか…」

 社会的には、すでに彼らは死んでいる。

 ARKに拾われたその日に死亡しているのだ。

 死んでも何ら問題は無い。

 代わりも孤児院で育成中なわけで、誰かが死ねば補充されるだけ…

 カイトだって、キリコだって、その誰かの代わりにすぎない。


 妖魔を狩るから…それが特別な事だから、ココでの存在価値がある。

 それが、誰にでも出来ることであれば、自分の価値など皆無なのだ。


 霊力がない孤児たちは、ヘリの操縦や、その他の業務に従事する。

 彼らには戸籍があり、普通に生活もできる。

 守秘義務はあるものの、それを時折、羨ましいとも思う。


 望んで兵士になる者もいる。

 人の選択など様々だ…

 だけど自分は選べなかった、ソレだけ。


 だからユキのことが少し気になる。

 封魔師は貴重な存在だ。

 ビクニがユキをアッサリと斬ったわけが解らない。

 自分達と違って替えの効かない駒のはず、手に負えないと判断すればユキですら始末させるのか…

 結果、生きていたというだけだ…

 少なくても自分は殺す気で村雨を抜いた。

 そんな自分に嫌気も差していた。

 きっとキリコも同じような気持ちなのだろう。

 2人の会話は極端に減っていた。


 変わらないのはビクニとケンだ。


 ケンは最初からユキを観察の対象として見ていた節がある。

 ユキが抜けても、妖魔という対象がいる以上、退屈はしないはずだ。

 彼は自分の仮説を立証したくて、今、妖魔狩りを愉しんでいる。

 そういう意味で、彼はこの2件については不満をこぼしている。

「普通の妖魔かよ…」

 ケンの仕事に対するスタンスはビクニに近い。

 どこか他人事のように達観して見ている部分がある。

 バックアップだからというのも理由の一つだが、大方は彼の性格によるものだ。

 まだ17歳、高校には在籍しているものの、ほとんど通っていない。

 通っていればユキの先輩となるのだが、中高一貫校でありながらユキにケンが先輩だという意識がないのは、学校内で会うことがないためなのだろう。


 解らないのはビクニだ。

 まったく変わらずに妖魔を狩り、ユキの話すらしない。


 考えてみれば、カイトはビクニの事をよく知らない。

 カイトがARKに連れて来られた頃からいた。

 歳取った印象も無い。

 ココに来て8年…ビクニがARKの一兵隊であるはずはない。

(そもそも、あの女は…何者なんだ?)




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